終章
白砂糖の抜け荷の武家側の顛末と裁きが真乃の耳に入ってきたのは、河岸で豊之進を倒してから僅か五日後のことだった。迅速過ぎるくらい迅速だった。町方は伊勢九の吟味を始めたばかり、裁きはまだまだ先の話である。
るいの用心棒の役目はひとまず終わったが、居心地の良さと万が一に備え、真乃はまだ大貫屋の寮で寝泊まりしていた。
るいの方は果たし合いの翌日から例の部屋に籠り、その日やっと昼前から外へ出るようになったところに片岡が知らせにやって来た。るいが濡れ縁で袴を縫い、真乃が庭で薪を割っていた時のことだ。
相変わらず照れ屋の片岡はまともにるいの顔を見れず、仕立物を続けてくれと言ったが、語った内容はとても仕立物を続けていられないものだった。
三崎藩は在府家老である内藤勘左衛門、国家老の狭間伊織、在府用人の山岸十太夫が首謀者とその一団であると公儀へ報告し、その三人の切腹と大和守の蟄居、嫡子への家督相続でことを済ますことになったというのだ。切腹を命じられた三人とも表向きは病死となる。
今回の一件を一切表に出さないというのが公儀の決断だった。
きさに会ったことのないるいだが、真乃から聞いていたきさの父親への敬慕に涙を浮かべた。
「内藤様も山岸様も狭間様も、お殿様と御家中のためにおやりになったことでございましょう?それなのに大元のお殿様は蟄居で御三方が切腹なんて、偏りすぎだわ!罪の重さからしたら、お殿様が御切腹で、配下の御三方は蟄居が本当じゃないんですの?だからお武家様は……」
そこまで一気に捲し立てて、るいは慌てて口を閉ざした。目の前にいるのは二人とも武家だ。
「私も
片岡の膝に置いていた手が拳に変わった。
「改易を避けるための人身御供ですな……御大家の方はどうなったのですか?どうせ表向きにはあの家老も病死になるのでしょうがね」
「そのとおりです。御大家については御家老の根来伊予守が昨日急死したとだけで、我々は仔細を全く知らされておりません。ただ、目付方が大和守御領分内の動きに気づいたのは、半年以上前のことのようです」
片岡の頭に今回の探索で何度か出てきた半年ほど前という時期が残っていたらしい。
「半年くらい前にあの家老が目付方の大和守を探る動きに気がついたということでしょう。考えてみれば、目付方の動きを知る手立てはあの家老にしかありません。それがまた大和守としては話にのるかどうか決断した時の大事な点だったでしょうね……」
そして、その時点で警戒はしたろうが、自身はまだ大丈夫だと高を括っていたのだ。
公儀の武家側に対する決断は、当然、町方の伊勢九の取り調べにも影響する。
真乃が豊之進から聞いた話から、伊勢九が根来家老と組んで事を始めたのは間違いないが、家老の言い分を確かめることができなくなった今、どちらが先に悪事を持ちかけたのか、突き止めるのは事実上不可能になってしまった。
公儀の迅速さは根来家老が言い出したことを示唆していると考えられなくはないが、憶測の域を出ない。
いずれにしても、具体的に絵を描いたのは伊勢九に違いない。ただし、公儀は全て伊勢九の仕業としてしまいたいだろうが、伊勢九だけでこれだけのことを始められるとは考えにくいのだ。
少なくとも三崎藩に目を付けたのは、根来家老としか真乃には思えない。現藩主の気性から、あそこは御しやすいと伊勢九に教えたのだろう。
「今のところ、九兵衛は杢左衛門に騙されたのだと言い張っています。その杢左衛門と名乗って三崎の御領分に現れた男は半年前に三崎を去り、その後は行き方知れずです」
上は命令するだけで、実際に手をくだすのは末端の者達だ。あの『ぎんぞう』という男の「虫ケラ」の意地という言葉がまた真乃の頭に浮かんだ。
――その通りだ。一寸の虫にも五分の魂だ。
