3-20.説明、長すぎるわよ!
退屈そうにしている一同には気づかず、ペルナの説明は途切れることなくつづく。
よくもまあ、これだけよどみなくしゃべりつづけることができるものだ、とフィリアは感心すると同時に呆れ返りもする。
話題は超級冒険者から、最高位にあたる『神話級冒険者』の説明へと移っていた。
神話級冒険者とは、世界の危機を救う勇者様やそれに類する偉業をなしえた英雄などに与えられる称号になる。
このレベルになると、持って生まれた『運命』やら『天与スキル』といった、人の努力ではどうしようもない、『神様』とかかわる特殊なものが重要になってくる。
つまり、現実的に考えると、実力で到達できる実質の最高ランクは『伝説級冒険者』ともいえた。
「おれたちなら伝説級冒険者になれるんじゃね?」
とリオーネが隣のナニに小声で囁き、ナニに「私語禁止」と怒られている。
ペルナの説明を適度に聞き流しながら、フィリアはそっとため息をつく。
ペルナたち受付嬢は、ことあるごとにフィリアに『伝説級冒険者』を目指すように言ってくるが、これがなかなかに難しいのだ。
ルースギルド長から内々に説明があったが、目安となるステータスを聞いたとき、『伝説級冒険者』になるということは、人間を辞めるということと同義だと思うくらい、メチャクチャな数値を教えられ、心底驚いたのを覚えている。
魔法剣士ならば、ひとりで上級ドラゴンの群れを瞬殺できるくらいの数値を、ルースギルド長は事務的な口調で教えてくれた。
それを聞いた時、フィリアは自分には無理だ、と瞬時に悟った。
もちろん、口にだしたら、ルースギルド長から「最初からあきらめるとはけしからん!」と怒られるに決まっているから、反論せずに黙って聞いた。
そもそも、そこまで強くならなければならない理由が、フィリア自身には見当たらない。
お金があれば、孤児院が潤うので報酬は遠慮なく頂いている。
しかし、地位とか名誉とか、そういった欲はない。むしろ煩わしいもので、今くらいが、ちょうどいいとフィリアは考えていた。
上位にいけばいくほど、贅沢な暮らしができるかもしれないが、それ以上に、縛りが多くなる。
得るものと失うものを比べると、失うものの方が、フィリアには大事に思えた。
自分は『伝説級冒険者』になるのをあきらめたが、もしかしたら、この子どもたちなら目指せるかもしれない。と、フィリアはぼんやりする頭で考える。
「……それから、冒険者ランクは、上がるだけではありません。老化や怪我などで能力の低下が見られた場合や、冒険者としてふさわしくない行いをした、とギルドが判断した場合は、降格や除籍もありますから、日々の鍛錬を怠らず、行動には気を付けてくださいね」
なにか、ここまでで質問はありませんか? というペルナの問いに、子どもたちは首を横に振った。
それが賢明な判断だろう。
下手に質問などしたら、さらに長い説明が待っている。
基本的な説明は終わったし、わからないことがあれば、そのつど受付嬢なり、立会人に質問すればよい。
ようやく、受付嬢の長い説明が終わった。
子どもたちの口から、大きな溜息がでる。
受付嬢の話を黙って聞きつづけるのは疲れただろう。
「よくがんばって聞けたね」
と、フィリアは思わず褒めてしまったのだが、リオーネに「子ども扱いするな!」と厳しい目で睨まれてしまった。
「ちょっと、ペルナちゃん! 説明、長すぎるわよ!」
「もうちょっと、短くする努力をしないと!」
ミラーノとエリーがぶうぶう文句を言っているが、ペルナは聞く耳をもたない。
「できない相談です」
と言って、ふたりの抗議をピシャリとはねのける。
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