02:おねーさんのことメロメロにしちゃう

 その子を見た瞬間、私の身体全体にとてつもない電流が流れました。


「か」

「か?」

「可愛い⋯⋯」

「ふぇっ!?」


 余りにも好みの見た目すぎて、口から自然と感想が出てしまいました。


 見た瞬間に分かる可愛さ。


 話に聞いていたインキュバスのイメージと違い、ゆるくふわふわした雰囲気。


 低い身長に、可愛げのある声。


 そして、ついさっきまで家事をしていたであろうエプロン姿。


 女の子にしか見えないほどに可愛い顔。


 それなのに、男の子っぽい体付き。


「ぼ、ボクが⋯⋯可愛い?」

「あ、その⋯⋯うん。

 すごく⋯⋯可愛いと思っちゃって⋯⋯」

「ほ、ほんとに!?変じゃない!?」

「うん、すっごく可愛い!」

「そんな事言われたの、初めて⋯⋯」


 そう言いながら涙を流す男の子。


「えっ!?何で泣いて!?」

「ごめんなさっ、その、嬉しくて⋯⋯」

「嬉しい?可愛いって言われるのが?」

「はいっ!だってみんなから、ボクみたいなヤツ男っぽくなくて絶対女の子にモテないって言われてて⋯⋯」

「⋯⋯まぁ確かに人によってはそうかもしれないけど、私は好きだよ?」

「⋯⋯え、えっと、その、ありがとう⋯⋯ございます」


 顔を真っ赤にして、もじもじとしながらお礼を言う男の子。もう、なんて言ったらいいのか、無理矢理言葉にするとすれば、庇護欲が物凄く刺激されると言えば良いのかな?


「えっと、それで、引っ越しそばを持ってきてくれた⋯⋯んですよね?」

「そ、そうだね」

「もし良かったら、自己紹介も兼ねて、お茶していきませんか?」

「え、でも家族とか⋯⋯」

「インキュバス族は大人になったら、一人暮らしをする人も多いんです。ボクも最近大人になったばかりだったりするんですよ?」

「ということは?」

「⋯⋯ボクだけしかいないので大丈夫、です」


 自分から誘っているからか、トマトのように顔を真っ赤に染め上げる男の子。


 もう、食べちゃいたいくらい可愛くて。


「じゃ、じゃあお邪魔させてもらおうかな?」

「は⋯⋯はい!」


 私がそう言うと、顔をぱぁっと輝かせながら家へと案内してくれた。



 男の子の家に入ると、私が知っている男の子の家とは違い、ファンシーグッズなどが多くあり、女の子の部屋のような構成になっていました。


「可愛いものが大好きなのかな?」

「はい!みにかわとか、しなもろーるんとか大好きなんです!」


 そう言って、リビングにあったお気に入りであろうぬいぐるみを抱き上げ私に見せてくれる男の子。


 可愛い子に可愛い物とか反則すぎるにも程があると思うんだけど。女なのに可愛さで負けている気がするよ。


「いや本当可愛いなぁ⋯⋯」

「うぅ⋯⋯」


 ニヤケそうになっているのを頑張って耐えてる。可愛い。


「あっ、そうだ!そういえば自己紹介がまだでしたね!ボクの名前はリン、リンです!」

「私は鈴代詩音、呼び方は好きにしてくれて大丈夫だよ⋯⋯って話逸らしたね?」

「だ、だって⋯⋯言われ慣れてないんですよ!恥ずかしくて死んじゃいそうです!」

「ふふっ、そんなところもかわいいね」

「も、もうっ!

 これでもボクだって立派なインキュバスなんですよ!おねーさんのことメロメロにしちゃうことだって出来ちゃうんですから!」


 ぷりぷりと可愛く怒るリンくん。インキュバスがメロメロにしてくるって⋯⋯や、やっぱりエッチな事とか、なのかな?興味があるような、無いような⋯⋯


「ど、どうやってメロメロにしちゃうのかな?」

「⋯⋯さ、誘ってるんですか?」

「そ、そういうわけではないけど⋯⋯リンくんならいいかなぁと思わなくもないと言うか⋯⋯」


 それにこんな可愛い子となら、結婚も⋯⋯ありかななんて。⋯⋯って何考えてるの私!?


「じゃ、じゃあ、良いんですね?」


 私が心の中できゃーきゃー言っていると、リンくんは少しずつ近付いてくる。


 こ、このままだと、私⋯⋯


「ぎゅー」


 リンくんは私の前に来ると、ハグをしてきた。


「うひゃぁ!?」


 初めて男の子とこんなに密着しちゃった!やばいやばいよ!思っていた以上に柔らかくて、でも意外と力強くて⋯⋯しかもなんか良い香りするし!?


 そんな事を考えていたら急に身体がびくっと反応し始めてきた。


「ま、まってなんか、へんっ!」


 リンくんと触れ合っているところが急に熱くなって、気持ち良い。でも、それと同時に私の中から何かが抜けていくような感覚と同時にぱちぱちと何かが弾けていく。しかもそれが妙に気持ち良くて、変な気分になってくる。


「(男の子とハグするのってエッチだなーとは思ってたけどこんなに刺激が強いものだったの!?)」


「⋯⋯おねーさんが良いって、言ったんですよ?」

「だ、だってぇ⋯⋯」

「ふふっ、おねーさんこうやってぎゅーってするのに弱いんですね?」

「そ、そんなわけないよ!」

「でも気持ち良いんですよね?」

「⋯⋯そ、それは」


 気持ち良い。それを認めたら負けた気がする。


 そう考えていたら——


『大丈夫』


 脳に染み込むような甘い声でリンくんは囁く。


「ふぇっ」


 身に覚えの無い感覚に変な声が出てしまう。


『素直になっても大丈夫だよ、おねーさん』


 そっか、素直になっても⋯⋯


「き、気持ちいい⋯⋯」

「ボクもですよ、おねーさん」


 リンくんもそう言うと、私達はずっとハグをし続けた。



 あれからどれだけ時間が経っただろう。お互いの心臓の音だけが響く部屋の中で、頭は茹で上がるくらいに熱を持ってきて、まともな判断なんて出来やしない。


「⋯⋯」


 あれからずっと、リンくんは黙って私にハグをし続けている。いつ解放されるか分からない甘い気持ち良さのループに頭がとろけそうになる。


「ふー⋯⋯ふー⋯⋯」

「りん⋯⋯くん?」


 何やらリンくんの息が上がってきている。


「お、美味しすぎて⋯⋯止められない⋯⋯です」

「おいしい?」


 聞き慣れない単語が聞こえてきます。


「おねーさんの精気、おいしすぎますぅ⋯⋯」

「精気⋯⋯もしかして」

「エナジードレイン、です。おねーさんもなんとなくは知ってますよね?」

「エナジードレイン⋯⋯」


 うめちゃんが言っていた。エナジードレインされると凄く気持ちいいらしいって。


 や、やっぱり私、しちゃったんだ。


 あ、赤ちゃんも出来ちゃうのかな?


「⋯⋯責任、取ってくれる?」


 リンくんを抱きしめながら、私はリンくんの耳元でそんな事を口にしていた。

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