色とりどりに煌めく星空
カゲトラは少女を連れて室内に戻り、フックに括り付けられるロープがないか探してみた。衣服がたくさんあったので結び合わせて繋げればなんとかなりそうだ。
バァン!
正面入口の方から音がした。その後バタバタと室内に足音が響き渡る。どうやら正面入り口が焼き切られたようだ。
焦りながら衣服を結び合わせる。急がなければならない。だが二階の屋上から降りるのだ。しっかりと結んでおかなければならない。
「屋上に行けるドアがあるか?」
カゲトラは少女に聞いた。
「うん」
「こっちの階段の上」
階段を登りドアを開けると、屋上に上がることが出来た。
屋上にはソーラーパネル、室外機、花火の跡があった。
それぞれの四方をそっと顔を覗かせて確認してみる。
どの方向にもライトがちらちらと見えた。
「だめだ」
「これじゃどこからも降りられない」
事態は思った以上に深刻だった。
何か使えるものがないかと一旦二階まで降りてきたが、使えそうなものが見当たらない。
バチバチバチバチバチッ
一階へ通じる封鎖されたドアの焼き切りが始まった。なんとかしないと手遅れになる。
だがこの期に及んでなんにも思い浮かばない。奇襲をかければ最初に突入してくる奴らの二、三人は倒せるだろうが、その後がまずい。
「とにかく屋上へ行こう」
再度屋上へ出た。危機から離れたい一心で屋上へ来たが、事態は変わっていない。この子だけでも一か八か下ろしてみるか。いやだめだ。四方を取り囲まれてる。きっと包囲の指示が出ているんだろう。この子を奴らに差し出すようなものだ。
ここで戦うしかないのか。屋上では逆に遮蔽が少なすぎるか?
カゲトラは、屋上での銃撃戦をイメージしていた。
ソーラーパネル、室外機。弾丸が貫通してしまうかもしれない。遮蔽として使えるのか疑問だった。
あとは花火の跡。呑気に花火なんてやってた連中がいたんだな……。
花火なんてやったら何をおびき寄せるかわかったもんじゃないのに……。
待てよ。おびき寄せる……?
「なあ。この花火、まだ残りはあるか?」
「うん。あるよ。まだ取っておいてるの。また来年やろうと思って」
「あのレジャー用品のある部屋か!?」
「そう。ファミリーセットの大きいやつ」
カゲトラはすぐに駆け出した。
「
レジャー用品のある部屋に入り、箱をひっくり返して花火のセットを見つけた。
「しめた!ご丁寧に密封されてる」
大きめのセットを4つほど持って、屋上に駆け上がる。
すでに封鎖されたドアの焼き切りは三分の一ほど終わっていた。
「よし、今から花火で遊ぶぞ!なるべく大きいやつを立てて準備してくれ!」
「わかった!」
少女がノリのいい子で助かった。
二人で大きめの打ち上げ花火を何本も準備する。
「ここから少し離れたところに木の杭があってな。そこにいる人たちをこの花火で呼んで、助けてもらうんだ」
「そうなの?」
「ああ、今夜はいっぺんに火をつけるぞ!大花火大会だ!」
「いぇーい!」
ユウコはいぇーいなんてこんな時言わないが、この際そんなことはどうだっていい。この少女のよくわからないノリが、カゲトラにとっては返って救いでもあった。
オイルライターで次々に火をつけていく。
乾燥剤まで入って密封されていた花火たちは、次々に大きな音とともに夜空に花を咲かせていく。
二人は寝転んで夜空に咲き乱れる花火を眺めていた。
「悪い人たちは来ないの?」
破裂音とともに、文明が滅んだ夜空に煌めく花が咲く。
「もう来ないよ。良い人達がみんなやっつけてくれるんだ」
柳のように、大きく散って、色とりどりの光が降り注ぐ。
「この花火で良い人達を呼ぶんだ」
生きていた人たちの、癒しになった空の花。
「元は良い人達だったはずなんだ……」
とりわけ大きな打ち上げ花火が、高く高くあがり大きく爆ぜて、星空を染めた。
間もなく銃声がそこかしこから聞こえてきた。この銃声でさらに集まってくるだろう。
「他にも、花火やってる人達がいるのね」
少女は無邪気に笑っていた。
* * *
「で、連中、焼き切りは間に合わなかったのか」
西海岸製の電子タバコのスイッチを満足そうに確かめながら、センター代表は聞いた。
「ああ、半分くらいまではやられてたけどな。途中から迎撃しなくちゃならなかったんだろう。俺たちを包囲するために分散してたから、グループの統制を取るのが遅れたようだ」
「でもよくその後の『掃除』が出来たな。すごい数だったんだろ」
「それはもう、武器弾薬はたんまりあったからな。しかもこっちは絶対に破られない砦の中だ。ゆっくり掃除させてもらったよ。」
「まあ何にせよ無事でよかった。物資も一部取り返せたし、約束通り、取り返せた分の20パーは何でも持っていってくれ。」
「ああ、ありがとう」
カゲトラは、セブンストライクの箱の中に違う銘柄の違うバラのタバコを丁寧に詰めた。その他にも生活に必要な物資、サイズの小さめの女物の服、食糧なども頼んだ。
「パスタもくれ。今夜はミートソースにしようと思うんでね」
もう、二人分のパックも、迷いなく開けられる。
了
家族の空と滅んだ世界 遥風はじめ @hajimeck
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