ある村の節分

昼星石夢

第1話ある村の節分

 ワシだって驚いたよ。こんな静かなところでさ。てっちゃんのことだから、また山で迷子になったんだろうって思ってたけどねぇ。え? ああ、前にも何度かあったんだよ。その度に村総出で探してさ、たいてい麓の辺りで、きょとんとした顔して座ってんだ。足元に栗やら柿やら、松茸持ってたときもあったな。ありゃ笑ったよ。あんた、それ村中さんのとこのでしょ! って怒られて大泣きしながら、ぎゅって持った松茸は頑として離さないんだから。

 いやいや、いつもは節分だからって、あんなことしてないよ。儀式かと思ったって? ありゃ確かに不気味だったね。

 近頃子供のいたずらが酷くってね。まあ、子供なんだし少しくらいやんちゃするのはいいんだが、どこで覚えたのか火遊びが流行っちまって。ちょっとしたボヤも起きたのさ。山田さんとこの農機具小屋が燃えただけで、怪我人なんかは出なかったんだけど、火元が爆竹だったんだ。まあ、それからは子供がいる家は気をつけて何事もないんだが、いい機会だし、小さい子が真似しないように、ちょいと怖がらせてやろうって話に自治会でなってね。倉庫に眠ってた鬼のお面を貸し出すから、なりたい人はどうぞって。ワシか? いやあ、豆投げられたくねえし、やらなかった。歳で速く走って逃げれねえしな、昔は速かったんだが……。

 いや、それが当日倉庫を見に行ったら全部無くなってんだ。完売だよ。村のあちこちに鬼がいてよ。

 それがよ、ワシはお多福のお面のことは知らなかったんだ。たぶん婦人会の人らだと思うよ。どこからどう伝わったのか、子供達と悪い鬼をやっつけようって、豆投げる子供に付き添って、これまたたくさんいたよ。

 そんなわけで村中、鬼とお多福でいっぱいよ。それが怖かったんだろうな、洋一君が友達からはぐれてどっか行っちゃったって、花ちゃんが洋一君のお母さんに言いにきたそうだ。

 いや、洋一君は暗くなる前に自分で走って帰ってきたよ。そんで息を切らせて言うには、村はずれにある廃屋に、てっちゃんがいたってんだ。洋一君、ずいぶん遠くまで行ったもんだよなあ。ああ、そうだよ、鬼のお面とお多福のお面の二人組に閉じ込められてたってな。洋一君、その二人組に気づかれて、今度は村まで必死で逃げ帰ってきたらしいわ。怖くて後ろは振り返られなかったから、二人組がどうしたのかわからないってんで、とにかくてっちゃんの両親と会長さんと、何人かで見に行ったんだと。辺りはもう真っ暗で、街灯もほとんど役に立ってねえだろ? そんな場所の廃屋で、てっちゃん、寝かされてたみたいだ。どうも頭にぶつけたような痣があったみたいだが、とにかく無事で良かったよ。

 それがよ、わかんねえんだ……。なにせ、お面は貸し出し自由で、特に記名もしてなかったもんで。それは婦人会のほうも同じじゃないかな? それに……帰ってきてからてっちゃん、そのことに関して一切喋らないみたいだからな……。

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