第4話「モコモコ尻尾とツンデレ令嬢」



「エリーゼ嬢? そんな所で何してるの?」




彼が久し振りに私の名前を呼んでくれた。


ただそれだけの事なのに、胸の鼓動が早まる。


煉瓦色の髪、黒真珠のような瞳、白磁のように白い肌。


彼の容姿を地味と評する人もいるけど、私はそうは思わない。


きらきら光る少年のような瞳は、叡智の光を宿し、緩やかに上がった口角は、穏やかで優しい彼の人柄を表している。


数年前の卒業パーティーで、初めて見た時からお慕いしている。


「お久し振りですねルイス様。私は万年筆を探しておりました」


嘘はついていない。


「そうなんだ。もしかしてその万年筆ってこれのこと?」


彼は胸の内ポケットから万年筆を取り出した。


「そうです」


「さっきそこで拾ったんだよ。後で受付に届けようと思ってたんだけど、その手間が省けたね」


「ありがとうございます」


私はルイス様から万年筆を受け取った。


彼のポケットに入っていた万年筆!


一生の宝物にします!


そういえば先程私の足に触れたのは何だったのかしら?


何か細長くてもそもそした感触だったような?


蛇とか虫だったら嫌だわ。


「あっ、こんな所にもいたんだ」


そう言うと彼はその場に膝を付き、茂みを覗き込んだ。


「おいで、おいで」


彼が手招きすると、茶白の仔猫が茂みから出てきた。


先程私の足に触れたのは、この猫の尻尾だったようです。


蛇や虫でなかったことにほっと息を付いた。


「この子の兄弟でしょうか?」


彼は近づいて来た仔猫を優しく抱き上げた。


ルイス様に抱っこして貰えるなんて羨ましい!


……猫に嫉妬するなんて、私もどうかしてる。


「そうかもね。もしかしたら他にもいるかもしれない」


「雨が降りそうなので心配ですね」


「全部見つけて保護してあげないとね」


「ルイス様は仔猫を探しにこちらに来たのですか?」


「そうだよ。

 同僚がお昼休みに、エメリッヒ伯爵令息が木の上から仔猫を助けたって話をしていてね。

 でもその仔猫を誰かが保護したとか、誰かが飼ったという話を聞かなかったから、もしかしたら仔猫は庭に放置されてるんじゃないかと思って、探しにきたんだ。

 今日は夏でも少し肌寒いし、雨も降りそうだ。

 他にもこの子を産んだ親猫や、兄弟がいるなら一緒に保護しあげようと思ってね」


ああ……この方は、私が思い至らなかったことに直ぐに気づいて、行動出来る人だったのですね。


私は彼の迅速な対応と、聡明さと、優しさに惚れ直していた。


「私、用務室から木箱を借りてきます。雨が降る前に全員保護してあげましょう」


「エリーゼ嬢、仔猫探しを手伝ってくれるの?」


「もちろんです! 友人が困っている所を見過ごせません!」


「ありがとう。エリーゼ嬢は優しいんだね」


そんなきらきらした顔で微笑まないでください!


魂が抜けてしまいますわ!


「勘違いしないでください! 猫の為です!」


それなのに、私だったら意地っ張り!




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