おばけと定食屋

「で、今日はどこいくのかね?かね?」


昨日買ったばかりのワンピースを着て、アイが灼熱のアスファルトで飛び跳ねる。


「このくそ暑いのに元気なことで...。今日は近場ぶらつくだけだ」


「ぶらつく...?はて...?お散歩だね?お散歩なう」


「このアパートで死んだにせよ。多分住んでたのはこの街だろ。歩いてみれば思い出すこともあるんじゃねえかって」


「あ、私のためか。ちゃんと考えてくれてるんだね。感心感心」


「俺も久しぶりに歩きたかったし。行きたい店もあるしな。でもその調子だと思い出したことはなさそうだな...」


「イエス!ナッシング!」


グッと親指を立てたアイに、「死ね」と独りごちる。


「やれやれ。じゃあもうちょっと歩いて、ほんで飯でも食うか」


「押忍!」


それからアイと手を繋いで街を歩いた。


住宅街から駅前の繁華街へ。


真夏の日差しを浴びながら、あちこち見てまわったものの、アイが大きく記憶を取り戻すことはなく、昼飯を食うことに。


「おーーーーーーー!美味そうな匂い!!」


キッチンフナ。


昔この街に住んでいたころ、よくおふくろに連れてきてもらった町の定食屋だ。

こじんまりとしているが、店の前まで美味そうな匂いが漏れていた。


店に入ると優しそうなおばちゃんが、優しく席に案内してくれる。


テーブルに置かれたメニューには王道の洋食が並び、アイは目を輝かせる。


「ハンバーグにオムライス、カレー。ゾクゾクしてきたぁ...!」


さすがに座っているときや、食べている時は手は繋がず、テーブルの下で膝をつけてアイの姿が消えないようにしている。


「どれもうまいが、おすすめはエビフライだ」


「エビフライ!!」


アイがパチンと指を鳴らす。


「ああ、値段の割にデカくて、プリプリで美味いんだ。3本入ってるんだけどだいたいいっつも一本取られてたっけ...」


「ああ、よくお母さんと一緒に来てたって言ってたもんね」


アイの言葉に、「いや...」と首を振る。


おかしいぞ?


「おふくろはエビがアレルギーなんだ...。だからエビは食えないはずなんだけど...」


じゃあ俺は誰にエビを取られてたんだ?


友達?


でも俺がここにいたのは小学生までだ。

小学生で友達と定食屋にくるか...?


「すみませーーーーーん!!」


元気よくアイが店員さんを呼ぶ。


「おいおい、俺まだ決めてねえって...」


「でもさっきの話じゃ最終的にはエビフライ選ぶでしょう」


「まあ、そうだけど...」


「どうしましょう?」

優しそうなおばちゃんの店員さんが伝票を持って聞いた。


「エビフライ定食2つプリーズで!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

記憶喪失のお化けと恋をした あんらくこう @kou_annraku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