第11話
辺りも暗く成り始めると少し肌寒さも感じる。周りの隊員達も眠りに落ちているのだろうか、静かな夜空にトラックの駆動音だけが聞こえる。
トラックの揺れにも慣れてき始めてきた、そんな時であった。
舗装されていない砂利道でブレーキのかかる音が2つほどすると、慣れ親しんだ揺れが止まった。しかし、体は未だにふわふわ揺れているような感覚を持ち続け、なんだか落ち着かない様子であった。
「ふぁぁぁ」
トラックを運転していた隊員が運転席から降りて大きく伸びをする。それは寝起きの猫よりも長かった。
皆が休んでいる間に彼はずっと皆を運んでいたのだ。疲れを持って当然だろう。
「ん? 着いたか」
私の隣で細い寝息を響かせていたノラさんが、目を擦りながら辺りを見渡す。
「おはようございます」
辺りは夜であるが、なんとなくこう言いたかった。
決して外れているわけではなかったようで、ノラさんもおはよと小さく返してくれた。それと同時に立ち上がり、トラック内の隊員を小突いて周った。
皆も到着の合図と分かり、各々首を回したり体を伸ばしたりと寝起きの運動をして続々とトラックから降り始めた。
「よっ」
私もそれに続きトラックから飛び降りる。ずっと座っていたため着地と同時によろけてしまったが、体が身体を伸ばす喜びを体感している。
「ずいぶんとそっちは騒がしかったな」
前方を走るトラックに搭乗していたエルヴィスがこちらに歩み寄ってきた。彼は運転はしていなかったものの、運転手の隣に乗り込むところは見た。
彼にとってはこれが日常なのだろう。その顔は初めにあった時とは変わらず、疲れの様子は一切見当たらない。しかし、今の私にはとても頼もしい人に映っていた。
「じゃあ、行くぞ準備しろ」
全員が下りたことを確認すると彼は、足早とその場を後にしようとする。
みなもそれに続き、荷台に乗せてあった木箱を2人の隊員が両端を持って運んでいる。私はと言うと、暗がりの中最後尾を歩くことへの抵抗からか、少し速足で集団の真ん中まで歩みを進めた。
また、どれほどの距離を歩くのかと杞憂していると。その結果を案外早くに知ることになった。
「よし、この辺で良いだろ」
先頭を歩くエルヴィスは樹林の中をなんの躊躇もなく進んでいたと思ったら、10分も歩かないうちに歩みを止めた。
「みんな俺の周りに集まってくれ。次の説明をする」
隊員たちは何をいうでもなくエルヴィスを囲むように移動を始める。私も流れに身を任せその輪の一員になった。
「今回は橋の爆破だ」
端的に述べられるそれを、私も隊員達も分かってはいたため、特に驚きの声は上がることは無かった。私は特に意識をすることなく、輪の中央にいるエルヴィスの足元にある木箱に目を落とした。
それがいまここで不意に爆発するなんてことは、ここにいる誰しもが考えてはいないだろう。
「詳しくは後で話すが、敵国の前哨基地の退路を断つための橋2つの爆破が俺達の任務だ。爆破後すぐに撤退。その後軍が制圧に入るようだ」
その説明に、こんな私ですらいくつかの疑問が浮かんだのだが、それを聞いて話を止める意味もないだろうと思いそのまま話を聞くことにした。
「それでは、実働班を呼ぶ」
エルヴィスは10名の隊員の名前を呼んだ。私の勝手な予想でルークは入っているのだろうと思っていたが、彼の名前が呼ばれることは無かった。もちろん私の名前も。
「そして、残りの者は制圧の任務だ。もちろん敵も橋の周りの強化はしているから、それを上手く引きつけ爆薬設置までの時間を稼ぐ」
実働班が一番危険な役回りだと思ったが、どうやらそうではないようだ。
的確な敵の数や配置すら正確でない状態で戦わなければならないのだから。
「今回の任務は時間的にかなりシビアなものになる。橋の破壊が確認でいたらすぐに軍が突入することになっている。犠牲者を出さないためにはいかに引きつけから設置爆破までの時間を短くするかだ」
「ま、いつも通りってことか」
1人の隊員が隊長の言葉を聞き終わった後に、そんなことを口にする。それは決して投げやりになっているわけではなく、改めて確認をしたというところであろう。
「そうだ。いつもどおり難関だ。ただ俺達なら出来る。生きてまた会おう」
そう言葉を締めくくったのちに隊員たちは動き始めた。自身が何をするべきかを、これだけの説明で皆理解できたようで、分からないのは私だけのようだ。
どうすればいいか立ち往生していると、隊長が追加で私とノラさん、そして数名の隊員の名前を呼んだ。
「お前たちは後方支援だ。ここにいる全員が生きて帰れるように頼んだぞ」
そういってエルヴィスもその場を後にした。
私はノラさんの方を見ると、その表情は戦闘前の険しいものに変わっていた。後方支援だからと言って安全ではないことを、その表所から察することができた。
「エリナ。私たちはね怪我人が出たらそこに一目散に駆け込むの。治癒は一秒でも早い方が良いのは知ってるね」
「はい」
発する言葉は急いで喋っているわけではないだろうが、短く切られている鋭いものであった。
「安全な場所に運べるなら運ぶ。そうでないなら、その場で安全を無理にでも確保して治療する。分かった?」
「分かりました」
一秒を争うというのは文字通りのようだ。
言葉で説明されてイメージはできるものの、本当にそれを銃弾が飛び交う中で実践できるか私に想像ができない。
しかし、ノラさんは少なくともそれを実践し続けてきたのだろうし、他の隊員達も不思議そうな顔を一切していない。
「もたつきは命取りになるからね。私の指示をよく聞いて」
「はい!」
正直怖い。恐怖に包まれそうであるが、今の私にできるのはノラさんを信じて気持ちでは負けていないことをアピールするために元気よく返事をするだけだ。
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かすり傷程度しか治せない無能ヒーラー、最前線に送られる。 伊豆クラゲ @izu-kurage
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