第2話 幼馴染の為にしていたことがバレる 後編
「なっ、柏木さんっ!?」
俺とつむぎがお互いに顔合わせ固まっていると、ワンテンポ遅れて寿さんがつむぎに気づき驚きの声を上げる。
「...どうも、寿さん...だったよね? 悪いけど今は蒼に聞きたいことが多いからどこかに言ってくれる?」
するとつむぎはそんな寿さんを見て落ち着きを取り戻したようで、冷たい瞳で淡々とそんなことを告げる。なんか、知ってはいたがいつものつむぎからは想像もつかないほど冷静だな。俺の中のつむぎは怒鳴り散らかしてるイメージしかないけど。
「わ、分かったわ」
俺を呼び出してまでつむぎに攻撃をしたがっていた柏木さんも、先程までの話を聞かれていていた本人を前にして強く出ることは出来なかったらしく、怯えるように素早く去っていってしまった。
いや、逃げるなー、卑怯者っ!! 今こそおれを呼び出したあの勇気を見せる時だろっ。というか、誰でもいいから俺を今つむぎと2人きりにしないでくれっ。
気まずいなんてレベルじゃないんだよ。まともに顔も見れねぇよ!
「あー、あのさ、久しぶりに佐野おばさんとこのカフェいかない?」
そんなこんなで俺がパニクっているとつむぎがそんな提案をするのだった。
*
「はー」
「どう? ちょっとは落ち着いた?」
カフェに入りコーヒーを飲み息を吐き出すと、前に座るつむぎが少し心配したような顔でそんなことを聞いてくる。...つむぎに心配なんてされたの何年振りくらいだ? というか、さっきから一々言動優しいし俺も俺だがこいつはこいつでどうしたんだ。
「なに? 人をそんな訝しむような目で見てどうしたの?」
「いや、いつもみたいに喧嘩腰じゃないから本物か?と」
「失礼ね。というか、もし普段は仮にそうだとしてもあんな場面みた後で喧嘩をふっかけるほど私は非常識じゃないよ。話を聞く方が先だもの」
「まぁ、それもそうか」
俺が思ったままを口に出すとつむぎからそんな正論が返ってきた。つむぎはどうやらかなり先ほどのことを気にしているらしい。...頼むから忘れてくれないかな?
「頭を抱え込んでなにを考えてるの?」
「いや、人ってどれくらい頭を叩いたら記憶が消えるかなって」
「怖っ」
つむぎは1ミリもビビっていない顔でそんなことを言う。なるほど、これが学校では氷姫なんて異名をつけられるつむぎの一端か。
確かにこれはちょっと近寄りがたいかもしれん。...まぁ、俺からすれば俺のことを舐め腐ってるだけと分かるのでムカつくだけなのだが。
「そ、そんなことより早く話しなさいよ。あれは本当の話なの?それに仮に本当だとしたら、なんの目的でそんなことしてたの?」
そしてしばらくの静寂の後、つむぎはしびれを切らしたように緊張と興奮が入り混じった顔でそう口を開いた。なんと、世にも珍しいつむぎの上目遣いというものを俺はこの日目にした。いや、やっぱりこいつもなんかおかしくない?
