第7話「彼が帰った後、彼が撫でた猫達のお腹に鼻を押しあて匂いを吸っている」最終話
今日はルイス様を当家にお招きしている。
この日の為に私はお料理の特訓をしていたのだ。
彼は私の手料理を美味しそうに食べてくれた。
食事の後は、猫用に建てた家に行き、仔猫達と戯れている。
彼が帰った後、彼の撫でた猫達のお腹に鼻を押しあて、匂いを吸っているのは内緒だ。
それはそれとして、私は彼に尋ねたい事があった。
「ルイス様、一つお尋ねしてもいいですか? お城で仔猫を保護するとき誰か見てる人はいましたか?」
「いや誰もいなかったと思うよ。もし近くに人がいたら、一緒に猫を探してもらえないか頼んだし」
「誰も見てないのに仔猫を助けたんですか?」
「猫を探すのに誰かに見てて貰う必要ってある?」
彼は不思議そうに小首を傾げた。
「そうですね。猫を探すのに誰かに見ていて貰う必要はありませんね」
彼は誰も見ていない所でも善行を詰める人なのだ。
「仔猫のノミが自身に移るか気になりませんか?」
「いやちっとも。服は洗うか捨てればいいからね。それよりノミがいるなら仔猫がノミに血を吸われて貧血になっている可能性があるから、そっちの方が心配だったよ。小さい体で、ノミに血を吸われたら長くは生きられないからね」
この人は仔猫を助けたことで、ノミが体についたことを嫌がる人じゃない。
仔猫がノミに血を吸われて貧血になってないか心配になるほど、優しい人だ。
文官試験の日に、試験に遅れることを承知の上で、眼鏡を無くしたお兄様を助けてくれた暖かい心の人だもの。
そのせいで彼は試験に遅れ、一科目受けられなくなった。
それでも残りの全科目で満点を取って、文官試験に合格したのだ。
本当なら、彼がその年の首席合格者になるはずだったのに。
「それから文官試験の日は、兄がご迷惑をおかけしました」
「いいよ。もう随分と前の事だし。文官試験にはぎりぎりだけど合格できたし」
「でも兄が迷惑をおかけしなければ、ルイス様は首席合格出来ました」
「そんなの実際に試験を受けて見なければ分からないよ。もしかしたら一科目目の問題が全然解けなくて、その科目は零点だったかもしれない。
その事を引きずって他の教科もボロボロだったかもしれない。
俺はね、あの時君のお兄さんを助けた事で運を拾ったと思っているよ。だからもう気にしないで」
この方はどこまでも心が暖かく、前向きで、懐の広い方なのでしょう。
「ルイス様……」
「何?」
「……好きです」
思わず言ってしまったけど、口から心臓が飛び出してしまうんじゃないかってくらい、胸がドキドキしていた。
彼の反応を知りたいけど、怖くて顔が見えない。
「俺も好きだよ」
ルイス様は何でもないようにさらっと言った。
意外とこういう事には慣れているのかしら?
それよりも両思いです!
ルイス様と暮らす新居の用意を、いえそれよりもまずは式場の手配を……!
私はこれ以上ないってくらい舞い上がっていた。
だというのに……。
「猫のことだろ? 俺も好きだよ」
ルイス様、そういう所ですよ!
「嫌いです! やっぱりルイス様の事なんか大っ嫌いです!」
私は猫じゃらしを彼に投げつけた。
彼はポカンとした顔をしていた。
ああ……もう、せっかく素直に告白出来たと思ったのに……!
私の馬鹿!!
彼に私の気持ちを理解してもらうには、もう少し時間がかかりそうです。
―終わり―
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