異世界転生でリセマラしまくった結果
石田徹弥
異世界転生でリセマラしまくった結果
僕はトラックに轢かれた。
唐突だと思うけど、それが十六年という短い僕の人生の中で、最たるトピックなので冒頭に伝えさせてもらう。
僕は高校二年生。席は窓際最後部。よくアニメでは「主人公席」なんて呼ばれるけど、僕にそんな恩恵は無い。仲の良いクラスメイトも幼馴染もおらず、勉強も中の下、これと言った特技は無い。強いて言えばサービス開始からやっているソシャゲのチーム内成績が上位ということくらい。
まさに〝特筆すべきことが無い〟、それが僕。
だから下校中、ボーっとしていたせいで赤信号に気が付かず、やってきたトラックに轢かれたことは僕の人生においての最重要トピックであった。
運が悪いことに、トラック側もボーっとしていたらしい。ブレーキゼロの無遠慮最大速度でぶつかられ、死を想起する前に僕の意識は消えた。
いや、消えなかった。確かに視界は真っ暗闇になったが、意識は途絶えていない。
これは、まさか。本当に? だとしたら……ここからだ!
来い、来い……来い!
僕の願いが通じたように暗闇に光が現れ、すべてを覆った。気が付くと、真っ白の空間に僕はいて、目の前には優しく微笑む美しい女性が浮かんでいた。まるで神話の女神のような不思議な服装と、豊満な肉体。
女性が口を開いた。
「あなたは」
「転生ですか!」
女神の笑顔に少しだけ困惑が現れた。
「よくわかりましたね」
「流行ってるので」
彼女が手に持った豪華な装飾の杖をゆっくりと掲げると、七色の光が湧きだした。
「では話は早いですね。あなたは転生し、勇者として世界を救うのです」
僕の体が浮き上がり、足元から光へと変わっていく。
「あの、僕のチート能力は⁉」
「今、在庫切れで」
「え?」
問いただす前に僕の視界が再び闇に包まれると、すぐに真っ青な空を映した。起き上がりあたりを見回すと、どこかの森のようだ。上手く転生されたらしい。
能力が無いのは残念だが、まあいい。こうして僕の転生人生は始まったのだ。
ファンタジー、冒険、仲間、その全てが!
ザクリという音が聞こえ下を向くと、胸を粗く削った石の剣が貫いていた。
「は?」
石の剣が引き抜かれると、勢いよく胸から血が噴き出し、僕は膝から崩れ落ちた。
倒れこんだ僕は仰向けに蹴り飛ばされた。
小鬼のような緑色の化け物が二体、僕を見下ろしていた。
ゴブリンだ。リアルなその造形に感嘆している間に、僕の意識は消えた。
ハッと気が付くと、また真っ白い世界にいた。
世界には崩壊した神殿のようなものが数多く浮かんでいる。違う場所のようだ。
「目が覚めましたか」
声の方へ振り返ると、先刻とは別の女性が微笑んでいた。格好もまた違うのだが、明らかに女神を彷彿とさせる姿なのは変わらなかった。
「あなたは」
「転生ですよね!」
その女神もまた苦笑いをした。
「流行ってますから」
僕は親指を立てる。先ほどのは無し(・・)にしよう。
よく考えれば二度も転生のチャンスを得たわけだ。これは言ってみればリセマラみたなもんだ。超ラッキーじゃないか。
この別の女神もまた、手にした別の杖を掲げて、同じような七色の光を発した。
「あの、チート能力は」
「品切れです」
僕はため息をついた。在庫管理はどうなってるんだ。クレームは出ないのか? などと考えている間に、世界は変化した。
目を覚ますと、今度は大きな建造物の中にいた。まるで大聖堂のような。これが大聖堂かはわからないけど、僕にとっては大きな石造りの建物は大聖堂だ。
目の前に美しい栗毛色の女性が拝むような恰好でひざまずいていた。
僕の姿に気付くと、涙を流した。
「あぁ、本当に勇者様を召喚……」
