恥ずかしい告白をギリギリで回避した

烏川 ハル

恥ずかしい告白をギリギリで回避した

   

『ネットって顔が見えないから、とんでもない失敗することもあるよねー』

 と言い出したのは、オンラインゲームで知り合ったヨウコさん。


 彼女と話をしていると、いつも気持ちが明るくなる。太陽をイメージするほどなので、僕は頭の中で「陽子」という字を当てているけれど、ヨウコさんのアイコンは狐の絵柄だ。彼女としては「妖狐」のつもりかもしれない。

 アイコン云々を持ち出したように、ゲーム付随のチャットウインドウにおける会話だった。だから今まさに「顔が見えない」状態の真っ最中で……。


「ああ、ありますねー。ネットって黒歴史製造機みたいな側面もありますし」

『そうそう。私が一番恥ずかしかったのは……』

 適当に返した僕に対して、ヨウコさんは相槌を打ちながら、個人的な失敗談を披露し始める。

『……本気で惚れちゃってマジ告白した相手が、実はネカマだったこと。正確にはネカマってより、向こうにはいつわるつもりも騙すつもりもなかったの。たまたま女性っぽいハンネってだけでね。同じゲームの仲間は、みんな彼の中身が男だって知ってたの。しばらくは揶揄からかわれて、あんまり恥ずかしいから、そのゲームからも自然に足が遠のいたくらいよ』


「ハハハ……。でも、そういうのってよくある話じゃないですか? 恥ずかしくて足が遠のくだなんて、そこまで大袈裟に思い詰めなくても大丈夫ですよ」

 平然とした口ぶりの文章だが、入力する僕の指先は震えていた。

 それほど大きな衝撃を受けたのだ。でも幸いこちらの様子はヨウコさんには見えないので、言葉のままに受け取ってくれた。

『あら、そうかしら。ハラダくんも、似たような経験したことある?』

「ええ、もちろん。結構最近の話ですが、僕の場合は告白する寸前に相手の性別を知る機会があって……。恥ずかしい告白をギリギリで回避できました」

『告白する寸前? じゃあ危機一髪だったのね』


 そう、結構最近。いや「結構」どころか、まさに今この瞬間だ。

 今日は、僕とヨウコさんが知り合ってちょうど一年の記念日だから……。

 ヨウコさんが「告白した相手がネカマだった」と言い出さなければ、ヨウコさんを女性と思い込んだまま「僕と付き合ってください」と交際を申し込む予定だったのだ!




(「恥ずかしい告白をギリギリで回避した」完)

   

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恥ずかしい告白をギリギリで回避した 烏川 ハル @haru_karasugawa

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