家老を追い詰める材料を集めたのもまた目付方の末端の役人達のはずだ。小人目付を中心に公儀の抱える隠密がかなりの数差し向けられたことだろう。そのうちの何人かが命を落としていて不思議はない。
片岡は拳を握りしめたまま、声を振り絞るように言った。
「なんとか、我らの手で真実を暴きたいと思っていますが、突き止めたとしても、それが公にされることはないでしょう。それでも、町方は突き止めます。そう信じております」
三人はそれきり沈黙した。
その沈黙を破ったのは手拭いで汗を拭きながら現れた相模屋五郎右衛門だった。
暦はとうに秋になっているが、昼間はまだ夏の名残を見せている。
「青井様、人助けでございます。青井様を御指名で、ある御家から御家老の御介錯をしてもらいたいとの御依頼がございました。日時は明日の昼九つ。礼金は五両でございます。お引き受けくださいますな」
名前を聞かずとも、どこの御家かわかる。
これまでに二度介錯を引き受けたことのある真乃もすぐには返事ができなかった。
真乃が出向くよう言われたのは本多大和守の下屋敷だった。
この日、七日前に大立回りをした門前は、誰も通らぬ静けさだった。
訪いを告げると、門番が鎮痛な面持ちで潜り戸ではなく門を開けた。
表向きは病死にすることも多いため、目立たぬように裏門から入れと言われることが多い首斬りの介錯人である。裏門がないとはいえ、大きく表門を開けて招き入れることに、真乃は藩士達のお上への抵抗を感じた。
外部の人間に介錯を依頼する場合、通常は山田浅右衛門やその弟子に依頼するのをわざわざ「青井真之介」を指名して相模屋へ依頼したというのにも明らかに何か意図がある。
式台に一人の老武士と若侍二人が待っていた。三人とも慇懃に真乃に頭を下げた。
式台から奥へと進む。
例の大きな座敷の二つ手前にある六畳の一室で待つように言われた。
真乃が端座して間もなく盃と昆布一枚に封書も置かれた三方を持って先ほどの老武士が現れた。後ろには介錯に使う刀を両手で捧げ持つ若侍がいた。
介錯には先方が用意した刀を使うのが決まりだ。また介錯は素面でできるものではない。昆布一枚は「ひときれ(人斬れ)」の語呂合わせだが、首を斬る介錯人に酒が振る舞われるのは現実に即した対応だ。
真乃は封書を掌で指し示し、「こちらは?」と尋ねた。相模屋を通しているので介錯料は相模屋から受けとることになっている。ここで金一封を受け取ることはない。
真乃の質しに老武士は一瞬だけ表情を歪め、おもむろに口を開いた。
「旦那様から貴方様への文でござる。ここでお読みいただき、か、介錯なされる前に旦那様へ御返答をお聞かせくだされ」
老武士は内藤家の用人なのだ。用人の名は政右衛門だときさが言っていたのを真乃は思い出した。
涙を堪えた温厚な目がじっと真乃を見つめた。
「承知いたした」
真乃は一礼して封書を手に取った。
中には達筆で驚きの依頼が
我が子を守ってくれとあったのだ。
自分の切腹で事を済ます、嫡男の要は元服まで分家に預け、元服後には減俸はするが家を継がせると「上様(大和守)は仰せられているが、幼き頃から仕えてきた余はそれが本意ではないと存ずる」
公儀への忠誠と厳罰を示すために、自分が腹を切った後に「人身御供」にされるだろうというのだ。
嫡男の要をお守りくだされ。妻の故郷へ逃がしてくだされ。あれは学問好きの子。学者か医者として生きていくだろう。お引き受けくだされば、介錯料とは別に二十両お渡しする。そう書いてあった。
真乃は黙って文を閉じ、硬い表情で見守っていた老武士に頷いてみせた。
老武士が安堵の色を浮かべた。そして手で顔を覆った。
例の大きな座敷の一角に白い幕が張られていた。
この邸内に切腹の間はないのだろう。勘左衛門の家老という重職から、座敷に切腹の間を急遽作ったようだ。
