第10話 決着

 居合い抜きの一閃を決めるつもりだった6番機の右手を、11番機の右手が掴んでいる。これでは6番機は、剣を抜くことができない!


「ヤバい、11番機の左腕を押さえて!」


 既に11番機は、左手で太刀を逆手に握っていた。慌てて6番機が左腕を伸ばして、11番機の左手を押さえ込んだ。


「ふざけやがって!」


 Cニットからフレイヤ様の怒声が響く。スピーカーで拡声された声は、それだけでSユニットを震わせそう。

 6番機は、剣を抜くために右腕を左腰に回し、左腕は11番機の左手を抑えるために右側へ伸ばしている。身体の正面で腕を交差させる、非常に窮屈な状態にされてしまった。


「背面推進装置スラスター全開、振り切るわ!」


 6番機の背中に6枚の翼状の推進装置スラスターが広がった!

 この6枚翼推進装置スラスターをフル稼動させれば、亜音速まで速度を上げられる。


「飛ばすから!バランスだけ注意して!」


 メインモニターには、舞い上がる砂塵が映った。推進装置スラスターの噴出する風圧が、17メートルの重甲機兵の目の高さまで砂塵を持ち上げている。

 さすがに亜音速は制御できないけど、瞬間時速200キロメートルを超える速さで6番機をホバーリングさせられる。

 高速移動で空気が圧迫されて外の音が拾えなくなったが、鋼鉄の擦れ合う鈍い振動が機体を震わせて両機の鍔迫り合いを伝えている。ノーマルの11番機が、この移動速度について来られるはずはない!

 何としても11番機を引き剥がして、戦いを仕切り直しさせてやる!

 仕切り直しできれば、同じ手は通用しないんだから!


「どうして?」


 11番機を引き剥がせない!


「どうして?」


 11番機は、6番機についてきている!


「どうして?」


 11番機は両脚部の推進装置スラスターを全開にして、機体を浮かせていた。6番機の移動に逆らわないように、牽引される状態を維持しながら地表面を滑空している?


「それなら、これはどう?」


 水平方向の移動には滑空でついて来れても、垂直方向の移動はできまい?

 6枚翼推進装置スラスターを垂直方向に全開すれば、成層圏までジャンプできる!

 ガツン!

 その瞬間、6番機が力負けしてまった。機体各部の動力モーターの電圧が急低下して出力パワーが失われた。

 6番機の右手が振り払らわれて、打刀うちがたなを奪い取られてしまった。奪われた打刀うちがたなの一閃が、6番機の左腕を断ち斬る。

 そして胸部装甲ジョイントが破壊され、装甲板もえぐられる。

 剥き出しになったコクピットのCユニット、11番機は左手で逆手に握っていた太刀をCユニットに突き刺した。


「フレイヤ様!」


 Cユニット操縦者コントローラーの脈拍上昇・・・血圧上昇・・・。

 返事はないが、生体モニターにはフレイヤ様の生存は示されている。


「フレイヤ様!」


「・・・ああ、生きてる」


 ・・・よかった。安堵。

 6枚翼推進装置スラスターへ急激に大電力を回した反動・・・機体各部の動力モーターでパワーダウンが発生したんだ。6枚翼推進装置スラスターの制御に、わたしは失敗した。


 何のことはない。

 まともに戦って勝てないのは、あのサイコパスにもわかっていた。だから、剣を抜かせない泥試合に持ち込んだ。

 ・・・泳ぎで勝てないなら、抱き付いて敵も泳がせなければいい。

 制御の難しい大型推進装置スラスターを装備した6番機、SVに負担をかけてわたしがミスするのを待ったいた。

 負けたのはフレイヤ様じゃない・・・わたしだ。



 戦意喪失したわたしとは対照的に、フレイヤ様の心には沸々と怒りが込み上げていたらしい。


「ふざけるなぁー!!」


 フレイヤ様の絶叫と共に6番機は、眼前の11番機に突進しようとする?


「駄目!!!」


 11番機の太刀は、Cユニットに突き刺さってる。自分から刃に突っ込むようなものじゃないか!

 Cユニットが切り裂かれて、フレイヤ様も真っ二つになる映像が脳裏をよぎった!

 けれど・・・。

 6番機の異変に気付いた11番機は、上半身を捻って太刀を無理矢理引き抜いた。そのために6番機の突進に対処できず、突き飛ばされて玩具のように宙を舞う。

 11番機は、翻筋斗もんどり 打って演習場の地面に叩き墜とされた。



 ・・・あのサイコパスが地面に叩き付けられたのは、本日2回目では?

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