生贄奴隷の成り上がり〜冒険者図鑑ゲットだぜ!〜

のりのりの

冒険者図鑑とは

冒険者図鑑とは――

見習い冒険者から見事、初級冒険者にランクアップしたときに、お祝いとして、冒険者ギルドから支給される手帳サイズの図鑑。

最初は真っ白なページのみだが、初遭遇した魔物、貴重なアイテムなどが、どんどん自動で記録されていく便利魔道具。討伐、採取できれば、絵に色がつき、より詳しい説明を読むことができるようになる――


 帝都冒険者ギルドのギルト長の部屋にて。

 ギルド長(以下、ギ)とギルド長の専属秘書(以下、秘)の会話。



(秘)「ギルド長、只今、古道具屋で冒険者図鑑の転売が認められたと報告がありました」

(ギ)「なに! またか! 今月に入って何件目になる?」

(秘)「通報は五件目になります」


 ギルド長は読んでいた書類を机の上に置くと、深々と溜息をはきだした。

 ギルド側は特に取締をおこなっていないので、見つからずに転売されたものはもっと多いだろう。


(秘)「年末年始になると、支出が増えるから……ではないでしょうか?」


 ギルド長の優秀な専属秘書は、淡々と己の推察を述べる。


(ギ)「……だとしても、ギルド支給の冒険者カードおよび、冒険者図鑑の第三者への譲渡は利用規約で禁止しているのに、どうして、転売が止まらないんだ? 受付嬢たちは、ちゃんと説明しているのか?」

(秘)「、おそらく冒険者たちのでは処理しきれないのでしょう」


 専属秘書の言うとおりだとギルド長も思う。規約というものは、どうしても長文になってしまうのだ。

 とはいえ、ただ傍観しているわけにもいかない。


 転売したヤツの中には、紛失したとか、盗まれたとか適当なことを言って、冒険者図鑑の再発行を申請する救いようのないふとどき者もいる。


(ギ)「うむ……。掲示板に転売禁止の張り紙を張って、周知させるか」

(秘)「わかりました。早速、手配いたします」


 ギルドからの連絡事項は無視されがちで、掲示で注意を呼びかけても状況は改善されないだろう。


 ちゃんと読めよ、と思うのだが、


 だが、通達義務というものがギルドにはある。


 知らなかったで言い逃れしようとする冒険者の逃げ道を封じるためにも、告知・警告は大事なステップなのだ。


 退出しようとする専属秘書を引き止め、ギルド長はさらに質問を重ねる。

 いままでは見逃していたが、悪い芽は早々に刈り取るに限る。


(ギ)「転売されているのは、冒険者図鑑だけなのか?」

(秘)「はい。おそらく、消去法でいくと、冒険者図鑑が一番、現金化しやすいアイテムだとしているようですね。だと勘違いして、身バレしないとたかをくくっているのでしょう」

(ギ)「愚かな……。どうして、こうも……冒険者は短絡的なヤツが多いのだ……」

(秘)「ギルド長……お言葉を返すようですが、慎重な者は冒険者にはならないと思います」

(ギ)「……そうだな」


 冒険者本人以外が閲覧した場合、白紙ページにしかならないとか、冒険者から一定の距離を離れると白紙ページになる……といった機能を埋め込んでおくべきだったと後悔しても今更だ。


 まさか、冒険者図鑑を転売しようなんて……冒険者ギルドの創始者たちは考えもしなかっただろう。


(ギ)「ふう。手間と金だけかけさせよって……ところで、転売されていたのはヤッフーのところか?」

(秘)「いえ……メルカーリです」

(ギ)「メルカーリか……」


 ここ近年、急成長をとげている古物商だ。

 帝都とその近辺都市に何軒も支店をだしているやり手だ。

 ヤッフーにはギルド長が直々に出向いて警告したが、メルカーリはまだだった。

 ここはやはり、すこし厳しく、ギルドの意向……いや、威光を見せつけておくべきだろう。

 逆らう奴には調教が必要だ。


(ギ)「で、転売されていた冒険者図鑑は?」

(秘)「一般客を装って、回収したとのことです」


 そんなことをしているから、古物商も冒険者図鑑を買い取るのだ。

 買い手がいるからこそ、古物商は引き取るのだ。

 そこから見直さなければならない、と、ギルド長は考える。

 古物商から喜んで冒険者図鑑の転売者を通報してもらうようにするにはどうしたらよいか……手っ取り早く、適度に痛めつけるのがいいだろう。

 こちらも色々と忙しいのだ。

 手間と仕事は増やさないで欲しい。


(秘)「冒険者図鑑のシリアルナンバーの照合も完了済み。転売した冒険者もわりだせたとのことです」

(ギ)「わかった。では、いつものようにするように」

(秘)「承知いたしました。手配をいたします」


 専属秘書は軽く一礼すると、ギルド長室を後にしたのであった。




 ……その後。


 冒険者図鑑を転売した冒険者の姿を見たものは誰もいない。


 もちろん、冒険者図鑑が古物店に並ぶこともなかった。




**********

お読みいただきありがとうございます。

こちら

生贄奴隷の成り上がり〜堕ちた神に捧げられる運命は職業上書きで回避します〜

https://kakuyomu.jp/works/16817330666712685959

の「ランクアップの条件は」の章に頂いたコメントにお答えしようとしてできあがった物語です。

こちらは、あくまでも新春企画で、本編とは少しばかり趣が違いますが、よろしければ、本編もよろしくお願いします(;´Д`)


ランクアップの条件は

https://kakuyomu.jp/works/16817330666712685959/episodes/16817330669335965020


――物語の小物――

『冒険者図鑑の転売版』

https://kakuyomu.jp/users/morikurenorikure/news/16818023212844106662

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生贄奴隷の成り上がり〜冒険者図鑑ゲットだぜ!〜 のりのりの @morikurenorikure

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