第9話 決闘

 6番機のサブモニターに、城外演習場を監視するカメラ映像を転映。

 帝国の陸上戦艦が演習場に移動していた。使い古したジークフリード型B級機体が、その陸上戦艦に向かって歩いている。操縦者と同調調整をしてない機体らしく、赤子みたいなヨチヨチ歩きをしてる状態だ。


「あのB級に日嗣皇子ひつぎのみこが乗ってる」


「そうなの?」


「派手な火遊びで一機駄目にしたそうでな。それでで余ってるの貰い受けたそうだ」


 それにしても、皇子に献上するならもう少し良い機体もあっただろうに。


「どうする気?」


「あのB級をいたぶってやるのさ。それで帝国への叛逆になるなら、それまで。この首くれてやる!」


 その時には、わたしも一蓮托生なんだけど?


「もしも、日嗣皇子ひつぎのみこか叔母上が癇癪かんしゃくおこして11番機を持ち出してくれれば・・・決闘さ!」


 それでも、わたしは管理責任を追求されるな。


「まあ、しょうがないか。お付き合い致します」


 もう、一周回ってサバサバした気分だ。これが諦観ていかん

 現実問題、決闘して勝ったとしても今更どうにもならない。死者は生き返らないし、帝国とラインゴルドの確執のタネとして残る。

 それでも、何かしないと自分の気がおさまらない。


「オルガは優しいな」


 ・・・せめて、褒められたと思っておこう。



 6番機を演習場への移動レーンに乗せる。デッキが移動を始める。

 ハッチが開くと同時に、6番機の背面大型推進装置スラスターを起動して高速滑空!ヨチヨチ歩きのB級に渾身の体当たりを浴びせた。

 B級機体は10メートル以上吹き飛んで、仰向けに倒れ込んた。

 6番機の胸部装甲を開いて、フレイヤ様はCユニットから立ち上がる。これ見よがしに自分の姿を見せつけ、皇子を挑発するつもりだな。

 仰向けに倒れているB級の胸部装甲が開いて、白い軍服の人影が立ち上がった。

 あ、パイロットスーツ着てなかったのか?これは相当身体に効いたはず。

 ・・・ブウゥゥゥン。

 6番機が震えような妙な挙動をした。


「なに?どうしたの?」


 返事がない。

 メインモニターを見てその理由がわかった。

 皇子が真っ直ぐに、こちらを見ていた。その双眸そうぼうは、明確な怒気を帯びている。

 それは6番機の装甲を通して、わたしの身体にまで刺さりそうな迫力だ。


「スゴい・・・まるで空気が震えてるみたい」


 フレイヤ様も感じたんだ、この畏怖させる何かを。それが6番機に伝わったんだ。



 2時間後。

 帝国の陸上戦艦から、ジークフリード型A級重甲機兵の11番機が出陣する。Cユニットに皇子が搭乗し、Sユニットは月夜見つくよみ将軍が搭乗すると言う。

 皇子は、フレイヤ様の決闘に応じてくれた。これで叛逆罪だけは回避されたことになる。


「もしかして、実剣で戦うの初めて?」


「・・・まあな」


 皇子の出した条件は、模擬刀ではなく実剣による戦い。ふと、疑問に思った。何故、皇子はあんなに実剣に拘るんだろう?

 実戦経験のないフレイヤ様に、プレッシャーを与えたつもりだろうか?


「いや、どうでもいいことは考えない!」


 和合率96パーセントと91パーセント。例えるなら、プールで泳ぐのに「競泳水着で泳ぐ」か「羽織袴で泳ぐ」か・・・それくらいは違う。



 11番機はノーマルなジークフリード型。対して6番機は高機動型として特化させてある。ハードウェアとしても、上位互換な機体ははず。


「あのさあ、万が一にもこの縁談が強制的に進んで嫁入りすることなったら、フレイヤ様1人で嫁いでね。わたしは、あのサイコパスと関わりたくないから!」


 返事はない。

 もう、目の前のターゲットに集中してるんだ。


「フレイヤ様、気をつけて」


 通常の立ち合いよりも、11番機の距離が近い。更に、ジリジリと少しずつ距離を詰めて来ている。

 機動性で追いつけないなら、居合いの一撃で勝負を決めるつもり?


「だったら、こっちも居合いで勝負を受けてやるよ」


 フレイヤ様は、11番機の居合いを正面から受けて立つ気になったようだ。

 6番機の右手が左腰の打刀うちがたなへ伸び、左手が鞘口を握って僅かに腰を落とす。そして、右手が打刀うちがたなの柄を握る。

 柄を握った右手が、鞘で刃を走らせて一閃・・・するはずだった。

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