とんでもない事

 海沿いの公園で、ブランコに揺られながらオレは事の経緯を馬島に話した。もちろん、土井の事は伏せておいた。


 話を聞いた馬島は、呆れた様子で顔を両手で隠している。


「お前、……どうすんの?」

「ど、どうしよう」

「ノリで受けたら、受かっちゃいましたぁ。とか。おま、本気で目指してる奴聞いたら、殺したくなるぞ」


 という事にしておいたのだ。


「やるしかねえべ」

「でもさぁ。アイドルって何すんの? ひたすら媚び売るの?」

「言い方よ」

「オレ、全然分からないんだよ! アイドルはもちろん。Vの事だって、ズブの素人だぜ?」


 馬島は視線を落とし、「んー」と考える素振りを見せた。


「男のVアイドルはさ。一部には、根強い人気があるけど。まだ業界が発足して間もない時期にやらかしがあったんだ。それは、前にも話したろ」

「う、うん」

「だから、どこか冷遇されているっていうか」


 馬島は苦い顔で言う。


「かなり、きっついと思うぞ」

「マジかよぉ」


 オレはすでにやる気がなくなっていた。

 土井のように歌唱力があるわけでもない。

 ダンスは苦手。


 何もない奴がアイドルに挑んだ結果。

 どうなるかなんて、火を見るより明らかである。


「まあ、でもさ」


 馬島がブランコから立ち上がり、背伸びをする。


「お前が本気で目指すんなら、俺は応援するよ」

「……馬島」

「だってさ。無理だって断言して、何もやらないなら、のと何も変わらねえじゃん。それなのに、無理だって分かっていても、やりたい気持ちを優先して取り組むって、マジですげぇと思うよ」


 馬島は、こんなオレに呆れている。

 でも、最後の最後のまで、友として背中を押してくれていた。


 思えば、オレのつまらない人生に破壊と再生が訪れたのは、土井を振ってからだ。

 あいつを振ってから、全部の歯車が破壊され、別の道が出来上がった。

 巻き込まれているだけだが、馬島の言う通り、何かに挑戦するのも悪くない気がしてくるのだ。


「オレ、……武道館行くわ」


 ブランコから立ち上がり、友達に宣言する。

 馬島は笑顔で言った。


「絶対に無理だ」

「ははははは!」


 Vの配信者を振ったら、とんでもない事になった。

 この先の事は、どうなるかオレにも分からない。

 でも、オレは何かあっても、友達と一緒にバカ話に変えて、どこかで笑ってる気がするのだ。


 それが、オレの人生なのかもしれない。

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アイドルV配信者をフったらヤンデレ化して、とんでもない事になった 烏目 ヒツキ @hitsuki333

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