突然、僕の視界が床へと落下する。首から上を失った僕の体を僕自身が見つめた。
血にまみれた剣を手にした男がその剣を掲げて叫んだ。
「これで勇者はいなくなった! この世界は魔王様のものだ!」
僕の意識はまた消えた。
再び気が付くと、また真っ白い世界にいた。
今度は……あまり変化はない。
「起きたぁ?」
振り返るとまた女神。今度はロリっぽいが、あくまで女神と認識できる範囲の恰好をしていた。
「転生ね」
「話はやーい!」
ロリ女神が両手を掲げると光が現れる。
一応聞く。
「チート能力は」
「売り切れー!」
僕は飛ばされた。
目を開けると青空が広がっていた。と言うよりも、僕は青空の中を自由落下していた。
明らかに転生の座標を間違えている。
何か能力が芽生えることや、アクの強いヒロインが助けてくれるかと期待したが、そんなものは全くなく、僕の体は地面にぶつかって四散した。
真っ白い世界アゲイン。もう飽きてきた。
呼ばれる前に振り返ると、眼鏡をかけた女神が驚いて「ひぃ」と声を上げた。
「転生」
「はっ、はい」
臆病そうな女神が急いで抱えていた大きな本を開くと、七色の光が溢れた。
「チート能力」
「す、すすすすいません。今」
「無いのね」
僕はため息混じりに転生した。
目を覚ました時には首だけだった。
なんでそうなったのかわからぬままに意識は消えた。
世界、真っ白い。
振り返る。
「転生」
「オッケー」
ファーストフード店で、いつまでも水で時間を潰していそうなギャルにしか見えない女神が指で丸を作る。
その指の間から七色の光があふれ出した。
ため息しか出ない。
「あっ、能力どうするー?」
「……え?」
「いる? いらない? 在庫一個だけあったわー」
ギャル女神がラメラメの手帳を見ながら素っ気なく言った。
「いるいる!」
「じゃ、あんたには〝
ギャル女神が手帳を閉じると同時に、僕の視界は真っ暗に。
なんかわからないけど、ようやくツキが回ってきたぞ!
目を開くと、世界は終わっていた。
空は真っ赤に燃え、大地は炎に包まれていた。雲の合間から隕石が数多く降り注ぐ。人間どころか、生物の痕跡はない。
「なんつー世界に飛ばしたんだ……」
星が限界を迎えたように大きく揺れ、地面は崩壊を始めた。
僕は天に叫ぶ。
「
世界が一瞬止まると、同速度で逆回転を始めた。
何度も繰り返した転生を再度やり直し、あっという間に最初の僕がいた世界に戻る。
能力が終わると、赤信号を飛び出していた僕にトラックが突っ込んできた。
もう一度やり直せるわけだ。これは確かにチート能力だ!
思わず僕はトラックに顔を向けて笑みを浮かべ、轢かれた。
世界は闇に包まれていた。
そしてまた白くなり、女神と出会うのだ。
……だが、その時は待てども待てどもやってこなかった。
困惑している僕の耳に音が聞こえた。
ドアを開く音。そして誰かの足音が聞こえ、隣に座ったことを感じる。
母だ。
母は泣きながら僕の名前を呼んで、僕に触れた。いや、触れたようだ。
僕の体に感覚は無く、声も出ない。
体はピクリとも動かない。だから瞼を開くこともできない。
泣き続ける母の声だけが、真っ暗な世界に響いた。
打ち所が違った。
あの時、ほんの少し顔を傾けただけで僕は死ぬことなく、この世界に留まった。
チート能力はどうやら発声しなければ発動しないらしい。
僕はそのことに長い時間をかけて気が付いた。
そしてそれ以上の長い時間、病気か何かで死ぬまで、僕の真っ暗な世界は続いていった。
異世界転生でリセマラしまくった結果 石田徹弥 @tetsuyaishida
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