第3話

「だからな、主人公は対象に接触する事で超能力を使う事が出来るって設定なんだよ」

「天才くんの練っている設定にしてはありきたりじゃない? 制約のある超能力なんて日本の創作物の中には溢れかえってるよ?」

 伏し目がちに構想を話し始めたオザをからかうようにササキは言う。

「……、カレーだよ。カレー」

「ん、何なに?何言い出したのこの人」

「制約のある超能力って設定はカテゴリなんだよ!オカンの作るカレーもココイチのカレーもナマステ・タージマハルのカレーも全部カレーってカテゴリだろ? でもみんなそれぞれに違った個性があって、それぞれにファンがいたり愛されたりしてる、だろ? 制約のある超能力も料理の仕方次第で特別な一品になる。ありがちな設定も他の設定との組み合わせ次第で唯一無二の名作に昇華できる。どう?間違った事言ってる、オレ?」

「あー、ナマステ・タージマハル、美味しいよねー。あのネパール人がやってるナンの大きいお店でしょ? しばらく行ってないなー」

「今、話してるのはそういうんじゃない」

 憮然とした顔でオザは言う。

「はー、オザって、マジモテない君だよなー。こういう時は『それなら、続きの話はナマステ・タージマハルでしようか』とか言って奢ってくれなきゃ」

「はぁ?なんで奢らなきゃなんねーんだよ!ざけんな」

「ハイハイ。オザにはそんな事期待しねーよ。それで、そのありきたりな設定に何を組み合わせて天才的な作品にするっていうの?」

「あぁ、でも、マジでパクんなよ?」

「パクんねー。パクんねー」

 ササキは左手でハエを払うような仕草をしながら言った。

「まず、相手に接触する事で使える超能力というのはだな、相手の時間を止めてしまうという能力だ」

「マジ?」

 ササキはそう言いながら真剣な目でオザの目を見つめる。

「マジだ」

 オザは真っすぐに見つめてくるササキの目線に驚き、咄嗟に目線を外す。

「ぶふーっ!」

 ササキは吹き出した後に大声を上げて笑い出した。目尻には涙が浮かんでる。

「やりつくされてる超能力じゃん!トキトメとかないないないない!」

「ちょ、ま、そこまで笑う事はないだろう!」

「オザはさ、マンガもアニメも見ないって言ってたけど、まさか、それが本当だったとは!マジかー!」

「え、なに?マンガやアニメでやりつくされてるの?」

「イヤイヤ、でも、マンガやアニメやその他のトキトメ系の作品に一切触れないトコからそれを発想出来たんならスゲーかもしんない。うん、スゲースゲー!」

「なんだよ、それ。褒めてんのかよ」

「でも、アダルトビデオの人気ジャンルにあるらしいよね、トキトメって。オザのこのアイディアがそこからの着想だったら引くけどね」

「えっ……」

 オザの目が泳ぐ。

「え、キモっ」

 ササキは机に腰を掛けたまま少し後ずさる。

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