「...本当だよ」
つむぎと俺の付き合いは長く下手に嘘をつこうものならすぐに見抜かれてしまう故、どうすることも出来ず俺はそう正直に答えた。
「そう...なんだ」
すると、つむぎは特に大きなリアクションを示すわけでもなく冷静にそう受け止めた。なんだ、さっきと違って思いの外いつも通りだな。
「で、じゃあなんでそんなことを?」
「...それ答える必要あるか?」
「答えなくてもいいけど、その時は蒼は口では色々言いながらも私のことが好きって捉えるけどそれでオッケー?」
「話すからそれだけは勘弁してくれ」
つむぎが真顔のままそんなこと言うので俺は慌ててそう口にする。くっそ、逃げ場なしか。いや、元より話さなかったら変な誤解されるかもとは思ってたらどの道話す以外選択肢ないんだけどさ。
変に勘違いされるのは嫌だしな。
「まぁ、一応言っておくけどそんな大した理由でもないぞ?」
「大した理由でもないのにわざわざ私をずっと助けてくれてたの?」
「うぐっ」
つむぎの冷静な指摘に俺は思わず声に詰まる。は、話しづらい。なんで普段俺の前だとあんなに感情的なのにこう言う時に限って冷静なんだよ。今こそ喧嘩腰であってくれよ。
「その...さ、喧嘩相手に元気なかったらこっちだって気を遣わないとならないだろ? それが嫌だったからというか、なんというか」
しかし、しのごの言っても最早逃げられない状況なので俺はついにそう伝える。他にも色々と理由はあるものの大きな理由はこれだからな。
「へっ? なにそれ...ぷぷっ、あはは」
「笑うなっ」
するとつむぎは俺の答えを聞くなり大爆笑を始める。
「いや、本当に今まで助けて貰っておいて悪いとは思ってるけどごめん、くくっ、あははははっ」
「いや、絶対に思ってないよな!?」
いつもの俺に見せる怒り散らかした顔とも学校で見せる人を寄せ付けない冷たい顔とも違う、ただ笑顔のまま涙を流すほど笑い続けるつむぎ。最悪だ、こうなることが分かってたから言いたくなかったのに。
「はー。いや、なんというかとても蒼らしくてついね。本当にごめんとは思ったんだけどね」
数分ほどしてようやく落ち着いたらしいつむぎが手を合わせてまだ端に笑みをこぼしながら謝罪をしてくる。
「何分間も笑い続けるのはついじゃねぇからな」
「いやー、そっかー。
「また、笑ってんじゃねえよっ」
「はー、久しぶりにこんなに笑った気がする」
「おーおー、無視すんな?」
目元を手で拭いそんなこと言うつむぎに俺はツッコミを入れる。
「...それに久しぶりにこんなに普通に蒼と話した気がする」
「それはそうかも」
次につむぎがボソッと漏らした言葉に俺は頷く。ここ3年くらいいつも顔合わせるなり喧嘩、その後数十秒で解散のパターンしかなかったからな。
「まぁ、こういう機会くらいじゃないと私達まともに会話も出来ないしね」
「それも...そうだな」
高2にもなってそれはどうなのかと周りには思われるかもしれないが、実際そうなのでこれも頷くことしか出来ない。
「まぁ、でも明日からはいつも通り...でいいよね?」
「むしろ、俺達じゃ今日の状態を維持する方が難しいだろ?」
「あはは、そうかも」
さっきのことで笑いのネジが緩んでいたらしくまた笑みをこぼすつむぎ。
まぁ、最初知られた時はどうなることかと思ったが案外大したことはなかったな。これなら明日からは平常運転だろう。俺は密かにそんなことを考えホッと胸を撫で下ろす。どうせ望んでなくてもこれからも毎日顔を合わせるんだ、変に気まずくならなくて本当に良かった。
「まぁ、それに今日で誰かさんがなんやかんや言いつつも私との口喧嘩を楽しみにしてることも分かったしね。ぷぷっ」
「だから笑うなって言ってんだろっ!!!」
いい加減に堪忍袋の緒が切れた俺はつむぎの頰を手で摘むと軽く引っ張る。それは普段から喧嘩をする俺達にとってはなんてことのない行為。お互いの限界の怒りを超えた時に仕返しとしてよくやるもので、当たり前のことだったのだが、
「ひゃぅっ!?」
「へっ?」
何故か、その途端つむぎの顔が朱色に染め上がり聞いたこともない可愛らしい声を上げるので俺は慌てて手を頰から離す。
「あ、蒼、その触れるなら一言欲しい...かなっ」
「えっ、いや、えっ?」
その上、つむぎは伏し目がちにそしてやや上ずったような声でそんなことを言う。普段なら絶対にあり得ないことだ。予想もしていなかったつむぎの反応に俺は戸惑うことしか出来ない。
なんか、可愛...違う。変なこと考えんな俺。どう考えても今のつむぎはおかしい。
「わ、分かった?」
「わ、分かった」
しかし、未だに顔を真っ赤にしたままのつむぎに上目遣いでそんなこと言われ俺はそう答えることしか出来ない。
「じゃ、じゃあ、明日からいつも通りね! 今日は私が誘ったから会計は払っておくからもう帰っていいよ。私はちょっと寄りたいとこあるから」
「お、おう」
そして焦っている様子のつむぎにそう押し切られてしまい俺は1人カフェを後にするのだった。
まさか、この日を境に俺とつむぎの関係が壊れていくのなど
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次回「柏木さん凄い如月くんのこと見てるけど?」
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