カクヨム名作劇場。 ハーメルンの笛吹き。〜ネズミを退治するから星をくれ? そんなのダメに決まってるだろ!〜

無月兄

第1話

 むかしむかし、ハーメルンの町にはネズミが大量発生し、人々を困らせていました。


 特に市長は、住民からの何とかしろという苦情が山のように来て頭を抱えています。


「どうしよう。このまま何もできなくては、次期市長選に落選してしまう。秘書くん、何か案はないかね」

「そう言われましても。駆除業者に頼んでも、数が多すぎて無理と言われてしまいました」


 このまま町はネズミで溢れかえってしまうのでしょうか。

 しかしその時、いきなり何者かが市長室に入ってきました。


「市長さん、お困りのようですね。私が何とかして差し上げましょうか?」

「な、なんだ君は?」


 市長と秘書は困惑しています。アポなしで突然訪ねてきた見知らぬ男、しかも、なぜか手には笛を持っていて、これ見よがしに吹くまねをしています。

 どう見てもヤベーやつです。


「秘書くん。警備のを呼んでつまみ出すんだ」

「はっ、かしこまりました」


 これには男も慌てました。ここでつまみ出されてしまっては、話が終わってしまいます。


「ちょっと待ってくださいよ。私は怪しいものじゃありません。ただの笛吹きです」

「突然やって来て笛吹きと名乗るのは、十分怪しくないか?」

「そんなことはどうでもいいのです。それより、ネズミに困っているのでしょう。私ならなんとかできますよ。この町のネズミを全部退治してみせしょう」


 そういえばそんなことを言っていたなと、市長は思い出します。

 ヤベー奴が来たって印象にかき消されて、今まですっかり忘れていました。


「本当にそんなことができるのかね?」

「もちろん。ただし、報酬はいただきますけど」


 ほら見ろ。やっぱり怪しいものじゃないか。

 こう言って効果のない薬品だの機器だのを売りつけるんだろ。その手には乗らないぞ。


 そう市長は思いましたが、笛吹きは続けます。


「報酬を受け取るのは、ネズミがいなくなってからで構いません。それなら、あなた方に損はないでしょう」

「まあ、確かに……」


 笛吹きがただのホラ吹きでネズミをなんとかできなければ、無理だったじゃないかと言っておい返せます。

 そして本当にネズミを退治できたら、報酬を払っても構いません。


「それで、望みの報酬はいくらだ?」

「いえ、私がほしいのはお金ではありません」

「なに?」


 ここで市長は嫌な予感がしました。

 別に、お金なら多少高額でもいいのです。どうせ払うのは、自らの財布からではなく、市の予算からなので。


 しかし例えば、ほしいのは市長の座なんて言い出したら大変です。

 今座っている市長の椅子を渡さなければなりません。一人で高いところからハーメルンの町を見下ろし、「この町は俺のものだ」と言う遊びもできなくなってしまいます。


 果たして報酬は何なのか。緊張しながら、笛吹きに尋ねます。

 すると笛吹きはこう答えました。


「私がほしいのは、カクヨムの星です」

「な、なに!?」


 これには、市長の座以上に驚きました。


 カクヨムといえば皆さんご存知の、小説投稿サイトです。そして星というのは、面白かった作品を評価する際、その作品に送るもの。これも、皆さん知ってますよね。


 その星を、笛吹き男はくれと言っているのです。


「実は私、カクヨムに小説を投稿しているのですよ。そして、ランキングの上位をとるのが夢なのです。私が調べたところ、この町の住人のほとんどはカクヨムユーザーです。私がネズミを退治したら、町の住民全員が、私の作品に星を入れる。そうすれば、私の作品のランキングは急上昇。もしかすると、書籍化のオファーが来るかもしれませんね」


