第5話 気まずい、帰り道


 帰り道、俺は見慣れた後ろ姿に追いつき声をかける。


「おーい」

「...なによ?」



 すると、相手つむぎは何故か目元を手で拭いながら不機嫌そうにゆっくりとこちらを振り返った。


「いや、今日昼放課お前俺のとこに来ただろ?」

「っっ。い、言っておくけどあの場は紅葉谷もみじやさんがいたから体裁を保つ為に、蒼と話したいから言ったけど本当は蒼の邪魔をしに行っただけなんだからね!?」


 俺の言葉に異様なほど反応し、まだなにも言っていないのに顔を真っ赤に染め唇を噛み、若干涙目でそんなことを口にするつむぎ。


「いや、そうじゃなくてな。これ、よほど急いでたのか去ってく時に忘れてたぞ。全く、どんだけ忘れ物するんだよお前はっ」

「あっ」


 しかし、俺がわざわざつむぎを追いかけて来た訳はそんなことを聞くためではなく、ただ昼放課につむぎが忘れていったお弁当箱を届ける為なので、つむぎの言葉に特に反応はせずつむぎへと手渡す。

 すると、つむぎは虚をつかれたような顔をしてしばらく固まった後にようやくそれを受け取った。やっぱり、今日変じゃね? こいつ。


「本当どうした、お前。こんだけやらかすのも珍しいのに、なんの反論もしてこないし...本当に熱でもあるのか?」

「さ、触ろうとするなっ」


 ここまでくるといつもの怒りも湧いてこず心配の方が勝ってしまい、俺はつむぎのおでこへと手を伸ばし熱がないか確かめようとするが、つむぎの手によってそれを振り払われてしまう。

 うーん、振り払われるのは通常時でもそうなんだがこいつ何故か今顔どころか全身真っ赤かなんだよな。やっぱり熱があるとしか思えないんだが...まぁ、振り払えるくらい元気があるならとりあえずは大丈夫か?


「まぁ、大丈夫ならそれでいいけど限界なら言えよ? おんぶして家まで届けるくらいならしてやるし。後で倒れられる方がよっぽど面倒くさいからな」

「っ、むしろいつもと違うのは蒼の方じゃないかしら? さっきから心配ばかりして一体全体どういうつもり?」


 軽く俺を睨むようにしながらそんな言葉を吐くつむぎ。


「いや、相手がいつもお前なら馬鹿にしてるところだが今日のお前は明らかに変すぎるからな。最早、怒り通り越して呆れの域に達してんだよ」


 対する俺は冷静に淡々とそう返す。


「そ、それでおんぶまでしてくれると?」

「俺、昨日も言ったろ? お前のことは嫌いだけど、なんでか知らないけどお前が元気じゃないとなんか調子が出ないんだよ。だから、本当に体調悪いならそれくらいは全然いい」

「...なによそれ、蒼のバカっ」


 どうせ昨日バレてしまったことだし今更言っても変わらないだろうと考え、俺が素直にそう伝えてみると何故かつむぎにそっぽを向きながら、軽く叩かれてしまう。理不尽である。というか、今のもいつもなら叩くにしろある程度正当な理由で叩いてくるんだが、今回のはあまりに理不尽である。おかしい。

 いや、大して痛くないからいいんだけど。


「...というか、大体蒼彼女いたじゃないっ。彼女いるのに私にそんなことして大丈夫なの?」

「へっ?」


 つむぎが目から涙を流しながら更に顔を赤く染め、手を震わせながらそんなことを叫ぶので俺は驚きを隠せず変な声を出してしまう。


「...と、というか、蒼のくせにいつの間に彼女なんて作ったのよっ!」


 すると、つむぎ自身も自分の行動のおかしさに気がついたのか慌てて、未だに目元に涙を浮かべつつ今の言葉を誤魔化すかのように続けてそんなことを言う。


「い、いや、つい最近だけど?」


 俺の方もつむぎのその迫力に圧倒されながらそう答える。なんか、本当に今日のつむぎは色々と心配になるな。


「...そう。じゃあ、紅葉谷さんと付き合ってるってのはやっぱり本当なのね?」

「......おぅ」


 ようやく少し落ち着いたらしいつむぎから更にそんなことを尋ねられ、俺は少し罪悪感に揉まれつつもポキポキと指を鳴らす和奏を思い出しそう返す。


「そう...良かったわね」

「あ、ありがとう」


 き、気まずい。別につむぎからしてみれば俺と和奏が付き合ってようがなにしていようが、どうでもいいだろうから嘘をつこうがいいはずなのになんだかとてつもない罪悪感だし、なんか色々と気まずい。

 なにこの空気っ。俺とつむぎの間で発生したことのない変な空気流れてんだけど、これ。


「じゃあ、せいぜい振られないよう私なんかの心配なんてしてないで彼女相手でもしてあげなよっ。じゃあね、お弁当はありがとう」

「おい、待て」


 本来は綺麗な目元を真っ赤に腫らし早口でそんなことをまくし立てると、去っていこうとするつむぎを俺はやや強引に引き止める。最早、いつもと違うなんてもんじゃない。


「っっ〜〜だから、触るなって言ってるでしょ? ...それともまだなにか用?」

「乗れ」


 目を回し額から汗を垂らしながらまた早口でそんなことを言うつむぎを無視して、俺は身をかがめると淡々とそう告げる。やっぱりこいつはどう考えてもおかしい。本人は自覚していないがほぼ確実に熱があるだろうし、なくても体調は最悪だろう。


「は、はぁ!?」

「病人はいいから乗れ」

「だ、だから、私は別にどこも悪く——」

「乗ーれって言ってんだ」

「わ、分かったわよ」


 頑なに断り続けてきたつむぎだったが、俺が折れないと悟ったのかブツブツ言いながらもようやく俺の背中へと乗っかるのだった。はぁ、病人のくせして変な所で意地張るなよな。


「はぁ、なんとか諦めついたのに、なんでこんなことに...」

「んっ? なんか言ったか?」

「うるさいっ。なんも言ってない」

「人の頭を叩くなっ。わざわざ運んでやってるのに理不尽すぎるだろっ」

「だって、蒼相手だし」

「納得っ。いや、全然納得じゃないけど納得」


 結局、その後いつもの2倍ほどの時間をかけてつむぎをおぶって家へと送り届けるのだった。


「全く...如月くんは悪い子だねぇ」


 まさか和奏につけられていたなど露ほどにも知らずに。



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 次回「ねぇ、如月くん。遊園地行こうか?」


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