花祭り

詩人

The fiesta

「何が見えるの」


 少女は私に、そんなことを尋ねた。

 歳は――私と同じくらいか。桜をスケッチする私を不思議に思ったのだろう。

 現実、華の女子高生がわざわざ休日を潰して公園でスケッチ……なんてあまりに不気味すぎる。可笑おかしい。不思議だから、なんとなく面白がってみた。そんなところだろう。

 周りに少女の取り巻きがいないことから、少女の自発的な行動らしい。この少女も大概、変な人間だ。


 手を後ろに組んで、無邪気な笑顔で私の返答を待つ。

 その時、黄色のワンピースが風にさらわれ、ひらりとスカートが咲いた。

 桜の雨が降る中での少女の恥じらいは、やけに風景にえた。


「真っ白なフリル付きが。可愛いじゃん」

「そういうことじゃなくって~……っ!」


 両手で必死にスカートを私から守る。もう風は吹いていないのに。けれど、その仕草の可愛さときたら、かの大女優を遥かに凌駕りょうがするものであった。男なら間違いなく今の一瞬で惚れていただろう。


「ほら、こっちおいで」


 私は少女を花祭りに招き入れる。スケッチブックが見えるような場所まで少女をいざなう。少女は頬を膨らませながらも私の言葉に従った。


「桜をいているんだ。大して面白くもないだろう」

「そんなことないわ。凄く綺麗よ。芸術のセンスが爆発しているわ」


 雰囲気の割に豪快な言葉遣いをするんだな、と思った。なかなか私は彼女を気にいってしまったようだ。


「大袈裟だよ。……そうだ、君を描いてもいいかな」


 無茶な提案だろうが、少女は笑顔を咲かせた。満開の笑みだった。


「いいの? 桜専門じゃないのね」

「それは――まあ」


 より美しいものを描きたいと思うのは、芸術家のさがである。

 少女の絵が出来上がったら、その絵を以って伝えるとしよう。

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花祭り 詩人 @oro37

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