第10話 仲間になれたかな?
「あの、1つ聞きたいんですけど」
私は恐る恐る片手を上げその場にいる全員の注目を集めようとした。
「どうした?」
それにいち早く反応したのがノラが私を隣から覗き込むように見つめていた。
他の隊員達ももれなく私たちの方を見ている。
「それになのに、なんというか。その。皆さんからあまり尊敬を感じないというか……」
話し方や対応そのものに違和感を感じる。もし初めに自己紹介をされていなければ、誰が隊長かは外から見ただけでは分からないだろう。
「そうだな。ここの部隊は詳しく言えば部隊じゃないしな。みんな階級もないから」
「そうそう。勝手に集まった集団が、なんかよくわからんがトリディア国のために戦っていて、便宜上エルヴィスが指揮を執っているってだけだからな」
確かに初めにそんな説明をされたが、そんな都合のいい話があるだろうか。それでなぜ成り立つのだろうか。軍とは階級があり上から下へと命令があるから、統率のとれた行動ができるものだと思っていた。
そうでなければ、命の危険を晒される場所で規律が保たれないであろう。
「そうそう。だからさっきエリナが敬礼をしているのを見てついつい懐かしくってな。ここじゃすることはそうそう無いからな」
「な、なるほど」
私が笑われたいたのは決して馬鹿にされていたわけではないようだ。これを聞いて少し安心できた。
先ほどまでやっぱり受け入れてもらえていないのかと一概の不安を覚えていた。
「もう1ついいですか?」
話を聞けば聞くだけ、頭が混乱しそうではあるがこの機会にあらかたの疑問は解消しておきたい。それはこれからの私の役に立つだろうから。
「いいぜ、何でも言聞いてくれ」
「おじさんが若い女の子と話してたのしくなっちゃってるじゃんか」
「うるせぇな。ここにいる全員そうだろ」
隊員同士でからかい合う様子をノラさんは、今までのように頭を抱えるわけでもなくにこやかな様子で見守っている。
「皆さんはどうして、そんな冷遇されても戦えるんですか」
これは最大の疑問であった。
普通なら認められないというか、受け入れられないだろう。実際私がそうであった。これから本当に武器を持って人を殺すために生きていけるのか、私にはその自信も覚悟もない。
ましてや、感謝されることもないし、恩恵を受けることもない。
死にたくない。それが最大の理由であることは分かるが、それだけであったら他にも生き方はあるはずだ。それこそ、国の中心地を離れれば戦火に巻き込まれる可能性は高いかもしれないが、前線にいるよりはよほど安全な暮らしができるであろう。
「それは生きるためだよ」
生きるため……か。
「ま、そんな簡単な話じゃないけどな」
「自分だけの問題じゃないってことだな」
言葉足らずな隊員の代わりにノラさんが私にそう答える。
「国に家族がいるやつだっているし、ここの中でいけ好かない奴がいたって同じ生きるために必死になっている仲間だ。だとすれば自分のせいで他人が死ぬのなんて嫌だろ」
「私も、今何をしているか分からないが国に子どもがいるんだ」
ノラさんは寂しそうな目でトリディアの方を見る。
「だから、軍の連中は気に食わないし機会があればぶっ殺してやりたいくらいだけど、ここで戦わなくちゃいけない理由があるんだよ」
早くに自分以外の物を亡くした私は、自分のため以外に生きる理由は無かった。
救護部隊で働いていた時だって、怪我人を助けることに私に全力を注いでいたが、それが生きる理由で戦う理由かと言われたら、そんなことは無かった。
そんな心意気で軍にいてはいけなかったのかもしれないと、自身の考えは甘かったのではないかと思ってしまう。
「そういうエリナはどうなんだ。厳しいことを言うが、戦場はなにか強い想いがないと中々生き残るのは難しいよ」
今まで激戦の中で今日まで生き抜いてきた人の言うことには、それだけの重みがある。
きっとノラさんや他の隊員の人たちから見れば、私の存在はとても軽いものに映っているだろう。
「私は……。分かりません」
それでも私は正直に答える他なかった。そもそも嘘なんてついてもすぐにバレると分かっているから。
みんなが黙り込む。
「私は貧しい農村出身で、戦争のために多くの人が駆り出されほとんど子どもと老人しかいない村でした。両親は私が幼いころに戦争で死んで生きるためには軍人になるしかなかったんです」
「エリナみたいな子が少なくないんだろうな」
先ほどまでのワイワイとした雰囲気とは一変してなんだか湿った空気になっていた。
皆が皆、戦う理由のことを想っているのだろう。
「私も同じ思いを息子にさせていると思うと……」
隣から震えた声でそう聞こえてきた。顔はうつ向き垂れる髪で、その表情は誰からも見えない。
今の私に言えること。戦う理由。
「だから私は生きるために生きます」
「それが一番シンプルで揺るぎないな」
正面であぐらをかく男性が強く私の言葉を肯定してくれた。
「できれば、俺たちを殺さないようにしてくれるとなお助かるな。救護部隊だったんだろ?」
「お前話聞いてなかったのかよ。エリナは救護部隊にいたけど特に秘力は使えないっていってただろ?」
「あれ? そんなこと言ってたか?」
「いえ、あの全く使えないってわけじゃないんですけど。もの凄く弱いと言いますか……」
「なにかできるの?」
ノラさんが聞いてくる。
荷物運びくらいしかできないと言っていた手前気になるのだろう。別に謙遜しているわけでも隠しているわけでもない。
「かすり傷程度なら……」
皆から笑いがこぼれる
「そりゃ助かる。なに、俺たちが行く道は基本けもの道やら、木々をかき分けていかなきゃいけないからな。露出している所は擦り傷だからだから、それを直して貰えるのは助かるわ」
「そんなんでノラにいちいち頼めないからな」
「当たり前でしょ。傷を治すのがどれほど体力がいることか、あんたたちは理解してなさすぎるのよ。だから馬鹿みたいに突撃ばっかりして」
決して嘲笑しているわけでもないと分かるその輪に私は包み込まれた。
彼らはこうやってどんな人もこの輪の中に受け入れてきたのだろう。決して烏合の衆じゃない。皆の仲間意識からできた部隊なのだと知ることができた。
「もし、本当に私なんかの秘力が役に立つのでしたら言ってください!」
今までは必要とされていなかったし、そもそも私自身がこの秘力のことを恥じていた。使うとしても転んで手足を擦った自分に使う程度。
誰よりも自分が自分のことをさげすんでいたのだった。ここでならそれを有効に使うことができるかもしれない。ここでなら自分に自信を持つことができるかもしれない。
そんな風に前向きに思えるようになった。
「秘力もってるだけですげーよな」
「今うちにいるのは跳躍と見分くらいか?」
未だに詳しく解明されていないその超人的能力は、ここに力量差はあるもののその全ては身体の能力を著しく向上させるものであった。
「そうだな後はノラの治癒だな」
幼いころからその力を使えるものもいれば、大人になって突如発覚するものいて、その発祥経路すらも多岐にわたる。
私はいつその秘力に気が付いたかと言うと、子どものころに朝起きた時に体の傷が治っていた時であった。大きな変化をもたらすものではなかったため、具体的にいつと言うのは分からない。文字通り気がついたらであった。
そのおかげもあり、私の体には傷跡一つない綺麗な体であった。
それは、戦争なんてものとは微塵も関係ない生まれをしていたのであれば、女として誇らしいものであったかもしれないが、私には関係の無いことであった。
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