kalei do scope⑩
「それじゃあ、ソフィア。少し出かけてくるよ」
主は鼻歌まじりに白色のキャペリン帽を被り、玄関近くに備え付けられた姿見に自身を映しながらそう言った。
「かしこまりました。いつ頃帰られる予定でしょう?」
「んー、正確には分からないけど、すぐに帰ってくると思うけどね」
「また一年ほどですか?」
ソフィアが半場呆れながら訊ねると、それはないと主は笑った。確かに、彼女の耳にはあのピアスが付けられていたから、本当にすぐに帰ってくるつもりなのだろう。でなければ、きっと、また「これを頼む」と言われているはずだから。
「今回は人に会いに行くだけだよ。懐かしい人に、一目会いに行くだけさ」
ソフィアはそれでも訝しげな視線を送るが、いつも通りのことだと諦めて溜息を吐いた。その様子に主は苦笑いを浮かべて、綺麗な装飾が施された封筒を一通ひらひらとさせた。あれは彼女が心から気を許したモノにだけに使う封筒で、それを持っているということは、本当にすぐ戻ってくるつもりなのだろう。
「それでは夕餉の用意をしてお待ちしておりますので」
「頼んだよ」
それだけ言うと、主は軽く手を振りながら家を出て行った。
あれから、主は一度だけ一年ほど出かけた事がある。だが、それでも以前のように寂しいとは思わなかった。それは彼女の配慮で主の知人の妖精や、生き物がちょくちょく訪れたからということを差し引いてもだ。
温かいと、思った。
このことを以前シルフに伝えると、彼は喉の奥で笑いながら、「それがオレらの付き合い方さ」と言った。
きっと自分と主の関係はまだまだ続くのだろう。だから、別に焦らなくてもいいとソフィアは思った。
だって、自分たちは家族なのだから。
窓から差し込んだ日差しは柔らかく。今日は洗濯物が良く乾きそうだと。ソフィアは小さく微笑んだ。
〈了〉
kalei do scope 海 @Tiat726
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