おそらく切腹用の部屋としては、もしも過去に下屋敷で切腹した家士があったとしたら、だが、るいと真乃が閉じ込められた地下牢が使われたと思われる。
るいがあそこで寝起きしている時にその事に気づかなかったのは大いなる幸いだったと、真乃は思った。
真乃が幕内に入ると、そこには既に内藤家老が瞑想しているかのように目を閉じ、落ち着いた気を放って座っていた。
他に検視役四人に二人の小介錯、切腹人に刀を渡す役と後始末をする役の侍がいた。検視役のうち二人は大和守家中で、残る二人は公儀側の検視役だと思われた。そのうちの一人は真乃も顔見知りの町方の与力だ。
真乃が入ってきた気配に家老は目を開けた。きさと同じ澄んだ目をしていた。
初めて見る内藤勘左衛門は政右衛門以上に温厚そうな、恰幅の良い武士だった。
勘左衛門は真乃を見て、丁寧に、ゆっくりと礼をした。
「ご足労、誠に忝ない」
真乃も一礼を返し、家老の左側の位置につく。
位置についた時、真乃は独り言のように、口もあまり動かさずに小声で呟いた。
「御依頼、承知。御安心を」
位置についた真乃に改めて家老が向いた。
「よろしくお頼み申す」
内藤勘左衛門は僅かに笑みを浮かべ、ゆっくりと真乃へ向けて深く頭を垂れ、ゆっくりと頭を上げながら正面を向いた。
真乃もまたゆっくりと刀を抜いた。
大和守下屋敷を辞した真乃はその足で勘左衛門の依頼を達成するべく動き始めた。
――なんとしても要殿を助ける。
内藤家老の潔い最期が真乃の気持ちをさらに高めていた。
帰りには老武士から嫡男の顔立ちや背格好を聞き取った。
――まずは片岡さんと広瀬さんを捕まえるのだ。確かめることと頼まねばならないことがある。それから清吉の助けも要るな。相模屋の助けもだ。刺客はきっと外で雇う。いざという時に後腐れなく始末しやすいからな。今度の騒ぎでかなりの家士が傷ついたはずだし、これ以上家中に揉め事を起こしたくないはずだ。清吉と相模屋のあの顔の広さなら、引き受けた奴を見つけ出せるだろう。それから……
真乃の頭の中では目まぐるしく謀がいくつかの選択肢を含んで組み立てられていった。
内藤勘左衛門と山岸十太夫、狭間伊織の三人が病死したと公儀に届けられてから五日後の夜、本多大和守下屋敷近くにある大和守所縁の雲光院隣接の小寺に、一人の頬被りした浪人が忍び込んだ。行き先は庫裡の一室だった。
浪人は四半刻も経たないうちに大きな包みを肩に担いで出てきた。
浪人は北上し、小名木川沿いに出て、髙橋の袂にいた大ぶりの屋根船に乗り込んだ。
浪人が両弦に簾を垂らした小屋内に消えると、船は灯もつけずにゆるりと大川へ向けて動き出し、大川へ出た後は中洲の周囲を一刻近く漂っていた。それからやっと下流へ動きだし、蛎殻河岸の端に静かにつけた。
先ほどの浪人が今度は四角い風呂敷包みを片手にぶら下げて小屋部分から出てきた。河岸に上がると辺りを見回してから、すぐ先に見えている大和守上屋敷に向けて歩き出した。
船は浪人が歩き始めたと同時にすっと河岸を離れていった。
浪人は迷うことなく大和守上屋敷の裏側へ回り、潜り戸を叩いた。
すぐに中から戸が開けられ、頭巾を被った侍が顔を覗かせた。
浪人はその侍について敷地内を進んだ。あちこち連れ回され、辿り着いたのは枯山水のある庭だった。篝火がたかれている。
目の前に建つ平屋は高さがあり、見るからに豪勢で、濡れ縁も四尺ほどあった。御殿や大きな寺にある、いわゆる広縁だ。
先を歩いてきた侍はここで跪いて待てと命じた。
言われたとおり、風呂敷包みを脇に置いて、浪人は平伏姿勢で次の指示を待った。報酬を考えたら、浪人には地面に這いつくばるくらい、どうということはない。
やがて人が五、六人、広縁を歩いてくる微かな音と気配がした。
「桶の中を見せよ」
斜め上から声がした。
浪人がこっそり前方を窺うと、先ほどまでは閉まっていた障子が開けられ、御簾が見えていた。
