星占いなんて信じない?

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危機一髪


『山羊座は星占い1位です! ラッキーカラーは赤。今日のあなたは何をやってもうまくいくでしょう!』


 決して占いを信じている訳じゃない。

 ただ、母親が朝つけているニュース番組で、ちょうど私が家を出る時間帯に必ず星占いをやる。そして、聞いてしまうと頭の片隅に残ってしまうというだけだ。


 そして早速朝から思っている。


(星占いのバカ、ぜんっぜん良い日じゃないじゃない)


 視線を感じていた。

 刺すような、舐めるような、何かを求めるような視線。


 朝から、思えば全然良いことなど無い日だった。

 通学の電車では事故があったとかで満員で、痴漢とかではないけれど、おじさんのカバンが刺さってくるし。

 授業では抜き打ちテストがあって、全然出来なかった自信がある。

 学食のお昼も、私の一つ前の生徒で食べたかった定食は売り切れになるし。


 どこが星占い一位よ、と思っていたら帰りにこれだ。


 私は昔から、見えないものが見えた。

 気の所為であってくれればどれほど良かったか。

 妄想と言われるならそれでもいい、物理的な害がないんだもの。

 人と違うことへの憧れないんてない。平凡に生きていたいの。


 そして最も悪いのは、見えるだけで何も出来ないということ。

 こちとら普通の女子高生だ。

 漫画に出てくるような霊媒師の知り合いも居なければ、陰陽道を極めていたりもしないし、守護霊のような守ってくれる存在もいない。


 事故が遭ったとされる場所で座り込んでいる子供が視える。

 冬なのに明らかに夏の服装をした、血を流している人が視える。

 明らかに時代の違うとわかる、背筋のピンとした男性が視える。


 視える。視える。視える。

 でも、何も出来ない。してあげられない。


 そして、自分が視えていないことに気づいていない人はまだいい。

 時々、いるのだ。


 どうやら自分はもうここにいないはずだと気づいてなお、居続けて。

 そして視える人間を悟ると、寄ってくるものが。


「……っは、はぁ、はぁ」


 いつもの帰り道のはずだった、なのにその視線から逃れるようにして、足早で夢中になっていて。

 ふと気づく。


(誰も……いない?)


 いつもは誰かが、同じように帰宅だったり、あるいは出勤しようとしているような人が通りがかるその道に、誰も居なかった。

 道沿いのマンションの前のゴミ箱と、電信柱の影が長く長く伸びているだけ。


 まだ薄暗い。

 夕方でも、夜でもない。

 黄昏時。


 聞いたことがあった、それは境界。

 この世と、この世ならざるものが一瞬入り交じる境目の時間。


 誰そ彼時。


「あ……!」


 そんな思考で恐怖がじわじわと上がってきた時。

 人影が見えた。サラリーマンのようだ。


 知らない人でも、ほっとする。

 そして近づこうとして、気づいた。


 背後からの視線がなくなっていて。

 でも気配だけが、背中が、足の先が、手の先が冷たくなるような悪寒。


 その人がこちらを向いて、笑った。

 笑っているのに、顔が視えない。


 よく見たら、何かが変だ。


 咄嗟に私は背中を向けて振り向いて――――


「!!! 嫌!!」


 何故かさっきまで逆側に居たはずの人が目の前に居て。


 また私は必死に逃れようとして、何かに足を取られるようにして転倒する。

 ゴミ箱に当たって中身がひっくり返って、近寄る気配に必死に手を伸ばした何かを掴むと、激痛が走った。


「え……?」


 欠けたガラスを掴んだ私の手のひらが大きく切れて、鮮血が流れている。

 手のひらから、腕にかけて。

 腕を振り回してしまったせいで、より深い傷となってしまったようだった。


「…………もう、嫌だ」


 そんな泣き言を漏らしてしまう。何が星占い一位よ。最悪じゃない。


 その瞬間、何故かふっと気配が弱まった。


「え?」


 途端に、世界が色を、喧騒を取り戻す。


「ちょっとあなた!? 大丈夫? 酷い怪我じゃない。もうこんなガラスなんてそのまま捨てるなんて」


「え? あの?」


 気がつくと周りには人が歩いていて、近くのおばさんが心配そうに私を覗き込んでいた。


 痛みがじくじくと今が夢でないことを告げる中で、助かったんだ、と思う。


 危機一髪というやつなのだろうか。

 あのまま捕まっていたら、どうなっていたのか。


 塩が効くという話もある。あるいは、血が苦手だったのかもしれない。

 妄想だとしたら、怪我の痛みが現実に呼び戻してくれたのかもしれなかった。


(そういえば、ラッキーカラーは赤だった)


 私はそんな事を、考える。

 当たるも八卦、当たらぬも八卦。信じるも信じないも、あなた次第。




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危機一髪、で思いつくままに書いてみました。


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