陰キャによるあなたのための理想

この作品の注目ポイントを、4つにまとめます。

1つ、主人公は、陰キャである。しかも極度の。
口を開けば一言目は「あっ」だし、いつも猫背で何かに脅えている。
陽キャの気まぐれで話しかけられて狼狽えて、家族である妹には呆れられ、バイト先でも特にいい思いはしない。
それでもその日常を良しとして生きていた中、突然話す人形と同居することになったところから、主人公の理想だった『日常』は崩れ去っていく。

2つ、その人形は『リンカー』と呼ばれている。
『リンカー』は能力の総称であり、能力者本人のことでもある。
能力にも『リンカー』にも多彩な種類があり、光線を出す人形だったり、その時起きた事象を繰り返すものだったり、全身にスーツのように纏うものだったり……王道能力バトル物として、過言ないレパートリーである。

3つ、戦闘描写が秀逸であり、文字だけなのに爽快感がある。地の文に感嘆符が入ることがあると言えば、忌避してしまう人も居るかもしれないが、この独特の作風があってこその作品であるのは間違いない。
主人公目線の一人称文では、主人公と共に戦闘のスピード感や緊張感を味わうことができ、読んでいる我々の心を刺激して、アツくさせてくれる。
主人公目線外のシーンでは三人称文が使われているが、この視点移動も忌憚なく行われていて違和感は一切ない。

4つ、キャラクターがとても人間臭い。
この作品には様々なリンカー、もといキャラクターが居る。その誰しもが本当に一生を歩んできている深さがあり、読んでいて没入感がとても高い。
小説ならではの『語尾を変える』というものではなく、口癖、口調、一人称、その全てでキャラクターというものを描写していて、コミカルな会話劇中も誰が話しているのか迷子になることは一切なかった。
登場人物のほとんどは女性であるのに、一人一人がキャラクターとして立っているため、とても読んでいて楽しいと思えた。

以上4点がこの作品で注目した点です。
他にも主人公が戦闘を経るにつれて精神的成長をするところや、多種多様な仲間との出会い、別れも見所だと思います。

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