お互いに嫌いと公言している美少女幼馴染の為に陰で色々と手を回していたことが、幼馴染本人にバレて今まで築いてきた関係が壊れた...

タカ 536号機

第1話 幼馴染の為にしていたことがバレる 前編


 朝の早い時間帯、俺はとある物を手に持ちながら早足で目の前をゆっくりと歩く人物へとなんとか追いつき声をかける。


「おい、つむぎ!」

「なに? 朝っぱらからあおいの顔なんて見たくないんだけど」


 すると、相手の柏木 つむぎは見るからに不機嫌といった様子でそんなことを言いながら振り返る。


「俺だって別に朝からお前の顔なんて見たくねぇよ」


 そんなつむぎの言動にムカついた俺は反射的にそう言い返す。


「じゃあ、なんでわざわざ早歩きで追いつてきてまで声をかけるのよ」

「それはお前が弁当箱を忘れるからだろうがっ。さっき出る時に麗子さんに頼まれたんだよ! お前が忘れたせいで俺がわざわざこうして届けるハメになってんだからな! はよ、受け取れこのバカ女」


 未だに不機嫌な様子のつむぎに俺は怒りをぶつけながらお弁当箱を手渡すと。つむぎは黙ってそれを受け取った。


「誰がバカよ。誰が! 大体、蒼の方がよっぽど忘れ物してその度に私が届けてるでしょうがっ。そんなことも忘れて偉そうに口を開かないでよ」


 しかし、その途端に黙っていたつむぎがそんな反論を繰り出してくる。


「今日の事は今日のことだろうが。まずは感謝の一言でも述べてから言え」

「はいはい、どうもありがとう。自分に都合の悪いことはすぐに忘れるバカ男」

「感謝は目を見て言えよ。いつまでも過去あったことをネチネチと引きずるアホ女」

「「誰が、アホよ(バカだ)!!」」


 お弁当箱を届けに来ただけだったはずなのだが、結局いつものように口喧嘩に発展してしまいお互いに睨み合う俺とつむぎ。


「とーにかく、今日一日はせいぜい俺に感謝して生きることだな」

「じゃあ、蒼は一生私に感謝しながら生きることね」


 これ以上こいつの顔を見ていたくないと思った俺がそう言うと、つむぎも同じことを思ったのかそう吐き捨てると早歩きで去っていくのだった。はぁ、朝から無駄にカロリーを消費した気がしてならないな。


「いや、朝からお前ら本当に元気だな」

「...春樹いたのかよ。いたなら声をかけてくれれば俺も少しはイライラを抑えられたのに」


 後ろから呆れたような声が聞こえ振り返るとそこには同じクラスの友人である鈴木 春樹が立っていた。


「いや、あの空気感の中平然と話しかけられる奴は最早ただの変人だからな!? しかも、俺柏木さんと関わりないし」

「うん、まぁそうだな」


 思ったよりも正論を言われてしまい俺は頷くことしか出来ない。


「というか、毎度思うがよくお前あの柏木さんと喧嘩なんか出来るよな。柏木さんなんて普段感情出さなすぎて狙ってる男子達からは「攻略不可の柏木氷姫」なんて呼ばれてるんだぞ?」

「あいつのどこかが姫様なんだよ。そしてあの性格でどうやって氷がつくんだ。氷がっ」


 確かに一応つむぎの容姿は悔しいことにそこそこ...かなり...とても整っていて、見た目だけなら美少女に分類される。しかも、雰囲気はとても落ち着いたものを漂わせているので、パッと見クール系の美少女に見えなくはない。

 だが性格はと言えば一度口を開けば俺に対する文句三昧。ありとあらゆる罵倒を声にし目だってずっと睨みつけるような状態である。まぁ、性格に関して言えば俺も同じような感じなので自分のことを良いとはとても言えないのだが。

 とにかく、「氷姫」なんて名付けた狙っている男子達の目は節穴かなにかなんだろうな。


「あー、お前が今なにを考えてるかはある程度想像つくけど何度も言うようで悪いけど柏木さんお前の前以外ではまーったく感情出さないし、喋らないからな? あれがデフォルトじゃないのよ」

「じゃあなんで俺に対してあんなに突っかかってくるんだよ」

「お前が言えたことじゃないような気がするんだが...前お前が言ってたように幼馴染だからじゃね?」

「幼馴染ねぇ」


 確かに春樹の言う通り俺とつむぎは幼馴染である。家がお隣さんで今日のようにつむぎが忘れ物をすればつむぎのお母さん(麗子さん)が俺に頼むくらいには長い年月を重ねてきた。とはいえ、つむぎとは初対面からあんな感じだった気がするのでそれも理由としては違うような気がするのだが。


「まぁ、でも俺みたいな一般人からしたらあの柏木さんと対等に話せるだけ羨ましいてなもんだがな」

「お互いに罵り合ってるだけなんだが...本当に羨ましいか?」

「いや罵り合いは勘弁って言うか俺がお前だったらあんな美人な幼馴染がいたらあんな態度取らないからな? 美しい花を愛でるように優しく接するから」

「美しい花は花でもバラだけどな。それも特大のトゲつきの」

「うーん、お前もお前でなんで柏木さんのことになるとそこまで喧嘩腰になるかね。お前も普段そんなんじゃないだろ?」

「とことん相性が悪いんだろうな」

「でも、完全に関係を断ってもないし毎日話すくらい交流あるんだから変な話だよな」


 俺がそう口にすると春樹は不思議そうに首を傾げる。


「確かに」

「お前自身もその理由は分かんないのかよ。まぁ、いいわ。朝からお前らのこと考えると疲れるしこの話題はこれくらいにして、昨日のプロ野球のことでも話そうぜ」

「それもそれで面倒くさいな」

「お前、毎度柏木さんと朝から話して疲れたからって俺との普通の会話拒否するのやめてくれない!? もう、柏木さんが好きで好きで大好きなのは分かったから友達の俺の相手も少しはし——やめて、攻撃態勢とらないでっ。その手をやめて。悪かった。冗談でも悪かったから」


