【ショートストーリー】五つの心、無限の時間

藍埜佑(あいのたすく)

【ショートストーリー】五つの心、無限の時間

 ある秋晴れの日曜日、五人の少女が公園のベンチに座っていた。

 彼女たちは「人生で一番大切なものは何か」というテーマでおしゃべりをしていた。

「一番大切なのはお金よ!」

 金髪の少女、リリーは断言する。

 彼女はいつもお小遣いで最新のファッション誌を買い漁っていた。

「いいえ、愛が最高!」

 心優しいエミリーはそう反論した。彼女はいつも野良猫に餌をやっている。それが彼女なりの愛情表現だった。

「ええっと、私はやっぱり勉強かな」

 メガネを押し上げながら、真面目なサチコは言った。

 本は彼女の常に良き友だった。

 次に、スポーティなジュンが言う。

「いやいや、健康が一番よ!」

 そして、最後に物静かな花子が静かに言葉を発した。

「私は、時間だと思う……」

 公園にふわりと風が吹いた。

 他の四人は一斉に花子を見た。

 彼女もいつも本を読んでいて、他人と話すことが少ない少女だ。

 でも今、彼女の言葉には何か重みがあった。

「どうして時間なの?」

 エミリーが尋ねる。

 少女たちは、思考の迷路に迷い込んだ子猫のように、頭をひねった。

「だって、時間があれば……」

 花子は言葉を選ぶようにしてゆっくり話し始める。

「お金を稼ぐこともできるし、愛を深めることもできる。勉強や、運動をして健康を保つこともできるでしょう。時間があれば、あらゆる可能性が広がるの。でも、失った時間は二度と戻ってこないから……」

 四人はなるほどと納得し、その後しばらく、黙考する。

 やがて、リリーは笑いながら言った。

「じゃあ、ここでベンチに座って時間を無駄にするのはやめにしよう!」

「そうね! どこか行きましょう! とりあえず甘いものでも買いに!」

 ジュンが提案し、他の四人も同意した。

 彼女たちは無邪気に笑いながら公園を飛び出した。

 彼女たちは時を共に過ごす喜びに気づいたのだった。

 まるで時間を見つめ返すかのように、彼女たちの足取りは軽やかで、まぶしい秋空の下、無限の可能性に満ちていた。


(了)

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【ショートストーリー】五つの心、無限の時間 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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