第4話

「他の構想は?まさか、トキトメ能力のヤツ一本って訳ないよね」

 呆れ顔のままササキは言う。

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。オレの脳とメンタルに回復の為の時間をくれ」

「大げさだな。ちょっと同級生に性癖がバレたくらいで」

「せ、せ、せ、性癖ちゃうわ!」

「気にする事ないよ。どの道オザは私にとってアウトオブ眼中なんだし」

「アウトオブ眼中……」

 オザの半開きの声帯からこぼれる声は弱々しい。

「あ、ゴメン、ショックだった?」

「べ、ベつにショックじゃねーし」

「でも、ほらね。やっぱりこうやって話したり、もしくは掌編でも一本書ききったりする事って大事でしょ? 自分の中だけにとどめている物語には誰も何も言ってくれない訳だし」

「それはそうかも知れないけど……」

「うん。一本書いてみなよ。それを誰かに読まれるっていうのは、最初はそりゃあ恥ずかしかったり照れくさかったりするものだけどさ。でも、今日、既に無知も性癖も私にバレちゃったんだから、今日以上にハズい事なんてないよ。大丈夫、オザが書いた一本を今度私が読む時は、今日の恥ずかしさよりマシなハズ」

「分かった。書いてやろうじゃんか。ササキがビックリするような世界観と展開で、予定調和のヨの字もない傑作を読ませてやる!」

「あ、そうだ。山田パイセンの作品にオザは予定調和って批評をしてたみたいだけどさ。予定調和って、構成力と文章力の基礎がしっかり出来てないと書けないから。以前に、山田パイセンが言ってたけどさ、現実世界は偶然が重なりに重なってあり得ないほど偶然が重なり過ぎても、それが紛れもなく現実だからリアリティが損なわれることはない。でも、フィクションの物語の構成はキッカケの偶然が一つあったら、その先は必然を重ねないとリアリティを生む事が出来ないんだって。そのリアリティはともすれば予定調和に見えてしまうけど、不自然を消す事で読者にツッコミをさせずに作品世界に没頭させるんだよ」

「で、でも……」

「そして、他人の価値観や自分にとって新しい世界に対する初手が常に否定の人間には、傑作は書けないって」

 ササキの言葉にオザは言葉を詰まらせる。

「そしてさ、アタマの中にモヤモヤとある状態の物語は常に傑作なんだってさ」

「それはどういう事?」

「これは小説を書く事に限らないそうだけどね。あらゆる創作物は頭の中にある段階……、フワフワと一つ一つのアイディアが形を為さないまま無限の可能性を持ったままに漂っている状態の時は間違いなく傑作なんだって。そのモヤモヤを一つ一つカタチあるモノに落とし込んでいく作業の中で、その傑作は凡作に、あるいは駄作に成り下がってしまうんだって」

「それも山田パイセンの受け売りかよ?」

「まーね。でも、そうだなって思うよ。ホント、書き切った時の嬉しさと、それを読み返した時の落胆のジェットコースターみたいな落差はマジヤバいし」

「そーゆーものか」

「そーゆーものよ」

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