第6話「伯爵令息と眼鏡を外すと目が『3 3』になる男」エメリッヒ伯爵令息・視点






その日は朝からむしゃくしゃしていた。


エリーゼ・ローレンシャッハ公爵令嬢に中庭に呼び出されたので、告白のOKの返事が貰えると思って喜び勇んで向かった。


そしたら……「あなたとは付き合えません。もう告白しないでください。迷惑です」と言われ、振られてしまった。


彼女はゴミを見る目でボクの事を見ていて、取り付く島もなかった。


学園を首席で卒業し、文官試験も首席合格、文官一年目にして皆の期待を浴び、出世街道まっしぐら、実家だって裕福、そんなエリート街道まっしぐらのボクを振るなんて見る目のない女だ!


とはいえ彼女にしつこくつきまとって、それが宰相にバレたら人生が詰む。


仕方ない、彼女のことはすっぱり諦めて、さっさと次を見つけよう。









そんな事を考えながら城の外に出た。


寮への道を歩いていると、男がぶつかってきた。


「邪魔だ!」


イライラしていたので、ボクは男に向かって怒鳴っていた。


ボクにぶつかって来た男は、茶髪のボサボサ頭で、こぎたない衣服をまとっていた。


くそ! お気に入りの服を着ている日に限ってこういう目に遭う!


「眼鏡、眼鏡……」


男はぶつかった弾みで、眼鏡を落としたようで地面に膝を付き、眼鏡を探していた。


どうでもいいが奴の目が「3 3」になっていて笑った。

 

眼鏡を外すと、目が「3 3」になる奴なんて現実にいるんだな。


男の眼鏡は、奴の探しているのとは逆の方向に落ちていた。


こいつには、少し罰を与えてやらないといけないな。


ボクは男に気づかれないように、奴の眼鏡に近づき蹴飛ばした。


ボクに蹴飛ばされた眼鏡は、ぽちゃんと音を立ててドブ川に落ちた。


そうとは知らず、男は地面に這いつくばって未だに眼鏡を探している。


『一生探してろバーカ』


ボクは心の中で悪態をつき、帰路についた。






その時、ぶつかったのがお忍びで街を散策中の宰相補佐だった。


彼は声と香水の匂いから、犯人をボクだと特定した。


あの日、眼鏡を無くしたせいであちこちにぶつかって傷だらけになった宰相補佐は、大層ご立腹だった。


いやだって美形で有名な宰相補佐が、茶髪のカツラを被って、よれよれの服を着て、目を「3 3」にして街を徘徊してるとは思わないだろ!!


その上、宰相補佐の元には同僚から、ボクの苦情が上がっていた。


香水の匂いが臭いとか、暴言を吐かれたとか、手柄を横取りされたとか、他にも色々。


完璧な好青年を演じきっていると思っていたのは自分だけで、ボクはあちこちでボロを出していたようだ。


左遷された先で、ボクは地獄の訓練を受けることになった……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る