第6話 ねぇ、如月くん。遊園地行こうか?
「やぁ、如月くん。おはよう。気持ちのいい朝だねぇ」
「...」
「あはは、挨拶したなのになんで逃げようとするの? というか、逃げるにしてもどこに逃げるというのさ」
「くっ」
つむぎを背負って帰った次の日の朝、いつものように教室へと到着した俺は和奏から放たれる厄介オーラを感じとり咄嗟に逃げようとしたが、和奏に襟元を掴まれてしまい逃亡に失敗した。
いや、確かに和奏の言う通り和奏はただ挨拶をしただけだし、どうせ同じクラスなのだ。逃げ回るなんて真似は出来ないだろう。
しかし、だとしても逃げなければという生存本能に近いものを感じとった俺はこの行動をとったわけだ。まぁ、結果としては逃げ回るどころか初手詰んでしまったわけだが。
「まぁ、とりあえず席につきなよ。話があるんだ」
そして和奏は笑顔のままそう告げる。ちなみに笑っているのは口だけで、目は一切笑っていない。多分、また和奏の縁談関係の話だろう。
「襟元を掴まれてるのにどうやって席に座れと!?」
「確固たる意志があればなんだって出来るんだよ。如月くん!」
「いや、和奏が手を離してくれれば全て解決する問題なんだけど」
「はー、全く如月くんは根性がないんだから」
和奏は飽きたようでため息をつきながらようやく俺の襟元から手を離す。
「...いい加減手が出るぞ?」
「やだー、こんな可愛い彼女に暴力振るうなんて如月くん最低」
「言ってろよ」
全く、誰が「可愛い彼女」なんだか。嘘情報しかないじゃないか。
「やだなー、私が如月くんの彼女なのは本当じゃん」
「そっちかよっ」
「だって、私はただの可愛いじゃなくて超絶可愛いだからね」
口が減らない奴である。それにどこまで本心で言っているのかも分からない。どこまでも真っ直ぐなつむぎとは真逆の存在である。まぁ、そんなだから俺も組むことが出来るのだが。
「で、話ってなんだ?」
「いや、話もなにもさ如月くん君さ、昨日柏木さんとお楽しみだったじゃん」
すると、和奏は冷え冷えとした声でそんなことを言う。
「...つけてたのか?」
「やだなー、私がそんなことするわけないじゃん。ただ、如月くんの背中を追っていただけだよ」
「つけてんじゃねぇか」
恐ろしい奴である。
「で、なにか弁明あるの?」
「弁明もなにもただつむぎの体調が悪そうだったから運んでやっただけだ。なにも責められるようなことはしていない」
「えー、ただ運ぶだけなら引きずれば済む話でしょ?」
「体調悪い奴を引きずって歩く鬼畜がどこにいんだよ」
「なるほど、正論だね。でも、私のお父様にはそれは通じない。早速、昨日帰るなり疑われて大変だったんだから」
「お前の親父もつけてたんかい!」
なるほど、血は争えないと言った所か。確かにこの様子だと昨日のこいつの発言もあながち嘘ではないな。
「うーん、お父様本人はつけてないだろうけど...探偵とかじゃない?」
「探偵を使って娘の彼氏をつけるとか異常すぎるだろ」
「あはは、それは否定出来ないかも」
和奏はカラカラと笑う。いや、笑い話じゃないんだが。最早軽いホラーなんだが。
「でも、ちゃんと如月くんに何度も警告はしたよ。私の彼氏役を演じるってことは本当に面倒くさいし危険だって。でもそれでも、如月くんは柏木さんを守る為に情報を求めて私と契約を結んだ。そのはずだよ」
「そんなことは言われなくても分かってる。契約を
「流石、如月くん。話が早くて助かるよ」
和奏は上機嫌な様子でそんなことを言う。
「昨日一晩中お父様にはかなーり説明したんだけどね、それでも疑われちゃった。だからさ、ねぇ、如月くん。今度の日曜日、遊園地に行こうか?」
「そんなんでいいのか?」
思ったよりも拍子抜けな話に俺は思わずそう口を挟む。
「いや、如月くん遊園地だよ。遊園地。カップルの聖地じゃないか。お父様の疑いもきっと晴れるよ」
「そんなにか!? そんなに遊園地って凄いか!?」
すると和奏がそんな風に熱弁するので俺は不安になってそんなツッコミをする。こいつ変な所で純粋というか、乙女なんだよな。まぁ、でもよく考えればこいつの親なんだし話を聞く限り本当に同系統のタイプだろから、こいつが大丈夫って言ってるってことは大丈夫か。
「まぁ、話は分かった。日曜日に予定を空けておけばいいんだな?」
「いや、話はそう簡単じゃないよ」
「なんだ、やっぱり違うのか」
「全く、如月くんは何も分かっていないよ。いい私達が行くのは遊園地なんだよ。生半可な格好じゃ周りのカップルオーラにすぐに潰されちゃうよ!」
「なにを言ってるんだ、お前」
和奏は至って真面目な顔でそんなことを言う。さっきからこいつは本当に遊園地をなんだと思ってるんだ。
「とーにかく、ちゃんとオシャレしてきてねってこと。如月くんってそういうの絶対にしなさそうだから」
「し、失礼な奴だな。...俺だって嘘とはいえデートくらいオシャレはする」
「確実に嘘じゃんっ。私が言わなきゃ絶対にしてこなかった顔してるじゃん。いい、絶対にオシャレしてくるんだよ??」
「分かった。分かったから、揺らすのはやめてくれ」
俺の肩をゆすりながら和奏は何度もそう繰り返すので、俺は慌ててそう口にしなんとか止めて貰う。
「えーと、じゃあオシャレをして日曜日遊園地。これでいいか?」
「それでオッケー。詳細情報はまた後でラインで送るから確認しておいて」
「分かった」
「じゃあ、そろそろ朝のSTも始まるし席に戻るね」
「おう」
「あと、言い忘れてたけど日曜日はもう1人連れてきたい人がいるから、頭の片隅にでも入れといて」
「えっ?」
「じゃあねー」
「お、おい」
最後にとんでもない爆弾発言を残して和奏は自分の席へと帰っていってしまうのだった。
いや、別に俺的には全く構わないがそれはいいのか? 和奏の父の疑いを晴らす為に遊園地に行くのに2人じゃなかった意味なくないか? というか、そもそも誰だ? とその後ST中も色々と考えた俺だったが、和奏の考えを理解することは困難だし、和奏には和奏の考えがあってのことだろうと結論づけ特に気にしないことにした。変な話ではあるが。
まぁ、どうせ当日なれば今までみたくなにかしら説明してくれることだろうからな。とはいえ本当に誰なんだ?
→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→
次回「なんで、こいつがここにいる?」
この話そんな長い話じゃないから割とあっさり終わるかも。良かったら星や応援お願いします。今日は頑張ってもう1話投稿する所存です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます