「卒業パーティーで婚約破棄された彼を、公爵令嬢である私が拾います!」完結
まほりろ
第1話「二度目の告白をしてきた香水男」
私の名前はエリーゼ・ローレンシャッハ。
貴族学園に通う三年生。
公爵家の長女で宰相の父と、宰相補佐の兄を持つ。
その肩書と、金色の髪と青い目の目立つ容姿のせいか、地位狙いの男に告白される事が多い。
そんな肩書や家柄しか見てない男なんて、お断り。
それに、私には好きな人が……。
その夏私は、文官の見習いも兼ねて学園が長期休暇の間、お城でインターンをすることにした。
「エリーゼ。エメリッヒ伯爵令息から告白されたって本当?」
そう言って、私に話しかけて来たのはレーア・キャンベル伯爵令嬢。
クラスメイトで友人の彼女と一緒に、インターンに申し込んだのだ。
運良く彼女と同じ部署に配属され、隣同士の席になった。
「なんで知ってるの?」
今はお昼休みなので私語が許されている。
お弁当を持ってきたので食堂にはいかず、レーアと机でご飯を食べている。
「だって噂になってるもの!」
「誰がそんな噂を……」
ワルフリート・エメリッヒ伯爵令息は私達の一つ先輩。
今年の春に学園を首席で卒業し、今は文官として働いている。
彼には卒業パーティの前日に告白され、先週また告白された。
卒業パーティの前日に告白されたときは、速攻でお断りした。
先週告白された時も即刻お断りしようとしたのだが……。
「返事は直ぐにしないでくれ! ボクの良さを周りの人に聞いて、それから答えを出してくれ! それからでも遅くないだろう!」
彼は断る隙を与えてくれなかった。
「学園中のみんなよ!
それと文官の女性たちも騒いでいるわ!
彼、素敵よね。
学園に在学中は常にトップの成績。
文官試験も首席合格!
文官になってからも仕事をバリバリこなしてるみたいだし!
その上整った顔立ちで、背も高い!
それに誰に対しても優しいし、完璧よね!」
彼の評価ってそんな感じなんだ。
私にはエメリッヒ伯爵令息は、嘘くさい笑顔を貼り付けた、どこか信用ならない人に見える。
宰相の娘という立場のせいか、幼少の頃からごまをすって近づいてくる人間が多く、自然と人の心の中を見透かせるようになってしまった。
彼のようなタイプの人間に会うのも初めてではない。
彼は特殊配合した薔薇の香水を山程つけていて、私はその香りが嫌いだ。
彼が近くにいると臭くてたまらないのだ。
食堂に行くと彼の方から声をかけてきて、勝手に近くの席に座るので、食堂の利用を避けている。
お弁当を持参して、事務机でご飯を食べているのはその為だ。
せっかくインターンになったら、憧れのあの方と一緒に食事ができると思っていたのに……。
エメリッヒ伯爵令息のせいで、そんな淡い計画すら頓挫している。
「エリーゼったら、エメリッヒ伯爵令息みたいな素敵な殿方に告白されて、何が不満なのよ!」
「うーん、彼とは合わないっていうか……」
信用ならないというか。
「それだけ?」
レーアがぐいぐい聞いてくる。
「他に気になる人がいて……」
「気になる人って誰?
もしかして三年前の卒業パーティで、婚約破棄騒動を起こしたあの先輩のこと!?
確かルイス・クッパー子爵令息って言ったかしら?
やめときなさいよ、あんな人!
人前で婚約破棄されるなんてろくな人間じゃないわ!
それにクッパー先輩って、あの年の文官試験最下位合格だったんでしょう?
出世は見込めないわ!
クッパー先輩は顔も冴えないし、見た目も地味よ!
そんな人よりエメリッヒ伯爵令息の方が絶対いいわよ!」
私の憧れの人……ルイス様は、三年前の卒業パーティで、彼の元婚約者に婚約破棄を言い渡された。
そのせいで彼はちょっとした有名人だ。
「あのね、レーア。
あの婚約破棄騒動は、彼の元婚約者が独断で起こしたことで、彼女が卒業パーティーで彼に言ったことは、彼女がルイス様を嵌める為についたでたらめなの! 彼は被害者なのよ!」
ルイス様の元婚約者は、浮気をしていた。
その浮気相手というのがその年の文官試験補欠合格者で、ルイス様が不祥事を起こせば自分が繰り上げで合格出来ると思い、彼女に卒業パーティーで騒ぎを起こさせたのだ。
十年近く前の卒業パーティーで、当時の王太子が、婚約者の公爵令嬢に冤罪をかけて婚約破棄騒動を起こした。
それ以来、卒業パーティーで婚約破棄をすることは禁止された。
なので卒業パーティーで婚約破棄騒動を起こした者は、就職も進学もぱぁになるのだ。
文官補欠合格者だった男はそれを狙って、ルイス様を罠に嵌めた。
だがルイス様の無実は即日証明され、彼は無事に文官になり、今も元気に働いている。
彼の無実の証明には、私もちょっとだけ尽力した。
彼とはその時からの縁だ。
最も兄の恩人である彼の事は、卒業パーティーの前から知っていたのだけれども。
「それに彼が文官試験に最下位で合格することになったのには理由が……」
「レーア、一大事よ! 木に登って降りられなくなった猫を助ける為に、エメリッヒ伯爵令息が木に登ってるの!」
その時、同僚の女性が部屋に飛び込んで来た。
彼女もエメリッヒ伯爵令息のファンだった。
「絶対に見に行くわ! エリーゼも行くわよ!!」
「えっ?
私まだお昼ごはんの途中……」
ジェフの作ってくれたサンドイッチをゆっくりと味わって食べたい。
それに、エメリッヒ伯爵令息が木登りをしてようが、逆立ちしてようが、腹踊りをしてようが、興味がない。
「いいから早く!」
レーアは有無を言わさず私の手を掴んだ。
私は彼女に引きづられ、部屋を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
中庭に出ると、大きな木の周りに若い女性が群がっていた。
木の上に視線を向けると、赤い髪が特徴的な若い男と虎柄の仔猫がいた。
「きゃーー! 素敵ーー!」
エメリッヒ伯爵令息が仔猫を捕まえると、女性達から拍手喝采が起きた。
「よしよし、もう大丈夫だよ」
女性たちが熱い視線を注ぐ中、彼は仔猫を抱きかかえて降りてきた。
「かっこよかったわ!」
「仔猫の為に危険を冒して木に登るなんて勇敢ね!」
彼の勇姿を見守っていた女性たちが、彼に称賛を送る。
「いや、ボクは当然のことをしたまでだよ」
彼がそう言ってはにかむと、周りの女性から「キャーー!」と黄色い声が上がった。
「彼って本当に素敵よね〜〜」
レーアも彼の笑顔にポーッとなっていた。
私には何度見ても、彼の笑顔は胡散臭くしか映らない。
「ねぇ、もう帰りましょう」
お昼休みが終わってしまう。
そのとき、遠巻きに見ていた私の存在に気づいたようで、エメリッヒ伯爵令息がキザな笑みを浮かべ手を振ってきた。
「見た! エリーゼ!
彼、私に向かって手を振ったのよ!」
「それは良かったね」
この際彼が手を振ったのはレーアということにしておこう。
そうすれば私が彼を無視したことにはならないはず。
「さぁ、用も済んだし帰りましょう」
私は友人の手を掴み、そそくさとその場を離れた。
部屋に戻った瞬間に、お昼休み終了を知らせる鐘がなり、私はサンドイッチを食べそこねてしまった。
◇◇◇◇◇
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