第3話 柏木さん凄い如月くんのこと見てるけど?
「おい、つむぎ!お前今日も弁当忘れてったってまた麗子さんに頼まれたんだが?」
朝の早い時間帯、本当に珍しく昨日に続き2日も連続で弁当を忘れたつむぎに俺はそう言って弁当を手渡した。すると、つむぎは黙ったままそれを大人しく受け取ると自分の鞄中へとしまった。
「全く、そのせいでわざわざ朝からお前と顔合わせることになっちまったんだからな! 少しは反省しろよ?」
「...うん、ごめんね」
「うん?」
俺がいつも通り少し嫌味を込めてそう言うとつむぎは申し訳なさそうにそう応えた。てっきり「まだ、これまでの借りがあるから全然チャラなんだけど?」的なことを言われると予想していた俺は、つむぎの想定外の反応に戸惑う。
「あっ、うっ、いや。今の嘘っ。嘘だから。いつも忘れてる側の身の癖してたった2日連続で忘れたくらいで偉そうに」
「...」
俺の反応を見て自分のしていることのおかしさに気がついたらしいつむぎが慌てて、そんなことを言うが正直手遅れというか...無理があるだろ。昨日の最後もそうだったが本当にこいつはどうしたんだ?
「つ、都合の悪いことはダンマリ決め込んで受け入れない。得意の姿勢だね。本当に蒼のそのずぶとさには毎度感心するわ」
「お、おう」
俺がそんなことを考え疑惑の目を向けていると、つむぎは続けざまにそう言い放つ。ここだけなら完全にいつものつむぎなんだが...さっきの件もあってか俺もどう反応していいのか分からず、いつものように言い返すことが出来ない。
「...なによ?」
「いや、だってさっき謝って——」
「っ。それは嘘って言ったよね!? 引きずるなって言ってんのよっ!」
「引きずるななんて言ってなかったろうがっ。というか、引っ張るんじゃねぇ。痛いから、純粋に痛いからっ」
俺が指摘するとつむぎは額からダラダラと汗を流しながら、俺のほっぺたを容赦なく両手で引っ張るのだった。そして、それを終えると走って去って行ってしまうのだった。うーん、この理不尽さはいつものつむぎ。
*
「お前、なんかほっぺ赤いけどどうしたんだ?」
教室に入るなり春樹が俺の顔を見てそんなとを聞いてくる。
「...ちょっと猫にひっかかれてな」
対する俺は流石につむぎにやられたなんて恥ずかしいことは言えず、そう誤魔化す。
「そうか。でも、これ引っかき傷ってより引っ張れて出来た感じっぽいけど」
しかし、どうやら春樹は納得いかないようで俺の顔をマジマジと見てはそんなことを言う。...しつこいな。
「お前のほっぺも赤く染め上げてやろうか?」
「なにその絶妙に怖くない脅し文句——いてててっ。悪かったお前が必死に考えたであろう脅し文句を馬鹿にして悪かったからやめてくれっ」
「おはよう如月くん、お2人さん相変わらず仲良さそうでなによりだね〜」
「おはよう
「
俺と春樹が戯れていると、1人の女生徒が手を振って現れた。彼女の名は
「なんか今凄く失礼なこと考えなかった?」
「いや、全然」
「そっか」
「はー、やっと解放された」
すると
「そういや、
「うーん、とりあえずはあれで誤魔化せたっぽいから暫くは大丈夫かな」
「そうか」
俺は流れで気になっていたことを尋ねると和奏がそう答えたので、ホッと一息をつく。
「? 一体なんの話——いたいっ。やめて、なんで2人して俺の頰をつねり出すの?」
「「気分」」
「今すぐやめろっ」
そして何も知らない春樹がそんな俺達を見て不思議そうに尋ねてきたので、俺と和奏はそんなことをする。まぁ、誤魔化す為だからしゃあなし。
「というか、それよりも何故かさっきから柏木さんがずっと自分の教室に入らず私達の教室覗いてるけどあれはなに? 明らかに如月くんの方見てる感じだけど」
「それ俺もずっと気になってた」
そう言えばと言った感じで和奏が心底不思議そうに教室の扉の方を見ながらそう呟くと春樹もそれに賛同する。
いや、俺もそれは気になってたけどさなにか言われるの嫌で無視してたんだが、バレたか。というか、周り全然喋ってないなと思ったらみんなつむぎの存在が気になっていたのか。そりゃバレるわな。
「...俺は知らん」
「「そんなわけないだろ(でしょ)っ!!」」
しかし、俺としても訳が分からないので素直にそう答えたのだが何故か和奏と春樹の両方からそんなツッコミを食らってしまうのだった。
