~危機一髪

ninjin

危機一髪

 俺は、随分と永いこと旅に明け暮れた。


 いや、旅に明け暮れたのではなく、俺の人生が『旅』そのものであったのだ。


 そして今、その永かった旅は、終わりを迎えようとしている。


 後悔はしていないと言えば聞こえは良いが、そう簡単に割り切れるものではないことも、分かっている。


 しかし、『後悔』や『懺悔』などという言葉を口にする、若しくはほんの砂粒ほどでも頭を過ぎらせてしまえば、その瞬間ときが旅の終わり、即ち人生の、そして命の終焉を迎える時であることは、疑う余地のない自明の理でもあったのだ。


 つまり、そういうことだ。

 俺は、強がってはいても、何処かしらで、そんなものを受け入れてしまっていたのかも知れない。


 それでも俺は、せめてその『後悔』『懺悔』などという言葉は口にしなまま、黙って逝かせてもらうことにする。

 それが先に逝ってしまった仲間たちへの、せめてものはなむけになるに違いないからだ。


 そして、俺も間もなく、そちら側に逝くのである。


 そうしたら、また再び、酒を酌み交わそうじゃないか。


 カリブの海を己が庭とし、暴れまわること幾年月。

 俺たちは、数限りなく、侵し、殺し、喰らい、奪った。


 らしくはないが、ひと言だけ、感謝を述べるとすれば、俺たちをここまで運んでくれた、ブラックビーズ号には、一方ならぬ恩義と親愛の念を感じていると、それだけは言っておこうか。


 キャプテン・キッド、ジャック・ラカム、遠い空の上からお前らは、今の俺を見て笑っているか?

 まさかこの俺がウッズ・ロジャーズ海軍提督なんぞに捕縛されるとはな。

 キッド、ラカム、笑いたければ笑ってくれ。


 こんな窮屈なところに閉じ込められて、身動きひとつ取れやしねぇ。

      ◇

      ◇

      ◇

      ◇

      ◇

 おや? 何だか騒がしいじゃねぇか・・・



――野郎どもっ、俺たちの船長を救い出せっ


――海軍相手だからって怯むんじゃねぇっ


――お頭ぁっ、船長ぉぉっ、何処ですかっ? 今、助けに行きますっっっ



 ・・・・お、お前ら・・・


 俺は、ここだ・・・。


 この、狭い樽の中に捕えられている・・・。


 ・・・・?・・・・ん?

 だが、お前ら、その剣・・・って・・・?


 ん? 赤、黄色、緑、青・・・???



――エドワード船長ぉぉぉぉっ


 赤い剣をかざした若い見習い海賊船員が猪突猛進、こちらに向かってくるっ


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 カチッ

 瞬間、

 ビヨーンっっつつつ


 俺は飛び出した。


 俺は・・・・、


 俺の名は・・・・、


 黒髭海賊団船長・・・・、


 エドワード・ティーチ・・・・。

      ◇


「ぎゃはははははっ、渡健、お前の負けぇ。ホラ、テキーラショット、一気だ」

「わーったよ、飲めばいいんだろ、飲めば」

「「「お、いいねぇ。それ、一気、いっき、いっき・・・」」」



 『黒ひげ危機一髪』、飲み会での一幕でした・・・。


 失礼いたしました。(^▽^;)



        おしまい

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~危機一髪 ninjin @airumika

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