07:似たもの同士

「ふぅ⋯⋯」


 家に帰った私はシャワーを浴びたあとにベッドへダイブする。


 前の家にはなかったふかふかで、大きなベッドに。


「私⋯⋯あんな風になったの初めてだなぁ」


 男の子に興味をあまり持たずに生きてきた私。たまにショタと呼ばれるような男の子に癒されることはあっても自分と一緒になる人の事まで考えた事がなかった。


「これが、運命ってやつなのかな」


 そういえば聞いたことがある。インキュバスって元々は夢の中に現れる悪魔で、その人の理想の姿で現れるって。


「理想とか考えたことなかったけど、ああいう子がタイプだったのかな、私」


 ふわふわとした、男の子には似合わないと思われたハーフアップ。紫に近い明るめの髪色。ぷっくりとして、触ったらもちもちしていそうなほっぺ。


 小さな身長に、小さな手足。


 更にインキュバスであることを示すようにぴょこっと生えた可愛い尻尾。


 ⋯⋯ダメだ。リンくんのことを思い出すたびに可愛いって感情で溢れてくる。


 まだ会って1日も経っていないのに。


「うん、どう考えても同じ思考になっちゃう。

 諦めて寝よ!!」


 そう思い、布団を被る。


 それでも頭は回転を続け、いろいろなことが浮かんでくる。


「⋯⋯そういえば、うめちゃんが調べとけって言ってたっけ」


 そんなことを思い出してしまった。


 そして、調べてしまった。


 出てくるのは私の知らない知識。


「なっ、なななななななな!?

 なにこれえええええええ!?!?」


 ハグなんて、まだまだ序の口で、最後にある行為はとてもじゃないけど口に出せないものだった。


「み、みんなこんなことやってるの⋯⋯?」


 そう思うと、少し怖くなってくる。


 ハグですら死にそうなほど恥ずかしかった私がこんなことができるのかって。


「あっ、でも、物事には順序がある⋯⋯って書いてある」


 内容をしっかり読むと、最終的にはそういったことをするけれど、それに至るまでに順番があり、デートに行ったり、最初はハグやキスなどの軽めのスキンシップから始めていくなんて書いてある。


 ⋯⋯うめちゃんの言う通り、ハグが軽めのスキンシップって書いてある。お父さんやお母さん、なんで教えてくれなかったのかな!?


「⋯⋯まぁいいや。知ったからってそれが実行できるわけじゃないし」


 ⋯⋯リンくんもこういうことしたいと思ってるのかな。


「うぅ、考えるだけで恥ずかしい!

 今日はもう寝よ!そうしよ!」


 私は誰にも見られていないのにも関わらず、恥ずかしさを隠すように布団を被って眠りについた。



「えへへ、今日はいっぱい褒められちゃった⋯⋯」


 ボクは今日のお昼からあったことを思い出します。


 隣に優しそうなおねーさんが引っ越してきて、いきなり可愛いなんて言われて。


 そこからなりゆきでエナジードレインまでさせてもらっちゃって。


「詩音おねーさんの精気、凄く美味しかったなぁ⋯⋯」


 実はインキュバスにはとある大事なルールがあります。


 大人になるまではエナジードレインをしてはいけないと。


 これには理由があって、昔、とある若いインキュバスが好きになった人にエナジードレインをしたら、理性で止められなくなってしまい、吸い殺してしまうといった不幸なことがあったそうな。


 直前に気付いてなんとか止めたらしかったけれど間に合わず、そのインキュバスは相当悲しんだそう。


 それでも相手の女性はインキュバスのことを恨むようなことは言わず、あなたに全部を捧げられて嬉しいとまで言っていたとか。


 それ以来、相性の良い女性を亡くさない為にも、エナジードレインの練習をしつつ、理性を保つための訓練といったものが行われるようになって行ったらしいけれど結局、年齢である程度カバー出来ることが判明してからは、特訓は意味が無いとわかりそれはなくなって、大人になるまではエナジードレイン禁止ということで落ち着いたんだとか。


 そして、吸い殺してしまうほど美味しく感じる相手。それが相性の良い人なんだとか。


 ボク達インキュバスは逸話にあるような夢の中に現れる夢魔とは違います。だけど、一部は似通った部分があるらしく、誰かの理想の姿で生まれてくると言われています。


 そして、ボク達を理想とする人とは相性が良くて、一目惚れのようなことになる⋯⋯そんな言い伝えがあるんです。


 そんな相性の良い人が隣に引っ越してきて、ボクのことをいっぱい褒めてくれて。


「はぅ⋯⋯おねーさんに会いたいよ⋯⋯」


 今まで褒められたことが殆どなかったボクにとって、おねーさんの言葉は麻薬のようなものでした。


 可愛い、そう言われるだけで胸の中がぽかぽかと温かくなって、幸せな気分でいっぱいになれるんです。


 それに、おねーさんとハグしたとき、美味しいと思ったのもそうですけど、不思議とずっとそうしていたいって思うくらい安心したんです。


 だから、ボクは一目惚れをしてしまったんだと、確信しちゃいました。


 おねーさんも満更でもなさそうだったし、期待しても良いですよね?


「明日、おねーさんとどこかお出かけとかしちゃったり⋯⋯えへへ、楽しみだなぁ⋯⋯」

「明後日から学校があるとか、考えたくないなぁ⋯⋯ずっと一緒にいたいな⋯⋯」


 ⋯⋯考えれば考えるほど頭の中はおねーさんでいっぱいになります。


「うぅ、だめだめ!今日は早く寝ないともったいないよ!」


 朝早めに起きて可愛いって言ってくれたボクを見てもらう為にも!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る