04:どこまでやったの?

「え、えっと、この子はお隣さんのリンくんって言うんだけど⋯⋯」


 私は打ち合わせなんか無かったというようなレベルで挙動不審になりながら、うめちゃんにそう伝えた。


「へぇ⋯⋯お隣さんってことはこの子もインキュバスなのかな?」

「そ、そうですよ!さっき挨拶にってお蕎麦を貰ったのでお礼に街を案内しようかと思ってて⋯⋯」


 不審に思われないようにする為か、リンくんも話を合わせてくれている。実際全部本当だしね。


「なるほど⋯⋯

 私の趣味では無いけどめっちゃ可愛いねぇ⋯⋯」


 ジロジロとリンくんを眺めたうめちゃんはおもむろにそう呟いた。


「えっ」


 まさかの反応のせいか、リンくんも少し驚いているみたい。受け入れられないと思っていたのかな?


「男の娘ってやつかな?あっちだと男性人気も高いけど結構女ウケも悪く無いから⋯⋯ってもしかしてw、既に?」


 既に?の問いはおそらく、手を出したのかという意味が含まれているんだと思う。もしかして、バレる要素が何かあったのかな⋯⋯?


「しょ、しょしょしょんにゃわけぇ!?」

「わかりやす過ぎるでしょ詩音ちゃん」

「それは流石にボクも分かりやすいと思います⋯⋯」


 二人からジト目で見られて目線を泳がせていると、うめちゃんがこっそりと耳元でとんでもない事を言い出しました。


「で?どこまでやったの?」

「へっ?」


 どこまで?どういうこと?


「どこまでってどういうこと?」

「え?いや⋯⋯その、あれだよ!え、エッチなこととかしたのかなって⋯⋯って流石にそれは早すぎるか」

「え、エッチなこと⋯⋯」


 そう言われて思い出すのは先ほどまでしていたハグ。思い出すだけで顔が熱くなっちゃう。


「まぁ、流石に箱入り娘の詩音ちゃんには出来な⋯⋯待って何その反応!?マジでしちゃったの!?!?」

「あ、あのねうめちゃん⋯⋯赤ちゃんって出来たらどうしたら良いと思う?」

「!?!?!?」


 私が恥を忍んで聞いてみるとびっくりしすぎたのかうめちゃんが倒れてしまいました。


「うめちゃん!?!?」

「えっ、大丈夫ですか!?」


 倒れたうめちゃんにリンくんが駆け寄ると、すぐにうめちゃんに何か起きていないか調べています。


 その姿はまるでお医者さんのようで、少し格好いいかも⋯⋯


「⋯⋯特に不審な点も無し。

 ただの気絶みたいですね」


 安心した様子でリンくんがそう呟きます。


 すると、少ししたらうめちゃんが起き上がりました。


「うめちゃん大丈夫!?」

「ん⋯⋯驚きすぎて気を失ってたのかな?」

「もう、びっくりしたよ⋯⋯」

「⋯⋯そ、それを言うなら詩音ちゃんもだよ!?

 もうこの子に手を出したの!?」

「え、えっと⋯⋯それは流れと言いますか⋯⋯」

「ぼ、ボクもやりすぎたかなって⋯⋯」

「ヤリすぎた!?!?」

「うぅ⋯⋯でも気持ちよかったんだもん⋯⋯」

「待って、友達のそういう話はあまり聞きたく⋯⋯いややっぱり聞きたいかも!!」

「ちょっ、ボクも恥ずかしいんですけど!?」


 目覚めたうめちゃんは捲し立てるように私が何をしたのか聞いてきます。さ、流石にあんなことしたなんて言えないよ⋯⋯


「じゃ、じゃあこっそりで良いから!」

「⋯⋯どうせ嫌だって言っても何回も聞いてくるんだよね」

「もちろん!」

「はぁ⋯⋯じゃあ、大きな声にはしないでね?

 あっ、その、リンくんも⋯⋯言っても大丈夫?」

「い、言いふらさないでくださいね!?絶対ですよ!?」

「もちろん!分かってるよ!」

「じゃ、じゃあ言うね?」


 私はうめちゃんの耳元でハグしたことを伝えました。


「⋯⋯は、ハグ?」

「うぅ⋯⋯恥ずかしい⋯⋯」


 私とリンくんが恥ずかしがっていると、うめちゃんはジト目で私達を見ている事に気付きました。


「⋯⋯えーと、二人に一つ聞いてもいい?」

「どうしたの?」

「何でしょうか?」


 私達はそう聞き返します。


「ハグで子供出来るって思ってるって本当?」

「当たり前だよ!」

「当然ですよ!」

「えー⋯⋯いや⋯⋯まじかぁ⋯⋯

 箱入り娘だとは思ってたけどここまでだったの⋯⋯?というかリンくんだっけ、この子もとか運命すぎない??」


 何やらぶつぶつと一人で呟くうめちゃん。

 一体何がいけないのでしょうか。


「な、何かおかしいの!?」

「そうじゃないんですか!?」

「うん、もう隠さないで言うよ?」

「うん!」

「はい!」


 うめちゃんはすーっと大きく息を吸うと、真剣な目で私達を見ます。この目をするときのうめちゃんは嘘は言いません。


「ハグ程度では子供は出来ないよ」


 うめちゃんの口から出た言葉は今まで生きてきて培われてきた私の中の常識を壊すほどに衝撃的な一言でした。


「出来ないの!?」

「出来ないんですか!?」


 二人揃って驚いていると、うめちゃんは頭を抱えます。


「むしろどうやったら出来ると思ったのか教えて欲しいんだけど!?保健体育の授業くらいやったことあるでしょ!?」

「保健の授業⋯⋯えっと⋯⋯寝てた⋯⋯てへっ」

「ボクはその辺りの授業は流し聞きしてました⋯⋯」

「二人揃って何なの!?!?

 良い!?まず子供を作るためには⋯⋯って私から言うのもなんか嫌なんだけど!?調べよう!ね!?ぐるぐる先生で見つかるからさ!ね!?」

「う、うん⋯⋯後で見てみる⋯⋯」

「い、一緒に見ても良いですか?」

「うん、良いよ!」

「ナチュラルにイチャついてるよこの二人⋯⋯」


 どこか呆れた様子でうめちゃんは私達を見ながらそう呟いていました。

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