第2話
「山田パイセン優しいなぁ。実績ゼロの後輩に生意気言われてなお、その後輩の面倒をみてやろうってんだから、もう、パイセンは聖人だよ。山田聖人、セイント山田」
自分が部室に着く直前の山田とオザの顛末を聞いたササキはそう言った。
「あぁ。パイセン、マジ聖人。オレならキレてる」
オザは誰かの忘れ物のタバコを遠慮なしに燻らせる。今もササキが部室にきてから三本目のタバコを咥えている。
「山田パイセンは将来、出版社に入って編集者をやりたいらしいよ。だから、書かない作家に書かせる練習としてオザにも接しているのかも知れないけどね」
「なんだよ、それ。練習台かよ。なら、もっと好き勝手言わせてもらおう」
「後輩としてそれはどうかと思う。……、それに未だに一本も書いてないってマジ?」
「え、マジだよ?」
オザはさも当然と言い放ち、キョトンとした顔をササキに向ける。
「はぁー。山田パイセン、マジ聖人。実績ゼロなのに天才肌ぶって偉そうな後輩にキレないなんて人間出来過ぎ」
「へへへ。そりゃ、オレのアタマん中にある構想は今のところオレしか知らないからな。未だ世界が知らない天才作家なのがオレで、オレだけがそれを知ってるんだ。天才肌ぶってるんじゃなくて、天才なのが滲み出てしまってるだけだ。山田パイセンだっていずれオレという天才を後輩に持った事を誇るだろうさ」
「うーわっ、マジウザ。マジクソ。マジヤバい」
「ササキ、オマエこそ文芸部の端くれのくせに罵倒に語彙が無さ過ぎ」
「あのね……。じゃあ、その構想ってのを話してみなよ」
ため息まじりにササキは言う。
「それはあれだよ。アイディアって知的財産なんだぜ? ササキにそのアイディアをパクられる可能性だってある」
「パクらねーよ!クソが!」
そう言うや否や、ササキはオザの傍らからタバコを取り上げ一本を咥えて火を点けた。
「ササキ、タバコ、吸うんだ……」
それを見てオザはボソリと呟く。
「なに?女子に幻想を抱いちゃってる感じ? もしかして、オザって童貞?」
「どどど、童貞ちゃうわ!」
机の上に座って片膝を立てた佐々木のスカートの裾から目を逸らしながら、オザはそう言った。
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