第11話 破談?

 兵舎で割り当てられているわたしの住居は、フレイヤ様の寝室よりもずっと小さく狭い。その小さく狭い空間に、フレイヤ様が転がり込んできた。


貴女あなたがここに居座るのはもう諦めるから、せめてパンツは履いてよ」


「・・・」


 返事はない。あのサイコパスとフレイヤ様は、実は同じタイプなんじゃないだろうか?

 都合の悪い問いかけには返事をしないフレイヤ様、質問そのものを聞こえないフリをするサイコパス・・・何が違う?

 6番機のCユニットが、11番機に太刀を突き立てられた時・・・恐怖で思わず失禁。その後すぐに着替えればよかったものを、機体を降りてからもサイコパスに絡んで一悶着起こしている間に蒸れたデリケートゾーンが炎症をおこしたんだとか。

 下着を着けると痒いからとパンツを履かずに過ごすために、わたしのところへ来たって・・・わたしの住居を何だと思ってるんだろう?

 まあ、もう一つ理由はある。


「夕食は、まだか?」


 わたしのベッドから顔を出すフレイヤ様。その顔の左半分は靴底の型にアザになってる。



 決闘で敗北した後。

 サイコパスと将軍が11番機を降りたのを見つけたフレイヤ様は、例のごとく纏わり付く。


「あんなもの勝ちと認めるか!もう一回、立ち会え!」


 と、また絡みに行った。

 当然、サイコパスにも将軍にも相手にされない。それにキレて、遂にサイコパスに殴りかかった。

 サイコパスの顔面に爪三本の引っ掻き傷をつけたのは「よくやった!」と思うんだけど、その後に地面に叩き付けられて、顔面を軍靴で踏みつけられたのだ。

 女性の顔面を足で踏みつけるか?

 しかも、アザが残るくらい本気で踏みつけやがったんだ、あのサイコパス。



「仕方ないから、顔のアザが消えるまでは面倒みてあげるよ」


 慣れない料理をやって、2人分のハンバーグをテーブルにおいた。


「母上に、この顔は見せられないからな。オルガには感謝する」


 それは嘘。「顔を見せられない」のではなく「顔を見られない」が本音だろう。



 フレイヤ様が、サイコパスに顔面を踏みつけられていた時に領主夫人エリス様が駆けつけてきた。領主夫人エリス様は、サイコパスの前に跪いて「有り難う御座いました」と頭を下げた。涙を流しながら。

 本当ならフレイヤ様は死んでいた。

 6番機の挙動で、体当たりしてくるのを察知した11番機は、突き刺した太刀がCニットを傷つけないように慌てて引き抜いた。

 あれは娘の命を助けてもらった母親の涙だった。

 まあ・・・その娘の顔面が足蹴にされてるタイミングだったのは微妙。



 バツが悪くて、母上である領主夫人エリス様に顔を合わせられないから、わたしのところへ逃げてきたのが真実。

 いや、バツが悪いのはわたしも一緒だ。



 フレイヤ様がサイコパスの軍靴から解放された後、わたしが月夜見つくよみ将軍から怒鳴られた。


「Sユニットの最優先任務は、Cユニット操縦者コントローラーを保護することだ!」


 あの時、あたしは敗北のショックで呆けてしまっていた。本当なら、フレイヤ様が暴走しないように、Cユニットの接続を切断するくらいしておくべきだったのに。


「貴様に、Sユニットを務める資格はない!」


 完全なダメ出し・・・けど、弁解の余地はない。



「で、あのサイコパスに嫁ぐの?」


 夕食のハンバーグを食べ終わり、食後のコーヒーをいれる。

 フレイヤ様を死なせたくなかったのは、サイコパスとしては縁談を受け入れるつもりな気がした。後はフレイヤ様の気持ち次第。


「感謝はしてるが・・・あれのめかけになる気にはなれんな」


「感謝?」


「ずっと前に、兄上に言われた」


 フレイ様の宣言らしい。

 命がけの戦場には「二度目」はない。だから、フレイヤが「もう一度」を言っている限り、初陣は許さない、と。


「その意味がわかった気がする」


 そうだろうな・・・お漏らしするほど、恐かったんだから。



「あれ?めかけって?」


日嗣皇子ひつぎのみこには、内々で結婚の約束した女がいるらしいぞ」


「えぇーーーーー!」


 いや、政治的な問題だからおめかけ様も有り得るとは思う。

 しかし、それ以前の問題だろ?

 ・・・あのサイコパスがいいって言う女が実在するのか?この世に?


 -終わり-

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機兵戦記 -傭兵機団の姫と帝国の日嗣皇子- 星羽昴 @subaru_binarystar

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