4.買い物とパーティ


 今回のホームステイで私の誤算は、他人様のお宅なのでケーキ等の買い食いができないこと。ホテルならば部屋でいれたお茶とともに食べるが、ここでは勝手にキュイジーヌに入り、皿や茶葉を使っていいかわからなかった。

 皆で食べましょうなんてお金もないし、そもそも彼らの予定がわからない(聞ける仏語能力がない)。


 結局買い食いは、私は自分の部屋でこっそり水と共に食べた。なんかむなしい。


 パティスリーでの購入は、一対一の対面式だ。次の人は声をかけられるまで待つ。その前がお喋りをして長くなっても、文句を言わずそういうものだと待つ。

 お姉さんがパンの包装にこだわり歌い出しても待つ。


 その代わり自分が選ぶのも、会計がとろとろしても後ろは文句を言ってこない。

Je私は voudraiほしい trois三つ macaronsマカロン  s’il vous plaît.おねがいします


「マカロン三つ下さい」おいしそうなパティスリーを見つけると、まずそれを言うのが私の決まり文句だ。マカロン三つで味がわかる。

 それに、“何が”、“何個ほしい”、それを伝えると、あとは、欲しいマカロンを言えばいいだけ。


 まずはピスタチオピスターシュはお決まりだ。次はショコラでもいいし、

バニラバニーユ、たまにフランボワーズ。三点言えばいいだけ。


 そしてフランスで嬉しいのが注文すると「完璧パフェッ」と言ってくれること。パーフェクトのことだが、まるで選択を褒められたようだ。


 私は、日本とフランスのマカロンを別物と思う。日本のマカロンは外側がグジュ、そして中がベタッだ。フランスのは違う。外はさくっ、中はふわっだ。何が違うのだろう。冷凍保存してしまうから? 

 フランスでもマカロン専門店は好みではない。パティスリーなどで余った卵白で少しだけその日作っているのが美味しいのかもしれない。


 そして私はパリの散策があまり好きじゃない。なぜなら、大きすぎて店が探せない。


 欧州の街はだいたい壁に囲まれていて、列車でいくと街→森→街という感じ。その街の中央に教会や塔、端に城がある時もある。一時間くらいで歩ける。

 その散策で美味しいパティスリーやショコラのお店を見つけられる。


 滞在したトゥールーズは、三分歩けば、パティスリー、ショコラ、パティスリー、美味しい店にぶちあたる。目にした店に入りきれないほど。


 それにパリは高い。日本と同じくらいだ。ステイ先でも言われた。パリでお土産を買うより、ここで買った方がいいと。


 大抵がショコラも量り売りだ。ウィンドウ越しに、指して袋に詰めてもらう。私は、その日のおやつとして、四粒ぐらいを買う。

 日本では四粒でも何千円もするけど、パリ以外では四粒二.五ユーロぐらいだった(円安前は一ユーロが百三十六円ぐらいだった)。


 ところで気を付けた方がいいのが、ショコラも生もの。ベルギーで有名な王室御用達のガレー(大好き)でショコラを買った時のこと。二段ボックスでたぶん二十粒ぐらい、三千円もしなかった。

 そんな大量のチョコを、私は旅行中少しずつ食べていった。買った日は、ふんわり、口の中で溶けて感動だった。


 ところが次の日、あれ? 次の日あれ? 硬くなりだんだんと味が落ちていく。ショコラもケーキと同じで生ものだ! と実感した。(作り置きかもしれないけど)


 バレンタインで空輸されたショコラを買う方は風味が落ちていくのを心得たほうがいい。それなら日本で作ったものを買った方がおいしいかも。……と思っていたが、サロンドショコラで買う高級チョコレートは、濃厚で複雑な味でやっぱり格が違う……。



 ――私が帰る週末は、ムシュウが庭でパエリヤパーティをしてくれた。あちらでは、米も食べる。大抵、メインにやパスタや、パンを添える。


 フランスではパスタはお勧めしない。日本の方が美味しい。それは仏語の先生も言っている。

 フランスではピザも美味しくない。

 イタリアのピザは美味しい。手の平より大きい一切れのピザやパニーニは三ユーロもしない。キヨスクで頼むと必ず温めるかと聞いてくれる。不親切な海外では珍しい。

 美味しくないものを食べさせるのは矜持が許さないのだろうか。いや、食いしん坊なだけだ。

 それと共に、二ユーロのエスプレッソを飲めば完璧だ。


 パエリヤパーティは友人たちが来て大盛況だった。ギターを弾く人、歌う人、まどろみながらの昼下がり。フランスでパエリヤ? と思ったが、大きな鉄なべで庭のコンロで作ってくれて美味しかった。


 ――一度フランスで暮らす日本人のエージェントが訪ねてきた。彼女はこの家と応募した日本人を繋ぐ役割を片手間にやっているようだった。この国はホームステイに抵抗がないからできるのだろう。


 マダムと友人の彼女は私に不都合がないか尋ねたので、私は料理でお返しをしたいと相談した。


 彼らは甘じょっぱい味が好きらしい。例えば焼き鳥、お好み焼き。日本のソースは日本食材店で売っているが高い。


 ロールキャベツも考えたが、この国のキャベツは全く違う。しわしわで硬いものだから難しい。野菜の肉巻きを作ろうかと思ったが、この国は薄切り肉を売ってない。


 私は親子丼を作ることにした。エージェントが家にある日本のだしの素と醤油を貸してくれた。ご飯はムシュウが炊いてくれる(鍋で)。

 あとは、ソーセージと豆のスープを作ることにした。


 マダムが友人達に電話をかけて、「さくらが料理を作るから」と招待してくれた。


 料理は少し時間がかかった。何しろ切れないナイフでは玉ねぎやニンジンを切るのは一苦労。ちなみに私が野菜を洗おうとしたら止められた。「なぜ皮をむくのに洗うのか」と。


 彼らは庭で摘んだハーブも洗わない。ミントもタイムもローズマリーも。「チェルノブイリからは遠いから平気よ」と言われた。埃を落としたいのだけどな。


 スープ用のソーセージは店で生のままぐるぐる吊るされているのを、このぐらいと指定して買う。親子丼は鶏肉を炒め、玉ねぎを入れる、あとは卵でとじる。

 途中でムシュウに米を炊いてほしいと頼む。鍋に角切りのニンジンと缶のひよこ豆、玉ねぎ、ソーセージを切りコンソメとハーブを入れてスープを作った。


 親子丼は、平皿に卵とじを載せ、横に米を添えた。ちょっと日本のとは違ったけど。


 ――作った料理は大好評だった。

 親子丼より好評だったソーセージと豆のスープのレシピをマダムに聞かれた。ただのコンソメ味です。


 そうして、私のホームステイは終わった。邸宅ではなかったが、とてもアットホームだった。日本でも美味しいものはたくさん食べられる。でも、あちらは安い。そしてマカロンマキャロンはまだフランスに敵わないと思っている。


 今では私は仏語をすっかり忘れた。ステイはもうしないけれど、勉強はしなおそう、そう思っている。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マダムと私の美味しいフランスホームステイの日々! 高瀬さくら @cache-cache

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