第4話 どうも如月くんの彼女の和奏です


「っで、どうして柏木さんは急に如月くんとご飯なんてしたくなったの? 如月くんからは相当仲が悪いって聞いてたんだけど...」


 つむぎを加えて席へと戻ってきた和奏わかなは、つむぎに近くにあったイスを手渡しながら笑顔で早速そんなことを尋ねる。ちなみに何故か春樹の奴は和奏に話の邪魔だからと追い出されてしまった。可哀想に、不憫な奴である。いや、まあでもあいつがつむぎと絡んでいい未来が見えないし、妥当か?


「えっ、いや、それはその...なんとなくと言うかなんというか」

「そっかー、なんとなくか。なるほど、なるほど」


 つむぎがこれまた言葉を詰まらせていると和奏は更に口角を上げ、しまいには俺の方を見ながらニヤニヤと笑みを浮かべる。なんだ、その変な笑みは。


「そ、それより紅葉谷もみじやさんが蒼のか、彼女って本当なの?」


 すると逆につむぎが和奏に対し何故か恐る恐るといった様子でそんなことを尋ねる。なんでつむぎがそんなことを気にしてるんだ?


「ふーん、気になるんだ。てっきり柏木さんはそういう(恋愛)話に興味ないってイメージだったけど、もしかして蒼くんの話だから?」

「ち、違っ。こ、こいつに彼女なんて出来るのかな、と思って」

「失礼な奴だな」


 和奏も同じことを思ったらしく冗談っぽくそう言うと、つむぎはいつもの感じで俺のことを罵倒する。だが、何故かその顔は真っ赤に染まっていた。昨日といい、今日といい本当に風邪でもひいてるんじゃないか? こいつ。


「結論、如月くんの恋愛事情が気になるってことでいい?」

「い、いい...」

「あはは、柏木さんって案外素直なんだね。もしかして、最近なにか心境の変化でもあった?」

「っ...」


 和奏が軽く笑いながらそんなことを口にすると、途端につむぎの顔はボッと赤くなり言葉も返せず固まってしまう。本当に大丈夫なんだろうか?


「まぁ、素直に言ってくれたことだしね。もう一度教えてあげる。どうも私は如月くんの彼女の和奏です。だよね? 如月くん?」

「あぁ」


 そして和奏は自身のその豊満な胸に手を当てそんなつむぎを尻目にそう言い放つと、笑顔のまま俺に頷きかけてくるので俺も首を縦に振る。


「そ、そう...なんだ」


 対するつむぎはと言えば見るからに顔色を悪くし、なんとかといった様子でそれに頷く。その瞬間、俺の心が少しモヤっとした...ような気がした。まぁ、気のせいか? それよりも、問題はつむぎである。こいつ本当に体調不良とかそういった類っぽいな。面倒だし何を言われるか分からんが、多少強引にでも保健室に連れていくか。


「おい、つむぎ——」

「も、紅葉谷さんにあ...蒼邪魔してごめんね。じゃあ、私もう帰るからっ」


 俺がそう考えつむぎの肩を掴もうとすると、それよりも早くつむぎはそう言い残すと教室を飛び出していってしまった。


「アイツ、凄い具合悪そうだったけど大丈夫なんだろうか?」

「えっ? 如月くんそれマジで言ってる?」


 そんなつむぎを見た俺がそう呟くと隣の和奏が目を丸くする。


「? どういう意味だ?」


 当然、訳の分からない俺はそう聞き返す。


「いや、どういう意味もなにも柏木さん可愛くらいに分かりやすかったのに、まさか気づいてないとは思わなかったからさ」

「??」


 だが、返ってきたのはもっとよく分からない言葉だった。堪らず、俺の脳内ははてなマークでいっぱいになる。ナニヲイッテルンダ、コイツハ?


「というか、それよりもわざわざ柏木にまで俺が彼氏なんて嘘をつく必要あったのか?」

「あっ、話逸らした」


 答えが全くと言っていいほど思い浮かばないので、とりあえず話を変える為さっき気になったことを聞いてみることにする。

 和奏はいつもの少しイジワルな笑みを浮かべるが無視し続けると、やがて折れたようにため息をつき、


「意味はあったよ。いつどこで誰に漏れるかなんて分からないからね。もし、そうなったら如月くんは責任が取れるのかな? ニセモノ彼氏くん」


 頭を掻きながらそう口にした。そう、俺こと如月 蒼と紅葉谷 和奏は付き合っている。だが、あくまで偽物の彼氏彼女なのだ。なので、和奏と殆ど接点のないつむぎにまで嘘をつく必要があるのかと疑問に思って尋ねてみたが、思った以上に強いダメ出しを受けてしまい俺はおし黙る。


「でも、和奏のお父さんとつむぎに接点は到底無いように思えるんだが」

「お父様は私よりもずっと狡猾で性格が悪くて疑り深いからね。本当にどこで漏れてもおかしくないんだよ。今のこの会話だって怖いくらい」


 そう言って怖い怖いと肩を震わせる和奏。


「なるほど、和奏よりも狡猾で性格が悪くて疑り深い...か。確かにそれなら納得だ」

「納得してくれたのはいいけど、如月くんのその言い方だとまるで私がとても狡猾で性格が悪くて疑り深い女みたいだね」

「でも、実際そうだろ?」

「どうやら如月くんは二度と喋れなくして欲しいみたいだね」

「あっ、物騒も追加で」


 珍しく少し怒った様子で拳をパキパキと鳴らしながらそんなことを言う和奏。うーん、確かにこれは怖い怖い。


「にしても、なんで如月くんは柏木さんの時だけそんなことを聞いてくるの? もしかして、柏木さんに私と付き合ってると思われるのが嫌だったから、とかなのかなぁ?」


 そして仕返しと言わんばかりにニヤニヤと笑みを浮かべながら、そんなことを聞いてくる和奏。本当に名前と違って性格の悪い奴だ。


「そこんとこどうなんですか? ほれほれ。早く答えてくださいよ」

「お前なぁ」


 俺のことを軽く突っつきながら若干煽るような口調で絡んでくる和奏。春樹も誰もいないとこれだよ。さっきの言葉に相当怒ったみたいだが、そんなだから性格悪いって思われるんだよ。と口にして叫んでやりたい。実際には怖すぎて言えないけど。


「まぁ、なんでもいいけどさ、ちゃんと約束は守ってよね? 如月くんは柏木さん周りの女子の情報を手に入れる為にに私と付き合う、私はお父様からのお見合い話を断る為に如月くんと付き合う代わりにその対価として柏木さん周りの情報を与える。お互いに利害は一致してるし、本当の彼氏彼女ではないもののある程度信頼出来るパートナーくらいには思ってるからさ。だから、私を裏切るような真似はしないでね?」

「分かってるよ」


 俺の方へと体を寄せ俺の耳元で小さくそう口にする和奏に俺はこくりと頷く。


「じゃあ、今後ともよろしくね。私の彼氏(偽)くん?」

「あぁ、よろしくな」


 そして俺から離れた和奏がそう言って手を差し出すので、俺もそれに応え手を差し出すのだった。

 しっかし、和奏はこれでいいとして今日のあいつつむぎは一体なんだったんだ?




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 次回「気まずい、帰り道」


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