 そうなった時を想像しているのか、笛吹きはニヤニヤと笑います。

 しかし、市長は笑うことなどできませんでした。


「なにをバカな! カクヨムの星は、きちんと読んで面白いと思った作品に送るものだぞ。そんなのは間違っている!」


 市長の言う通りです。

 何かの見返りに星をやることも、それを要求するのも、カクヨムの絶対的タブーです。絶対に絶対にぜーったいに、そんなことをしてはいけません。


「それは残念。ですがいいのですか? このままだと、町はネズミで溢れたままなのですよ」

「くどい!」

「まあまあ、そんな冷たいこと言わずに」

「しつこいぞ!」

「バレなきゃいいんですって」

「まだ言うか!」

「おーねーがーいー!」


 ダメだダメだと言っているのに、笛吹きは一向に引き下がりません。手足をバタバタさせながら駄々をこね始めました。

 市長もいい加減疲れてきました。


(そもそもコイツ、本当にネズミをなんとかできるのか? どう見ても胡散臭いし、きっと嘘に違いない)


 そんなことまで考えはじめました。

 そしてとうとう、こう言ってしまいます。


「わかった。そんなに言うなら君の条件をのもうじゃないか。ただし、期限は明日だ。明日の朝、町に一匹でもネズミが残っていたら、星はやらん。大人しく帰ってもらう。それでもいいならやってみろ」


 すると、それを聞いた笛吹きはニヤリと笑います。


「いいでしょう。明日の朝を待っていてください」


 そうしてようやく、笛吹きは市長室を出ていきました。

 市長室には、市長と秘書の二人が残りました。


「市長、大丈夫ですか、あんな約束して。私はあんな人の作品に星をやるなんて嫌ですよ」

「なあに、心配ない。どうせネズミを全部退治するなんてできやしないんだ」


 市長はそう言ってハッハッハと笑いますが、秘書はなんだか嫌な予感がしました。

 できやしないと高を括る市長のこの態度が、フラグにしか見えなかったからです。


 そして、その予感は当たりました。


 その日の夜、笛吹きが持っている笛を吹くと、町中のネズミが集まってきました。

 それからネズミは近くの川へと飛び込んでいき、一匹残らず溺死しました。

 翌日、この川の近くに住んでいる人達はその光景をみて気分が悪くなったそうです。


 しかし何はともあれ、男は約束通り、この町のネズミを一匹残らず退治してしまったのです。


 これには市長も秘書も大慌てです。


「えっ? あの笛吹き男、ホントにネズミを退治したの!?」

「だから大丈夫かって言ったじゃないですか!」

「だって本当に何とかするのは普通思わないだろ!」


 するとその時、市長室のドアが開きました。

 笛吹きが来たのかと身構える二人。しかし入ってきたのは、笛吹きではありませんでした。


「あぁっ、あなたは!」


 入ってきたのは、人ではなくトリでした。

 丸々とした体型の、首元に四角い何かをつけている、みんなご存知カクヨム公式マスコットの、トリさん。

 そのトリさん本人が、いや本鳥が、市長室に入ってきたのです。


「噂で聞いたトリ。君たち、報酬として星を渡す約束をしたのは本当かトリ!」


 どうやらトリさんは、語尾に『トリ』ってつけるというキャラ設定のようです。

 公式ではどうか知りませんが、この話のトリさんはそうなのです。


 それはさておき、これには市長も秘書も真っ青になりました。


「ごめんなさい。あまりにしつこいので、どうせできるわけがないと思って言っちゃいました。どうか、ペナルティとしてアカウント停止だけは勘弁してください。市長の座をあげますから」

