第8話 お嬢様の一日はまだ、始まったばかり




 その進行方向は、来た道を戻っていたのだからそれはある意味、必然と言えた。


 額から血を流した真剣崎マジサキミツバのその形相には鬼気迫るものがあった。

 それこそまさに復讐者の顔であった。


 飛びかかってきたミツバに対し、Die道示だいどうじ霙子みぞれこは果敢にも立ち向かっていった。


 そしてお嬢様の名に相応しく華麗にミツバの腕を掴んで取り押さえ、地面に組み伏せ――その耳元に、囁いた。


「真剣崎さん、私はお前の敵ではないわ」


「な、にを……放せッ」



「――私は、男よ」



「……は?」


 その時、ミツバは地面に強く押し付けられた。霙子の全身が背にのしかかってくるのを感じた。そしてそこに、違和感。あるべきはずの感触がないのはまだ分かる。しかしそこにあるべきでないはずの感触を覚えたのだ。


 そう、Die道示・霙子とは仮の姿。

 全ては天now次てんのうじ家に取り入るため――「可愛い娘」として寵愛を得るための偽りのお嬢様なのである。


「このことを他言すれば、お前が持っていたナイフがどこかの殺人現場で発見されることになる。そうなれば荼毘出だびでにどう思われるか、分かるな?」


「っ」


 ミツバは戦慄した。さもお嬢様然としたDie道示・霙子から、男のような低い声が聞こえたのも確かに驚きだった。しかしそれ以上に、霙子ならやる、そんな確信を覚えたのだ。


 そも、ミツバ自身が霙子を殺る気でいたのだから。

 霙子が……この人物が同じつもりでいたとしても、なんら不思議なことはない。


「悪いようにはしない。私たちは良い協力関係になれる」


 ミツバがこくりと頷くのを見て、霙子は彼女を解放した。


 ――これで予測困難な危険因子の排除には成功した。


 霙子は新たな戦力として手に入れたミツバを助け起こす。


 霙子は考えていた。この一連のトラブルには、そもそもの原因がいる。


(……荼毘出。あいつ、私ですら知らないパパの不祥事を知っているかのような口ぶりだった。傷心の私に付け入ろうと、パパを陥れたのは、あいつ……)


 まずはあの男を排除する。

 そして霰を陥れ、私が全てを手に入れる――


 Die道示・霙子の長い一日は、まだ始まったばかりだった。



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Die道示・霙子のおそろしく先の読めない1day 人生 @hitoiki

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