3-19.ランクアップの条件は
ギャラリーの反応がいまいちでも、ペルナはめげない。
かわいい子どもたちに加え、フィリアという『癒し』を前に、少しばかりテンションがおかしくなっているようだ。
「……『初級冒険者』にめでたくランクアップしたときは、こちらの『冒険者図鑑』をプレゼントいたしますね」
ペルナはカウンターの中から、でかでかと表紙に『見本』とかかれた、手帳サイズの図鑑をとりだして子どもたちに見せる。
「初遭遇した魔物、貴重なアイテムなどが、どんどん自動で記録されていく魔道具です。討伐、採取できれば、絵に色がつき、より詳しい説明を読むことができますよ」
「魔道具……」
一番無反応だったナニが、図鑑に反応を示した。
ただ、あまりにもささやかな反応だったため、ペルナには気づかれずに、あっけなくスルーされてしまう。
ペルナのテンプレ説明は、まだまだ続いた。というか、一向に終わりが見えてこない。
「ランクアップの条件は、上級にいくほど厳しくなります。特例もありますが、通常は『上級冒険者』までは、依頼を真面目にまんべんなくこなしていけば自動的にランクアップします。たいていの冒険者の終着地点は『上級冒険者』です」
「…………」
「より上のランクアップ条件は、本人以外非公開です。ギルド長よりそれぞれの職業に見合った課題が提示されます。わたしたち受付嬢も知りません」
「…………」
「まあ、その時点でペラペラしゃべるような口とオツムの軽い方は、資格取得候補者にも選定されませんが……。各々の職業、ステータスによって、候補者になるタイミング、課題内容は変わってきます」
『伝説級冒険者』になりやすい職業、なりにくい職業もあるのだが、その情報は説明マニュアルには含まれていない。
察しのいい冒険者だけが気づく、ちょっと悲しい現実である。
「また、『超級冒険者』以上を対象とした依頼は、社会的影響が大きく、政治的、外交問題とも密接になります。よって、依頼は非公開になり、掲示板には張り出されません。冒険者ギルドより『名指し依頼』が発生します」
ちなみに『名指し依頼』は、正当な理由なく断ることはできません。と、ペルナは補足する。
そのルールのため、『超級冒険者』のことを『ギルドの犬』だとか『ギルドの使いっぱしり』と揶揄する者もいる。
フィリアが『貧乏くじパーティーのリーダー』と冒険者たちから揶揄されているが、その原因の半分は冒険者ギルドからの『名指し依頼』に起因している。
しかし『超級冒険者』として受けられる数々の恩恵を考えると、それだけの働きを求められてもしかたがない、というのが一般的な見解だ。
誰からも縛られず、干渉されずに、自由気ままに生きたいのなら、『上級冒険者』に留まるのも一つの選択であると、ペルナは説明した。
「……えっと、『超級冒険者』は目の前にもいらっしゃいますが、『伝説級冒険者』は現在のところ、世界であわせて八名おります」
目の前の『超級冒険者』とは、フィリアのことだ。
フィリアは自分のことを言われているのだとわかっていたが、特に反応はしなかった。
下手に口を挟んで、ただでさえ長い説明時間がさらに長くなるのは、子どもたちには苦痛でしかないだろう。
『赤い鳥』のメンバーたちの表情にも、疲れが見え始めている。
フィリアは黙って、ペルナの説明につきあう。
「フォルティアナ帝国では、五年前に二名死亡し、もう一名は、怪我の後遺症から『上級冒険者』に降格し、現場を引退、ギルド長となりました。帝国に所属する『伝説級冒険者』の数は現在は三名となっております。ぜひとも『伝説級冒険者』を目指してください」
ここのくだりの説明は、冒険者たちにやる気をださせるためか、すこしテンション高めの芝居じみたオーバーリアクションで行われている。
フィリアとギルも七年前の冒険者登録時に、同じような調子でこの説明を聞かされた。懐かしいといえば、懐かしいフレーズだ。
ただし、七年前は、帝都の『伝説級冒険者』の数は六名だったのだが……。
ギルドは沈黙を通していたが、おそらく、死亡した二名は『あの事件』に巻き込まれたのだろう、とフィリアは考えている。
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お読みいただきありがとうございます。
このお話にコメントを頂きました。
そのコメントからふと、つらつらと思いついたお話……と呼べるほどでもない作品パロディがうまれました。
生贄奴隷の成り上がり〜冒険者図鑑ゲットだぜ!〜
https://kakuyomu.jp/works/16817330669407585256
クスリと笑っていただけましたら幸いです。
――物語の小物――
『冒険者図鑑』
https://kakuyomu.jp/users/morikurenorikure/news/16818023212793127277
フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。
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