 俺の地雷を見事に踏み抜いていった春樹に俺は容赦なくくすぐりを繰り出すのだった。はぁ、今日の朝は特に疲れたな。



 *



 授業も終わり後は帰るだけとなった放課後。俺はとあるあき教室へと向かって歩いていた。理由は単純で今日呼び出しを受けていたからだ。ただし、俺とそいつは顔見知りでもなんでもない。

 だから極力スルーしたかったのだが「柏木のことで話がある」とのことだったので、無視した場合後々面倒なことになると思いこうして大人しくそれに従っているわけである。

 まぁ、顔見知りではないとはいえ相手は大方分かってるしな。


「時間通りに来たぞ。で、なんの為にわざわざ俺なんか呼び出したんだ?」


 あき教室へと到着した俺はどうやら先に着いていたらしいツインテールの女子に声をかける。


「私は取引がしたくて呼んだのよ...如月きらさぎ 蒼くん」

「そうか。まずは名前を言ってくれ。取引しようにも名前も分からないんじゃままならない」

「あら、それは失礼。私は寿ことぶき 沙羅さらよ」

「寿さんね。で、取引ってなんだ?」


 極力話を早く終わらせて帰宅してしまいたい俺は早速本題へと入ることにする。


「そうね。私も時間をかけたくはないし率直に言うわ。蒼くんあなた私達の柏木さんに対する攻撃を毎回邪魔してるでしょ? それをやめてくれないかしら?」


 寿さんは平然とした口調でそんなことを口にする。やっぱり差出人はつむぎに嫌がらせをしようと何度も策を講じてきた奴らの1人だったらしい。


「それをして俺にメリットがあるのか?」

「メリットもなにも助ける方がメリットがあるのかしら? 蒼くんって噂によると柏木さんのこと嫌いなんでしょ? わざわざ私達の邪魔をして反感を買う方がメリットがないと思うのだけど」

「確かにそうかもな」


 寿さんの至極真っ当な回答に俺は首を縦に振って頷く。


「じゃあ、次の質問。なんで、寿さんはつむぎのどこか嫌いなんだ?」

「なにが嫌いって...あんだけ目立つ容姿で男子に散々持て囃されていながら、それを気にもしてませんみたいな態度が癪に触るのよ。私以外の女子だって柏木さんのことを嫌ってる子は多いわ」


 どうやらつむぎは相当に女子達から嫌われているらしい。いや、まぁ中学の時もそんなんだったし特に驚きはしないけどさ。


「そうだよな。俺も理由は違うけどつむぎにはいつもムカついてばかりだ。でも、悪いな。やっぱりこの取引はなしで。じゃあ」

「ちょっ」


 俺が話を終わらせ帰ろうとすると焦った様子の寿さんに肩を掴まれる。


「なんだ? 俺は取引は受けないって言ったんだ。それでおしまいだ。この話はそれまででもう発展しないだろ? 引き止めてなんのつむりなんだ?」

「い、いや、だから蒼くんは柏木さんのこと嫌いなのよね? ね?」

「勿論、大嫌い」

「じゃ、じゃあ」

「でも、取引は受けない」

「なんでよっ!!」


 寿さんは怒りを露わにしてそんな声を上げる。ついに本性が出たといったところだろうか。


「何度私達の邪魔をしたら気がすむのよっ。柏木さんのこと大嫌いなんでしょ? 私達からすれば意味が分かんないのよ」


 どうやら寿さんの目には俺の行動が矛盾したものに映っているらしい。それに加えてあっさりと取引を断ったことで更に怒りがこみ上げてきたって感じだろうか。


「それともなに照れ隠しなだけで本当は嫌いじゃないの!?」

「嫌い、大嫌いだよ。一生馬が合うことはないんだろうとも思う。その答えは変わらない」

「もう、本当になんなのよアンタはっ」


 更に苛立ったように髪を掻き毟る寿さん。


「でも、あいつが努力して部活や勉強で結果を残そうとしてるのは知っている。それを態度がムカつくってだけで怪我させたり風邪を引かせようとしてるお前らの方が数倍嫌いってだけだ」


 そして俺はそんな寿さんに淡々と理由を伝えるのだった。


「...」

「なんだ? まだ、なにかあるのか? 言っておくが金輪際返事は変わらないぞ? 分かったなら、早く帰してくれ。...そして、二度とつむぎに攻撃なんてマネはするんじゃねぇ! 分かった......か?」

「?」


 そこまで言いかけた所で俺はあき教室の扉を方面を見て固まる。寿さんも突然の俺の身の代わりように、先程までの怒り狂った様子から一変、意味が分かんないという疑問符を浮かべていた。

 だが、今の俺に寿さんなんかを気にする余裕はなかった。何故かと言えば...。


「あ、蒼今のって本当...なの?」


 そこには話題の張本人である柏木 つむぎ本人大変困惑した様子が立っていたからである。さ、最悪だ。今のもしかして全部聞かれてたのか?




 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


 次回「幼馴染の為にしていたことがバレる 後編」


 良かったら星や応援お願いします。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る