第3話「仔猫の捜索と裏表のない人」




「はぁ〜〜、やっと息が出来る」 


匂いの元凶が遠くに行ったので、ようやく思う存分呼吸が出来た。


エメリッヒ伯爵令息が近くにいるときは、なるべく息をしないようにしていたのだ。


「それにしても、ワルフリート・エメリッヒ。あいつ想像していた数倍クズだったわ」


女性にブスと言ったり、仔猫を蹴り飛ばしたい発言したり、私をアクセサリー呼ばわりしたり、全ての言動がクズだった。


「そんな事より、今は仔猫が心配だわ」


私もエメリッヒ伯爵令息の事を悪く言えない。


あの時、仔猫のその後の心配をしなかったのは私も一緒だ。


今日は夏にしては肌寒い。


あんな小さな体ではきっと生き残れない。


私は植え込みの影から飛び出し、周囲を捜索した。


「猫ちゃ〜〜ん」


草をかき分け、植え込みを覗き込み、仔猫を探すこと三十分。


猫の影も形も見当たらない。


「誰かに拾われたのかな?」


それならいいけど、カラスや野犬に襲われていたら……!


その時背後で、ドサッと音がした。


音がした方を見ると、見覚えのある人影がいた。


今の音はもしかしたら、彼が木の上から飛び降りた音かもしれない。


あの茶色の少し癖のある髪……! 間違いないルイス様だわ!


好きな人だもの、後ろ姿でも見間違えるはずがない。


久し振りに会えた想い人に、私の胸はドキドキと音を立てた。


彼はこんな所で何をしていたのかしら?


近くの木に隠れて彼の様子を伺っていると……。


「よしよし、もう大丈夫だからな」


ルイス様の声が聞こえてきた。


独り言かしら?


よく観察すると、彼の腕の中には仔猫がいた。


模様から推測して昼間エメリッヒ伯爵令息が助けた仔猫だと思われる。


どうやらあの猫はまた木に登って降りられなくなっていたらしい。


何と間抜けな……とも言えないか。


もしかしたら仔猫は外敵から身を護る為に木に登って、降りられなくなったのかもしれない。


「腕が痒いな。もしかしてお前ノミがいるのか?」


どうやらルイス様もノミの被害を受けたようだ。


「可哀想に、こんなに小さな体でノミに血を吸われて苦しかっただろう? 痒くて夜もよく眠れなかったんじゃないのか? 寮に帰ったら風呂に入れてやるからな」


彼は仔猫にノミを移された事を気に留めず、それどころか仔猫の体を心配していた。


ああ、やっぱり好き。


ルイス様のそういう優しい所が大好き。


その時、私の足に何かが触れた。


「ひゃあっ!」


驚いて私は声を上げてしまった。


慌てて口を押さえたがもう遅い。


彼に存在を気づかれてしまった。

 







◇◇◇◇◇




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