*
「はー、ようやく昼だ。本当、論表の授業は時間が過ぎるのが遅いな」
「それな」
「ねぇ、如月くん」
4時間目の論表を終え、迎えた昼放課俺と春樹と和奏はいつものように春樹の机近くに集まると春樹の言葉に心の底から頷きつつ弁当を広げる。
「さーて、今日の弁当の中身はなにかなー」
「無視しても無駄だよ如月くん」
「...なんだよ、和奏」
なんとか無視しようとしたが流石に無視しきれず俺は和奏に反応する。
「また、柏木さん来てるけど?」
「うん気づいてた」
「マジかっ」
そして和奏の言葉に俺はガッカリと肩を落とし頷く。そう、そうなのだ。もう、これで今日は6回目である。何回教室を覗きに来たら気が済むんだアイツは。もしかして朝のことをそんなにも根に持っているとでも言うのだろうか。
というか、春樹は人ごとだからってテンション上げてんじゃねえよ。俺からしたらクラスの注目は集まるし色々と最悪なんだよ。
「理由本当に分からないの?」
「うーん、さっきも言ったように朝の怒りが続いてる...とか?」
「全然、自信ないじゃん。というか、柏木さんって文句があるならあんな所でウジウジしてるタイプじゃないでしょ? やっぱり他の理由があるとしか思えないんだけど」
「うっ」
和奏から鋭いツッコミを受け俺は何も言い返せない。確かにその通りなんだよな。でも、それを認めるとなるとじゃああのつむぎの行動はなんなんだと言うことになるし...。
「あー、もう私気になるから直接聞いてくるね」
「ちょっ、待て」
「なんかよく分からないけど行ってら〜」
すると和奏がとうとう我慢出来なくなったようで、教室の扉付近にいるつむぎの方へと向かって走っていってしまうので俺も慌ててそれを追いかける。
「柏木さんだよね? どうしたの、ウチのクラスに何か用かな?」
「えっと、その...」
俺が少し遅れて和奏に追いつくと和奏は早速つむぎにそんなことを尋ねていた。...学校モードのつむぎにこうも気安く話しかけられるとは相変わらずのコミュ力である。というか、なんか初対面の相手とは言えつむぎが言葉を詰まらせてるな。言い出しにくいことなのか?
「そのっ、蒼と久しぶりにお昼ご飯でもどうかなと思って見てた所存です」
「「えっ?」」
振り絞るような声でようやくそう声に出したつむぎだったが、俺と和奏はその内容に2人して固まる。しかも、なんか緊張してるのか変な日本語だったし。
「えっ? 如月くん?」
俺とつむぎの関係性を春樹と同じく把握している和奏は意味が分からないようで、俺とつむぎの顔を交互に見ては珍しく戸惑った顔を見せていた。いや、俺も意味が分からないからどうしようもないんだが。
「えっと、柏木さんは本当にただ如月くんとお昼が食べたいの? 暗殺の機会を狙ってるとかじゃなくて?」
和奏はどうも信じきれなかったらしくつむぎに再度そんなことを尋ねる。正直なところ、そっちの方が俺としてもまだ分かるというのもである。
「う、うん」
「!? そっか、そうなんだね〜」
しかし、つむぎはすぐに首を縦に振って答える。すると和奏もようやく話を受け入れらしくまだ困惑した様子はありつつもそれに頷く。本当に一体なにがどうなってるんだ??
「はぁぁ、なるほどただお昼ご飯を一緒に食べたいみたいだよ。このモテ男。全く、私という彼女がいながら...」
「えっ!?」
「おいっ」
「いいでしょ、本当のことなんだから」
すると突然和奏は呆然とする俺の方へと向き直ると漏らすようにそんなことを呟くので、俺は慌てるが和奏は当然といった様子でそう答える。確かに事実ではあるが。
「まっ、いいや。分かったよ。じゃあ、中に入って来て一緒に食べようよ。如月くんの幼馴染さん? いつも彼氏がお世話になっている身として聞きたい話も色々あるし」
「えっ、あっ、えっ」
そして和奏は酷く驚いたように目を丸くするつむぎの手を引くと春樹がいる席の方へと歩いていくのだった。うーん、にしても本当につむぎはどうしたんだ?
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次回「どうも如月くんの彼女の和奏です」
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