広縁に侍が二人、御簾の後ろに三、四人いる。
広縁にいる二人も頭巾を被っていた。
声を出したのは方向からして広縁の左側に正座している侍だ。
浪人はいそいそと風呂敷を広げた。中から出てきたのは蓋付きの桶だ。
「蓋を開けて宜しいので?」
浪人は横にいる先導してきた武士に尋ねた。相手は無言で大きく頭を上下させた。
浪人は蓋を開け、両手を入れて中から重みのあるものを引き上げた。
うっという呻き声がすぐ横からも広縁からも起こった。
浪人が桶から出したのは、まだ前髪のある少年の生首だった。
御簾の向こうで囁き声がした。
広縁に控える武士が御簾に向けて「御意」と短く一言答えてから浪人に向いた。
「もうよい。早く桶に仕舞え」
浪人はまたいそいそと生首を桶の中に戻し、風呂敷で包んだ。その間に御簾の向こうの人影は消えた。
広縁に控えていた二人は、御簾の向こうの人影が消え去るのを見届けて立ち上がった。
「あとは任せた」
浪人の横にいる武士にかけた言葉だ。
横にいる武士は浪人が風呂敷包みを持とうとすると、包みはそこに置いておくよう命じた。
頭巾を被った侍に先導され、また浪人は歩き始めた。
再び裏門まで戻ってきたところで、武士は懐から紙包みを取り出した。
「これが約束の報酬だ。このこと口外すれば、お主の命は無いぞ。わかっておるな」
包みの厚みからは小判二十枚くらいか。
浪人は包みを押しいただいて懐に入れた。それから頭巾侍の目を見て答えた。
「よく承知しております。決して口外いたしませぬ」
潜り戸が閉まるのを見届けて浪人は踵を返した。足取りが軽い。周囲に誰もいないことを確かめながら、ぶつぶつ呟いた。
「まだ前髪の子供の首を取ろうなんざ、血も涙もねぇ野郎達だ。ざまぁみろだぜ。ま、ころりと騙されたってのは、奴らにもちっとは良心てのがあったからかな。あの凄腕の若衆の読みどおり……」
浪人が蛎殻河岸へ戻ると、猪牙舟が一艘舫っていた。
煙管を燻らせていた船頭に、浪人は「明かし(夜通し営業している居酒屋)のある所へ連れてってくれ」と声かけてひょいと舟に乗り込んだ。
浪人が常宿にしている本所の北方にある古寺に戻って鼾をかき始めた頃には、東の空の色が変わり始めた。
この日、朝焼けを背に四谷の大木戸へ急ぐ一行があった。旅姿の町人の父親と十二歳前後の息子と見える二人連れに、見送りらしい総髪の侍と町人の男女の五人だ。
大木戸を目の前に一行は開いたばかりの茶店の縁台に腰かけた。それぞれが団子と茶を頼む。
町人の親子は少し緊張しているようだった。
侍と町人の男女はそんな親子の緊張を解すように明るく会話を楽しみ、やがて一行は立ち上がった。
いよいよ別れとなった時、少年が侍を見上げた。色々なことを言いたくて、あまりに言いたいことがあり過ぎて、ただ見つめることしかできない。そんな目だった。
その目を侍は優しく見つめ返した。
「姉上と妹君が行くまで我慢するのだぞ。文も書いてはいけない。暫くは二人とも悲しみに沈んでいないといけないのだ。必ずお二人もお主に合流するからな」
少年は頷いた。
「本当に青井様にはなんと御礼を申し上げてよいか。亡き旦那様もさぞ……」
横に立つ男が鼻をすすった。それから深々と頭を下げた。
「半蔵、お前の役目は重いぞ。要殿が生きていることを本多様の御家中に知られてはいけないのだから」
半蔵と呼ばれた三十半ばくらいの男は大きく頷いた。
「はい。もしもの時には命に代えましても要様をお守りいたします」
「半蔵、それは困る。お前がいなくなったら、私はどうしたらよいのだ」
少年が男の腕に手をかけた。
「要殿の言う通りだ。お前のやることは要殿と共に生き抜くことだ。もしもの時を起こさぬことだ。わかったな」
はいと旅姿の男は神妙に答えた。
