第8話 永遠
トーク番組のセットには、色鮮やかなライトが当たっており、中央のソファーにはタツコと、キラキラとした衣装を纏ったアイドルの女の子たちが座っていた。
「今日のゲストは、今大注目のアイドルグループ、Twinkle Starの皆さん!」とタツコが告げて、女の子たちはニコニコと笑顔で手を振った。
タツコは、彼女たちを見つめて言った。「最近のゲストは、みんな若くて元気。実を言うと私も、その元気をもらって、日々頑張っていますよ」
アイドルの一人、リナはキラキラとした目で答えた。「そんなことを言われると、私たちも嬉しいです! タツコさんも私たちに、元気をくださいます!」
タツコは、微笑みながら言った。「ありがとう、リナちゃん。でも、最近は世代間のギャップを感じることも多いのよ。例えば、最近の流行りの言葉やアプリ、私にはちょっと……」
リナは、笑顔で言った。「それなら、私たちがタツコさんに教えてあげますよ!」
「それはありがたい」タツコは、笑顔で答えた。「今日、教えてもらいたいのは、最近の流行りのダンス。リナちゃんたち、一緒に踊って教えてくれる?」
アイドルたちは大喜びで立ち上がり、タツコも一緒にダンスを始めた。セットの中は、大きな笑顔と楽しさで溢れていた。
世代間のギャップを楽しみながら、タツコとアイドルたちは、視聴者に笑顔と元気を届けていた。
芸能事務所の社長室は、一層の緊張感で包まれていた。老社長は、彼のいつもの威厳に包まれた態度を持っていなかった。タツコの直接の質問に、彼は少し躊躇しながらも語り始めた。
「タツコ。確かにテレビ局に、若いゲストを増やすように要望を出していた。最近の年配のゲストは、死や老いについての話が増えてきている。それが今の君にとっては、心の負担になると思ったんだ……」
タツコは顔をしかめた。「それを決めるのは、私でしょう? 私は誰もが楽しめる、心温まる番組を目指しているの。そのためには、全ての世代の声を取り入れる必要があるんです!」
老社長は、深く息を吸い込んだ。「申し訳ない。私の判断ミスだった。ただ、君のことを思っての行動だったんだ……」
真希が、口を開いた。「タツコさん。90歳のタツコを引退させて、pandaとしての活動に専念するのも、一つの方法ではないでしょうか?」
タツコは、真希を驚いた顔で見つめた。「真希。何てことを……」
真希は、深刻な表情で続けた。「タツコさん、pandaとしての活動は、まだ始まったばかり。そのポテンシャルは、計り知れません。90歳のタツコとしての活動を抑えれば、タツコさんの心の負担も軽減できるのではないでしょうか?」
タツコは、しばらくの間、沈黙した。彼女の心の中には、さまざまな感情が交錯していた。新しい挑戦としてのpandaへの期待と、長い間、築き上げてきたタツコとしてのキャリアへの執着。タツコは、考え込んでいた。
映画のセットに鳴り響く、クランクアップの拍手。疲れた顔のスタッフたちや共演者たちが、一様にpandaの方を見て、称賛の言葉をかけてきた。
「pandaさん。本当に素晴らしい演技でした!」
「これからが楽しみですね。大ファンになりました!」
その中、タツコは心の中で微笑んでいた。外の世界では彼女はpanda。しかし、自分の中では、ずっとタツコでいることに変わりはなかった。
真希が近づいてきて、pandaの耳元でささやいた。「タツコさん。それじゃあ、少し地元に戻ってきます……」
panda、つまりタツコは真希の目を、しっかりと見つめて、うなずいた。「気をつけてね」
真希は微笑んで、スタジオを後にした。その背中には、重い決意を背負っていた。
スタジオでの拍手と賞賛の声は、まだ鳴り止むことがなかった。pandaとしての彼女の旅は、この映画で終わる。そして、その事実を知っているのは、彼女と真希だけだった。
彼女は心の中で、つぶやいた。「ありがとう、panda。そして、これからもよろしく、タツコ」
タツコの部屋のカーテンが、ふわりと風に揺れ、朝の光が柔らかく室内を照らしていた。自分のシワだらけの手を見つめるタツコの瞳には、驚きと混乱が浮かんでいた。
その時、インターホンの音が響き、画面に映ったのは、老いた顔をした女性だった。その顔は、昨日までの若々しい真希とは似ても似つかないものだったが、その声は間違いなく真希のものだった。
「タツコさん、おはようございます。真希です」
タツコは、言葉を失った。思わず玄関のドアを開けると、老女となった真希が微笑みながら立っていた。
「驚かせてごめんなさい、タツコさん」
真希は瞳に涙を浮かべながら、タツコに近づいてきた。「実は私も、あの不老不死の、おまじないを使っていました。あなたと一緒に時を止めて、長く一緒にいられたらと思っていました」
タツコは困惑する。「でも、何で今……」
「あなたがpandaとして、新しい人生を歩む姿を見ながら、私も自分自身と向き合っていました。そして、正直に歳を重ねて、タツコさんと一緒に人生を歩むことが、私にとっての本当の幸せなのではないかと思ったんです」
タツコは真希の目を、しっかりと見つめ返した。「真希……ありがとう」
二人は、お互いを抱きしめた。
セットの照明が明るく輝き、中央にはタツコと松下純一が向き合って座っていた。観客席は、このトーク番組のファンや映画ファンで埋まっていた。
タツコが笑顔で言った。「今日は、もはや映画界の巨匠、松下純一監督をお迎えしています。新作映画の話も楽しみにしているんですが、最近話題の謎の新人女優、pandaさんについても伺いたいですね」
松下は、にっこりと笑いながら答えた。「はい、pandaさんとの撮影は、本当に刺激的でした。彼女の演技力には、何度も驚かされました」
タツコは、意味ありげに微笑んだ。「彼女は短期間で、多くのファンを魅了しましたね。私が若かったら、彼女との共演を夢見ていたかもしれません」
松下は真剣な表情になり、タツコを見つめた。「実は、タツコさんを主演に迎えて、新しい映画を撮りたいと思っています」
会場中がざわめく中、タツコは驚いた顔で言った。「私を主演に?」
「はい。あなたの経験とカリスマ、それにpandaさんのようなフレッシュな感じを合わせて、新しい物語を作りたいのです」
タツコは、しばらく考えた後、堂々と答えた。「私は女優も司会者も、100歳を超えても続けるつもりです。だから、そのオファー、喜んで受けさせていただきます」
観客席からは、大きな拍手が上がった。二人の新たなコラボレーションが、多くの人々の期待を胸に秘めて、始まったのだった。
タツコの部屋 何もなかった人 @kiyokunkikaku
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