彼女の秘密

@AKIRA54

第1話 彼女の秘密


何?秘密を主題にした『小説(ショート・ショート)』のアイデアが浮かばないの?ヘエ!千文字程度で完結したいのね?『ジャンル』は?『笑い話(コント)』それとも『怖い話(ホラー)』。『推理小説(ミステリー)』は難しいわね!

どちらでもいいの?そう!じゃあ、面白くないかもしれないけど、小噺をしてあげるわ!

時代や場所は、特定しないでね!まあ、昔、昔ってことにしておくわ!

ある男、F氏は、旅行雑誌に記事を書いているフリーの記者。その雑誌の編集長に記事を頼まれた。四国の山の中に、面白い『神楽』と、それに付随する、特殊な神事があるから、取材に行って、記事になるなら、書いてくれ!と……

F氏は、二年前に離婚していて、独身。まだ、三十半ばを迎えた年齢よ。だから、身軽だったから、ふたつ返事で新幹線に乗ったのよ!

四国に渡って、レンタカーを借りて、山道を目的地に走らせた。本当に山の中の集落で、過疎化が進み、その神事をする村には、ほとんど民家がなかったの。ただ、山を降りた、元村人たちが、その時期だけ集まり、『神楽』と『神事』を行っていたの。

立派とも言い難いけど、由緒のありそうな社殿の前で、連絡を入れていた、元村人の代表に会って、神楽の由来を訊いたのよ。ただ、その神楽のあとの神事については、秘事であることから、特別な取材。テレビやその他のマスコミには、決して開帳しないものだ!と言われたそうよ!


夜、かがり火を炊いて『神楽』が始まった。舞台ではなく、社殿前の庭で。よくわからないけど、天狗が出てきたり、翁(おきな)や山姥(やまんば)、狗神が登場して、踊るのよ!最後には、観覧の村人も酔っ払いのように、その踊りの中に加わって、総踊りになった、と思うと……、突然、松明が一陣の風によって吹き消され、辺りは闇の中!あれだけ踊り狂っていた村人も、天狗も翁も山姥も狗神も、気配がなくなっていたのよ……


季節は真冬よ!山の中だから、四国といえども、氷点下。かがり火が消えると、急に寒さが襲ってくる。

やっと暗闇に眼が慣れた頃、『コーン』と、いう音がする。『鹿威し』の竹筒が石に当たる音よ!

不思議に思って、ポケットのライターに火を灯し、音のする方、社殿の奥に進んで行く。周りに人影はない!社殿の奥にもう一つ、別の神を奉る別院があって、その脇に、山肌を流れる、小さな滝が見えた。その滝の水の流れが、竹筒に流れ込み、鹿威しの音を奏でているの。

でも、F氏が見たものは、それだけではなかったの。滝壺に当たる場所に、白い人影があり、何と!滝に打たれている!氷点下の夜に!しかも、黒髪が、その肩から胸の辺りに垂れ下がっていて、白い襦袢の胸は、大きく膨らんでいる。夜目にその一部がこぼれて見えているの!まだ若い女性のようだったの……


ゴーンと、お寺の鐘の音がして、滝行をしていた女性が、ふらふらと滝壺から出てきた。黒髪は顔を被っていて、よくわからないが、鼻筋は高く、形がよかった。濡れた襦袢のまま、F氏の前までくると、女性は、F氏の胸を掴み、何事かを伝えようとしたの。

側の別院に連れて行って、そこで、秘事の仕上げをしなくてはならない!社殿の中に、するべき神事が書かれた文書がある、と、そこまで言って、女は気を失ったの。

F氏は、気づいた。これが、神楽の後の秘事であることを……。それならば、続けなければならない!そう考えて、凍えるような女の身体を抱えて、別院へ入って行ったの……


別院の扉を開けて、驚く。板張りの床に、分厚い布団が一式。部屋の中は、暖かい、というより、外気の中にいたものにとっては、ぬるいサウナのように感じるのよ。まあ、おかげで、女性の身体が暖まってきて、血の気のなかった顔に生気が甦る。濡れたままの襦袢をどうしようか、と迷っていると、眼の前にひらひらと和紙が落ちてきたの。何か文字が書かれてある。その文字──文書──を読んでF氏は驚愕するのよ!それには、神事のことが書かれてあって、女性は神の依り代になっている。濡れた襦袢を脱がし、男女合体の儀式を朝までに終わらさねば、女は、鬼女となり、男を食いちぎる!逃げても無駄!もうすでに、男の匂いを女に降りた神は忘れない!

さあ、もう仕方ない!F氏は神事を行う決心をして、女の着物を剥ぎ取る。下着はつけていないから、若草の茂みが、薄明かりに見えたの。


ええっ?千文字どころか、一万文字になりそうだって?これからいいところなのに……!

じゃあ、省略するよ!結局、F氏はたぶんだけど、男女の行為をしたんだよ!布団に入ると、不思議な香の匂いに包まれて、あとは、夢の中の出来事のようだったのさ!女の顔も覚えちゃいない。朝日が差し込む頃、眼を覚ますと、誰もいない!勿論、自分は、スッポンポンさ!射精した感覚は残っているけど、一物は、キレイだったんだよ!

慌てて、服を着て外に出る。外にも誰もいない。元の本殿の庭にも、松明のあとも残っていなかったよ。仕方なく、F氏は、山道を歩いて下って、レンタカーを停めていた駐車場にたどり着く。だけど、知り合いはいない。案内人の元村人も名前も住所も覚えていなかった。

まあ、神楽は見たし、秘密の神事も……?適当に記事にしようと、レンタカーに乗って、その場を去って行きました!と……、めでたし、めでたし!

えっ!何処が秘密なんだって?あんた、これ、あんたの体験談でしょう?あんた、結局、記事にできなかったのよ、ね……

 それをどうして、わたしが知っているかって?それが秘密よ!

わかったでしょう?あんたが抱いた女がわたし!あの村人たちは、エキストラ。全て、お芝居よ!あんな神事は存在しないの!あの時の編集長はわたしの知り合いだし、ね!

なんで、そんな芝居をしたのかって?あんたが、前の奥さんに逃げられて、全く、腑抜けになっていたからよ!わたしは、あんたが独身の頃から、ずっと好きだったのよ!あの山村は、わたしの祖父の持ち山よ!神社の神主も親戚だから、まあ、手間はかかったけど、上手くいって、子供を授かったわ!そう、あの日わたしは、排卵誘発剤を服用して、妊娠しやすい身体だったのよ!

えっ?その時の子供はどうなったか?ですって?それは、本当に秘密よ!まだ、人間に化ける能力がないんだから……。



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