「先ほども申したように、姉上に伝えたいことがあれば、私に文をくれ。必ず姉上にお伝えする」
少年ははいと答えた。きりりとした表情で「ではこれにてお別れ致します」と一礼した。
共に旅立つ男はまた深いお辞儀をした。顔を上げた男も引き締まった良い顔をしていた。
「あの二人、大丈夫ですわよね。お父上様がきっと守ってくださるわ」
るいが大木戸を抜けた後でまた振り向いた二人に大きく手を振り返しながら明るく言った。
「ああ、きっと大丈夫だ。あの半蔵という内藤様に仕えてきた中間は腕も立つし、頭も切れる頼りがいのある男だよ。真壁殿といい、内藤様の人を見る目は確かだったということだな」
「そんなお方があのような最期を……それにしても青井様は恐ろしいお方ですわね」
「おや。八人を一気に倒しても恐がられなかったのに、一人の少年の命を救って恐がられるとはな」
「だって偽生首を用意するなんて、ちょっと考えつきませんわよ。あたしは御家老様のお頼みをお聞きした時、てっきり刺客を迎え撃つんだと思いましたもの」
「それでは要殿はずっと怯え隠れて暮らさなくてはならない。そんな境遇にしたくはなかった。死んだと思われれば刺客はもう来ない」
「よく都合の良い首がありましたよね」
万蔵が我慢しきれないというように、るいと真乃の会話に割り込んできた。
「今回の策はそこが分れ目だった。都合の良い首が手に入らなければ作れば良いと思っていたが、そうなると日にちがかかる。その間刺客を防ぐのが厄介だった」
「けど、作り物だとさすがにバレたでやしょう」
「どうかな。夜中の首実検だ。賭けではあったが、たぶん誰もじっくり首を見ないだろうと思ってね。子供の生首を見て平然としていられる人物は殿様くらいだろうし、そんな殿様が要殿の顔を覚えているとは思えない。更には首を間近に見るとも思えない。作り物の場合はバレないように後始末が必要だったから、うまいこと総髪の小悪党の処刑があってよかった。日を合わせるのに苦労はしたがね」
「最初は気持ち悪いと言ってたおるいさんが最期には涙を流しながら『今度生まれてきたら、真っ当に暮らして長生きするのよ』ってぇ、生首を清めて化粧させてたのが、あっしには今年一番の肝試しでやしたよ」
万蔵がその時のるいの手付きと表情を誇張気味に真似しながら言った。
るいがぎろりと万蔵を睨んだ。
「万蔵さんには今日作るつもりだった卵焼きあげないから」
「卵焼きか。良いなぁ」
良いなぁと呟いたのは真乃だ。団子を食べたばかりなのに卵と聞いた途端に小腹が空いてきた。
「青井様をお店の用心棒として雇ったら、ご飯代でお店が潰れたりして……」
るいが茶目っ気たっぷりの目で真乃の顔を見た。
真乃は何も答えずに踵を返した。
「嘘ですって。冗談!変なのに絡まれたり脅されたりする方が高くつきますもの。三人の将来のために、あたし、頑張りますからね」
るいの声が背中に心地よく届く。
「何のことかわからねぇけど、おるいさん、三人って、あっしも入ってるんでやすか?」
万蔵が相変わらずの惚けた合いの手を入れる。
――片岡さんには悪いが……
真乃はるいの営む小間物屋の用心棒をして暮らすのは悪くないと思っていた。
―― 完 ――
* なんとか書名を覚えていた/メモしていた、主な参考文献(順不同)
柳営補任
文政武鑑
近世長崎貿易史の研究
山崎の歴史(山崎藩が三崎藩のモデルです)
江戸町奉行所辞典
江戸幕府役職集成
日本の砂糖近世史
江戸厠百姿
江戸の女たちの湯浴み
江戸岡場所遊女百姿
一刀流極意
分間江戸大絵図 文政八年版 (調べておいて、ごまかした所がありますけども^^;)
白南風—八丁堀の女用心棒 空木弓 @Keiko_A01
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