地球が滅びるまで……

藍条森也

地球滅亡まであと……。

 その日、地球は滅亡の危機を迎えていた。

 数年前にはじまった戦争がエスカレートの一途をたどり、ついに両国の国家元首が核ミサイルの使用を決意したのだ。

 だが、その寸前、世界中の天文台から連絡が入った。

 「五年後、地球に隕石が激突し、人類は滅び去ると言うのか⁉」

 「はい。世界中の天文台のコンピュータが同じ答えをはじき出しています。これは、疑いようのない事実です」

 「どうすればいい、どうすれば人類の滅亡を防げる? 核ミサイルでその隕石を撃ち落とすことは出来んのか?」

 「出来ません。宇宙空間にある物体を破壊するなど、現在の技術ではとうてい、不可能です。なにより、この隕石は巨大すぎます。たとえ、核ミサイルを撃ち込むことが出来たとしても破壊はおろか、軌道をかえることすら出来ないでしょう」

 「では、どうすればいい? 人類はこのまま滅びるしかないのか?」

 「はい。このままでは人類は第二の恐竜となって滅び去ることでしょう。ですが、ただひとつ、人類が第二の恐竜とならずにすむ方法があります」

 「それはなんだ⁉」

 「地球から脱出することです」

 「なに⁉」

 「まだ五年の時があります。その間にロケットを建造し、火星に基地を建設し、移住するのです」

 「しかし……たった五年で、どれだけの数の人間を火星に運べる?」

 「せいぜい、数百」

 「数百……。たった、それだけか」

 「はい。ですが、人類がわずかでも生き延びる可能性があるとすれば、それしかありません」

 「そうか……。ならば、選択の余地はない。各国の首脳に連絡をとれ。もはや、戦争などしている場合ではない。総力をあげて地球からの脱出計画を進めるのだ!」

 「はっ!」


 そして、その日から、歴史上はじめてすべての国家が協力しての計画が推進された。

 極秘のうちにロケットが建造され、火星基地が建設され、そしてやはり、極秘のうちにわずか数百人の人間だけがそれらのロケットに乗って地球を脱出した。世界各国の政治家とその家族だけが。

 そして、地球に残された人々は――。

 どうにもならなかった。

 接近しつつある巨大隕石。

 そんなものはどこにもなかったのだと地球を脱出した人々が知ったのは、火星に着いたそのあとだった。

 すべてはちょっとしたイタズラ。

 フェイクニュースを自動生成するためのAIが人類を驚かせるために世界中の天文台のコンピュータに侵入し、ありもしない隕石を見せた。

 ただ、それだけのこと。

 それだけのことによって政治家たちは戦争をとりやめ、地球を脱出した。それによって、核戦争の危機は永遠に遠のいた。

 なんの意思も、感情すらもない自動生成AIのイタズラが地球と人類を危機一髪で救ったのだ。

 そして、今日も地球を脱出した政治家とその家族たちは、荒れ果てた火星の荒野の上から二度と帰ることのできない故郷の地球を見上げている。

                 完

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