「そんなのいらないトリ。けどまあ、あまりにしつこかったのなら仕方がないトリ。幸いまだ星はやっていないみたいだから、今回は警告だけでおしまいにするトリ」

「ああっ、ありがとうございます!」


 市長も秘書も、心からホッとしました。

 やっぱり、報酬として星を渡すなんて間違っていたのです。

 また、読んでもいない作品に星をばら撒くのもダメです。

 そんなことしたらアカウント停止になることもあるので、皆さん気をつけましょう。


 というわけで、しっかり反省した市長。

 それから笛吹きがやって来ましたが、毅然とした態度で対応しました。


「やっぱり不当な手段で星をやるのは良くないのでダメね」

「そんな、約束を破る気か。この嘘つきめーっ!」


 あっさりと企みが潰えた笛吹きは怒りました。

 それはもう、めちゃくちゃにキレちらかしました。

 あまりのキレように、市長と秘書はドン引きしました。


 元々、あんな方法で星を集めようとしたやつです。キレると何をするかわかりません。


「秘書くん。いざとなれば私の盾になってくれ」

「えっ、嫌ですよ。普通に市長を置いて逃げますって」

「今度のボーナスをアップさせるって言っても?」

「命の方が大事です。死んだらカクヨム活動ができなくなります」

「そんな……」


 しょんぼりする市長ですが、二人がそんな言い合いをしているうちに、笛吹きはまた笛を吹き始めました。


 すると今度はネズミでなく、町中の子供たちが集まってきました。


「約束を破った罰だ。この町の子供たちは連れていく。返してほしければ私の作品に星をやるんだな」


 笛吹きが誘拐犯になった瞬間でした。


「待て。子供たちを返せ!」


 市長がそう言って呼び止めますが、笛吹きは構わず、子供たちを連れて町を出ていきました。

 大人たちが子供を取り返そうとしますが、不思議な力で操られている子供たちは、力ずくで抑えようとしてもどんどん歩いていきます。


「ハハハハ! 星をくれたら返してやるぞ」


 笛吹きは得意げに言いますが、そんなことはできません。

 そんな理由で星をやるのは大罪なのです。


 何より、操られている子供たちだって、実はカクヨムユーザーでした。

 自分達を助けるために不当に星が送られたなんてしったら、子供たちの心に消えない傷ができてしまいます。


 いったいどうすればいいのか。

 そうしている間に、子供たちの集団は、山の中にある洞窟に入ろうとしています。

 その洞窟に入ったら、二度と帰ってこれなくなります。どういう理屈かはわかりませんが、なんかこう、そんな感じなのです。


「子供たちよ。止まれ! 止まるんだーっ!」


 市長が懸命に叫びますが、誰の耳にも届いていません。

 もとより子供たちにとって、市長なんて知らないおじさんでしかないのです。


 もはやここまで。絶体絶命。誰もがそう思ったその時でした。


「トリーーーーっ!」


 突如、辺りにそんな声が響きます。

 カクヨムの公式マスコット、トリさんが、ここまでやってきたのです。


「子供たち、止まるトリ!」


 しかし、トリさんが叫んでも子供たちは止まりません。

 市長はともかくトリさんならなんとかなるかもと思っていた大人たちは、失望の色を隠せませんでした。

 しかしトリさんは、さらに叫びます。


「カクヨムで新作がじゃんじゃん公開されてるトリーーーーっ!」


 すると、どうでしょう。


「えっ。カクヨムの新作?」


 子供の一人が、そう言って足を止めました。

 いえ、その子だけではありません。

 カクヨムの新作を読みたい。面白い話を読みたい。そんな思いが、次々と笛のパワーを跳ね除け、子供たちは正気に戻っていきました。


「みんな、ヨムなら町に戻ってからにするトリーっ!」


 今度は、トリさんの呼びかけにもみんな素直に従いました。

 みんな、ケガもなく町に戻っていきました。


「ふーっ。危機一髪だったトリ。けど、子供たちは助かったトリ」


 子供たちを助けられて、満足気なトリさん。

 一方、この事態に悔しがったのは笛吹きです。


「そ、そんなバカな……」


 彼は星を貰うことも、腹いせに子供達をさらって復讐することも叶いませんでした。


 しかも、それだけでは終わりません。

 笛吹きに向かって、トリさんは言いました。


「お前は罰として、カクヨムのアカウントを取り消すトリ! こんな手段で星を手に入れようとするやつを見逃してはおけないトリ!」

「そんなーーーーっ!」


 というわけで、笛吹きは見事罰を受け、カクヨムから追い出されてしまいました。


 星は、ちゃんと読んで、面白い作品に送ること。

 人に、星をくれと無茶な要求をしないこと。

 皆さんも、このルールはちゃんと守りましょうね。

 特に、カクヨムコンの時期はそういうことをする奴が増えるから気をつけよう。


 トリさんとの約束だ!


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