第41話(後話)桃源郷

「二人とも、王国のために最期まで私に仕えてくれてありがとう」


 綺麗な女王は結局六十歳で死ぬまで即位したアル。生涯独身を貫いたアルネ。おそらく、ケイのことが好きだったアル。見る目のある王だったアルヨ。でも、隙あらば、ケイに赤褌を履かせようとするのだけは駄目アルネ。そのことで、よく喧嘩したアルヨ。ケイを変態にしないで欲しいアル。


「お兄ちゃん。私先に逝くね」


 病から回復したケイの妹は七十歳まで生きたアル。初めて会った時、私の赤い瞳を褒めてくれたアルヨ。ケイと同じアルネ。あの時は嬉しかったアル。


 円卓の魔導士ラウンデルズを束ねて、教会の六邪神を倒した立派な妹アルネ。あの時の六人はカッコ良かったアル。例え何千年経っても、ずっと忘れないアルヨ。あれ? 六人だったアルカ? 一人思い出せないアル。まあ、いいアル。私とも仲良くしてくれた、できた妹だったアルネ。


「良かっただべ。この世界に一人取り残さないで」


 ダフネは千歳を迎えた時、十回目の転生は果たせずに、そのまま息を引き取ったアル。それでもンデラは安心したような顔をしていたアル。とても重い言葉アルガ、とても軽い服装アルヨ。


 顔だけは良かったンデラも百歳を超えたアル。髪は全て抜けて、皺くちゃアルネ。ただ、歯は白くて、腹筋も割れていたアルヨ。この後は『ダークライト』に入ったみたいアル。変態仲間のグラヴィティウス姉妹も健在アルヨ。私はあそこが苦手アル。だから、その後のことは分からないアルヨ。


 それにしても、私とケイが一緒に育てた五人の大魔導士のうち、三人が変態アルヨ。まるで、私とケイまで変態みたいアルネ。とても遺憾アル。あれ? 五人だったアルカ? まあ、いいアル。愛弟子の顔は、例え何万年経っても忘れないアルヨ。


『少年たちよ。こんな儂らを最期まで弔ってくれるのは君たちだけだ。感謝するよ』


『ケイさん。アネマラさん。さようなら。二人とも元気でね』


 ウォルフとアコネは、あの騒ぎから五百年生きたアル。五百年間ケイはまた暴走しないようにと定期的に経過を観てきたアルヨ。ウォルフは、もう長くはないと五百年言い続けたアルガ、最後は二人とも光の玉になって、同時に薄らと消えていったアル。


「アネマラ。僕たちのここでの役目は終わった。コーロー山のあの洞穴で一緒に過ごさないか?」


 新たな『大魔導師』が育った後、私とケイは彼女に託して、五百年住んだ王宮を後にしたアル。最後は王国のみんなが泣きながら送ってくれたアルヨ。私、人間が嫌いだったアルカ? そんな昔のこと知らないアルネ。



 五百年前に私とケイが住んでいたあの洞穴は、コーロー山の奥の深い霧を抜けた先にあるアル。そこは、魔獣も人間も寄りつかないところアルヨ。昔、人間に寝床を荒らされて、困った私が見つけた秘密の場所アル。桃やすももがたくさん実る、のどかなところアルネ。


 ケイは昔と変わらない殺風景な洞穴の奥に祭壇っぽい物を作ったアルヨ。そこには、一本の薬瓶と一着の服を大事そうに置いたアルネ。


 薬瓶は約束の日に私が流した「嬉しい涙」アル。ただ、その服は綺麗な女王の前で、私が涙と鼻水で汚したものアルヨ。何故アルカ? ただ汚いだけアルヨ。ケイは理由を教えてくれないアル。すごい魔法で保存まで頼んだアルネ。


 ケイはいつも嬉しそうに、その薬瓶と服を見てるアル。昔はその顔で毒を見ていたアルネ。だらしない顔アルガ、その顔を見ていると私も嬉しい気持ちになるアルヨ。



「ケイ! 驚くアルヨ。今までになく美味しい桃が取れたアルネ」


「肥料を変えてみたからね。ところで、その桃はどこにあるの?」


「はっ!? 私が全部食べてしまったアルネ。ごめんなさいアル」


 父、母、ごめんなさいアル。娘は何千年経っても、おっちょこちょいなのだけは治らなかったアルヨ。そんな私と一緒にいてくれるケイ、いつもありがとうアル。


「いいよ。アネマラ。まだ食べられる? 今日は特別な日だ。今日ぐらいは僕にご飯を作らせてよ。知らないかもしれないけど、僕のご飯は元気が出るし、美味しいんだよ」


「特別な日アルカ?」


「まあ、覚えていないのも無理はないよ。ちょうど一万年前のこの日、死にかけた君に出会ったんだ。僕の運命が変わった大事な日だ」


 そんな昔の記念日をよく覚えているアル。さすがアルネ。それに比べて私はそこまでは気付かなかったアルヨ。駄目な女アル。


 でも、あの日のことは鮮明に覚えているアル。あの日、私は世界に色を見出したアル。ケイは世界に光を見出したみたいアルネ。この記憶は私の大事な宝物アル。


 ケイはあの時と変わらない姿をしているアル。いや、違うアルネ。あの時は泥だらけのボロボロだったアル。そして、私は嘔吐物を垂れ流した上、裸ん坊だったアルヨ。……やっぱり、ケイはずるいアルネ。


「ケイ、お願いがあるアル」


「何でも言ってよ」


 ケイの笑顔もあの時から変わらないアル。ぎこちない優しい笑顔アルヨ。


「傷跡を舐めたいアル」


「今日もだね。いいよ」


 一万年経ってもハシタナイのだけは治らなかったアルヨ。私がおっちょこちょいな事をしようが、涙と鼻水だらけになろうが、私がいくら駄目な女になっても、笑ってそばに居てくれるアル。


「ケイ、いつもありがとうアル」


 今日は私から、ありがとうって言えたアルヨ。





【あとがき】

 これで物語は本当におしまいです。この作品は私の長編処女作。私自身が薬師なので伝えられる事をちょっとだけ作品に込めています。作家歴二ヶ月、拙い文章だと思います。ですが、研鑽して参ります。別の作品も書きます。今後とも宜しくお願いします。


 また、この作品は「電撃の新文芸5周年記念コンテスト」に応募しています。応援して下さる方は是非評価していただけたら幸いです。


 最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。コメントや☆、♡、PVなど皆さんの反応のお陰です。とても励みになりました。では、また別の作品で。


 雨井トリカブト

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薬師の仙術無双~パーティーを追放された魔力ゼロの薬師は純白の仙女と出会い仙術修行を始め、やがて国を救って大魔導師と呼ばれる。一方、追放したパーティーは勝手に没落していった~ 雨井 トリカブト @AigameHem

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