嫌いなところもあるけれど、大好きな私の彼
鋏池 穏美
サプライズは好きかな?
ちょっと年上の私の彼は、古い物が大好きだ。
レトロ? 骨董品? 兎にも角にも彼は新しい物や技術には興味がなく、だがそんな彼を私はたまらく好きである。
ちょうど今、私が運転する車は彼の車。旧車と呼ばれるもので、ハンドルが少し重い。彼が言うには衝突にもめっぽう弱いらしく、車検も危ういほどらしい。あまりスピードを出さずに安全運転に努める私の横で、彼がすやすやと眠っている。
朝起きたらすぐにお酒を飲んで酔っ払うので、せっかくの大切な出来事を覚えていないこともしばしばな彼。大好きな彼だけど、そんなところは嫌い……、
だけど、やっぱり大好き。
酔って事故を起こしたこともあるが、その時は運良く軽い怪我で済んでいる。飲酒運転は良くないけれど、悪運のいい所も大好きだ。
そんな助手席で眠る彼を起こさないように、ゆっくりとブレーキをかけ、路肩に車を停める。ダッシュボードの上に置かれた古い紙の地図を手に取り、目的地を探す。
そう、彼はカーナビもスマホのNAVIアプリも使わないのだ。せっかくだから私も今日は、紙の地図で目的地を目指そうとしている。のだが……、
やっぱり古い紙の地図だからか、昔と違う道があったりとよく分からない。だからこっそりスマホのNAVIアプリを見たのは彼には内緒。相変わらず彼はすやすやと眠っていて、私はそんな彼に「あなたと付き合えてよかった」と、優しく声をかける。
そんなこんなもありながら、ようやく目的地付近に到着。この後の予定はまだ彼に話していない。だってサプライズだから。喜んでくれるかな? サプライズ嫌いだったりしないかな? そんなことを考えながら、助手席の彼を起こす。
目を覚ました彼は、とても驚いた表情で「え!? どういうことだ!?」と
なぜなら彼の体は、助手席にロープで縛り付けられているから。
そんな五月蝿く喚き散らす彼に、私はきちんと説明してあげる。
「この場所覚えているでしょう? そう、あなたが
この先は使われなくなった廃道。道の先はトンネルなのだが、コンクリートで塞がれている。彼に轢き殺された
「あなたは
そんな私の言葉を彼は聞かず、相変わらず狂ったように騒いでいる。その姿がとっても可愛くて、少しぞくぞくしてしまったのは彼には内緒。とにかく彼にきちんと説明しようと、言葉を続ける。
「古い物にしか興味がないあなたが大好き」
だってこの車は、衝突に弱い上にエアバッグがないから。
「朝起きてすぐにお酒を飲むところは嫌いだけど、でもやっぱり大好き」
だってそのおかげで、前日の夜にお酒に睡眠薬を入れればいいだけだったから。
「飲酒運転で彼を轢き殺した時も、軽傷で済んだ運のいいあなたが大好き」
だってあなたも死んでいたら、私の手で殺すことが出来ないから。
「懲役四年と六ヶ月程度で済んだ運の良さも大好き」
だってそれ以上待っていたら、頭のおかしくなった私は
「あなたと付き合えてよかったと心から思う」
だってこの場所に、とっても簡単にあなたを連れてくることが出来たから。
相変わらず大好きな彼は騒いでいるけれど、サプライズが成功した私はアクセルに足を乗せ、トンネルを塞ぐコンクリートの壁に視線を向け、彼にこう伝えた。
「……じゃあそろそろ逝きましょうか? 私とあなたの道が交わったスタート地点へ──」
と。
(了)
嫌いなところもあるけれど、大好きな私の彼 鋏池 穏美 @tukaike
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