第7話 死なないということ

 ミュージシャンは、初めての公の場での告白となる話を、複雑な感情を交えて紡いでいった。


「正直、病気が分かったときは、自分の死を想像したんです。それが怖くて……」彼の声は震え、視線は遠くに向けられていた。


 タツコは、温かみのある声で尋ねた。「それは、どんな時期でしたか?」


 彼は深呼吸をして、言葉を選びながら答えた。「治療が始まり、身体的にも精神的にもキツかった時期がありました。その時、何度も、もう死にたいって思ったんです」


 タツコは優しく返答した。「でも、あなたは、ここにいます。どうやって、その困難な時間を乗り越えたのですか?」


 ミュージシャンは目を閉じながら答えた。「音楽と、ファンの皆さんの支えがあったからです。彼らの温かいメッセージや手紙が、私の力になりました」


 スタジオの空気は重く、観覧席の観客も息を呑んで聞き入っていた。タツコの質問は、彼の心の奥底にある感情や考えを引き出すもので、視聴者も、その感動の物語に引き込まれていった。


 番組の終盤、ミュージシャンはアコースティックギターを取り、奇跡的な回復を経て制作した、新曲を披露した。歌詞は彼の経験や感じたこと、感謝の気持ちが込められており、多くの人々の心に響いた。


 タツコは番組の終わりに向けて、感謝の言葉を述べた。「今日、あなたの物語を聞くことができて、私たちは、とても幸せです。ありがとうございました」


 ミュージシャンは笑顔で返答した。「こちらこそ、私の話を聞いてくれてありがとう。そして、皆さんに伝えたかったことが、伝われば幸いです」


 この日の放送は、多くの人々に感動をもたらし、話題となった。



「ありがとうございます! 皆さんのおかげで、こんなに素敵な放送ができました」


 スタッフの一人が、感謝の言葉を述べる。「タツコさん、本当に素晴らしいインタビューでした。ゲストの心の中を、見事に引き出しましたね!」


 タツコは、謙遜しながら返答した。「いえいえ、彼が心の中を開いてくれたからこそ。私はただ、その橋渡しをしただけですよ」


 ディレクターがタツコの方へ近寄ってきて、深く頭を下げた。「本当に、今日の放送は良かった。タツコさんの存在感が、それを可能にしてくれました。感謝です!」


 タツコはディレクターの肩をポンと叩きながら、笑顔で言った。「お疲れ様です。皆さんと一緒に仕事ができて、私も幸せですよ」


 撮影の後の片付けや打ち合わせが始まる中、真希がタツコの元へと駆け寄ってきた。「タツコさん、今日のインタビューは、本当に素晴らしかったです!」


 タツコは、真希に微笑んで言った。「ありがとう、真希。でも、私一人の力ではなく、ここにいる全てのスタッフとの連携があったからこそよ」


 この日も、タツコの明るくて人間味ある性格が、スタジオの中に温かい空気を作り出していた。



 真希は、控え室のタツコの表情が普段とは違い、どこか暗く沈んでいるのに気づいた。普段、周りの人たちを明るく慰めているタツコが、自分の心の中に、こんなに大きな葛藤を抱えているとは、真希も想像していなかった。


 タツコは、深く息をつきながら言った。「真希。私は、もう死ぬことはないのよ。その現実に、どんどん気づかされる。今日のゲストの言葉に、それを思い知らされたわ……」


 真希は、しばらく黙ってタツコを見つめた後、ゆっくりと言った。「タツコさん。今日のゲストとも、心を通わせられたじゃないですか?」


 タツコは、苦笑いをした。「だけど、死ぬのが怖かったっていう彼の気持ちを本当に理解できているのか、自分でも分からないの……」


 真希は、柔らかく返答した。「それでも、タツコさんは御自分の全てを持って、彼に接していました。それは、視聴者も感じ取れたはずです」


 タツコは、涙ぐむ目で真希を見つめた。「ありがとう、真希。でも、この気持ちとは、ずっと向き合っていかなきゃいけない」


 真希は、タツコをハグしながら言った。「私は、ずっとタツコさんの側にいます」


 二人は、それぞれの思いを胸に秘めながら、控え室の静寂に包まれた。



 撮影が終わり、セットを後にするpandaの元へ、先輩俳優たちが集まってきた。彼らの中には、数十年のキャリアを持つベテラン俳優もおり、その存在感にpandaは、少し気圧されてしまった。


「pandaさん、あなたの演技は、本当に素晴らしい」あるベテラン俳優が、真剣な表情で言った。「私たちも、まだまだ学ぶことがあると感じました」


 別の俳優が続けた。「ですから、もしよろしければ、弟子にしてください!」


 pandaは驚きのあまり、言葉を失った。「弟子入りって、私は新人なんですよ?」


 先輩俳優たちは、笑顔でうなずいた。「知ってるよ。でも、演技に年齢や経験年数は関係ない。pandaさんの持っている何かを、私たちも学びたいんだ」


 pandaは戸惑いながらも、感謝の気持ちを伝えた。「そのようなことを言っていただき、光栄です。でも私は、まだまだ学びの途中です。共に学び合うことはあっても、先生や師匠にはなれませんって……」


 先輩俳優たちは、少し残念そうにしながらも、pandaの意志を尊重することにした。


「それでも、お互いに良い影響を与え合えたらいいよね?」ある俳優が、微笑みながら言った。


 pandaは、あえて若々しく返答した。「私もです。これからも、よろしくお願いします!」


 そして、pandaと先輩俳優たちは、互いにエールを交換しながら、撮影現場を後にした。



 夜の道路を照らす街灯が、真希が運転する車の窓に反射しながら流れていく。タツコは前を見つめながら、深いため息をついた。


「今日のこと、本当に笑っていいの?」タツコは、複雑な表情で真希を見た。「私、本当にあれでいいのかな。他の人たちに比べて、私の経験や知識は圧倒的に多いわ。でも、それを活かして演技をするのは、正直ズルをしているような気がしてきて……」


 真希は運転しながらも、タツコに向かって明るく笑った。「タツコさん、それって財産じゃないですか」


 タツコは、少し驚いた顔をした。「財産?」


 真希は、うなずきながら言葉を続けた。「はい。タツコさんが、ずっと努力をしてきたからこそ、今のpandaとしての演技ができているんです。それをズルだと思う必要はないと思います」


 タツコは窓の外を見ながら、自分の気持ちを整理しようとした。「でも、私、他の新人とは明らかに異なる環境で育ってきた。彼らと同じスタートラインにいるわけじゃないのに……」


 真希は少し大胆な表情を見せながら、タツコに告げた。「ズルかもしれない。でも私は、それでいいと思います。私は、世界一の女優を育て上げた、マネージャーになりたいんです!」


 タツコは、真希の真剣な瞳を見つめた。「真希……」


 真希は、にっこりと笑った。「だから、タツコさん。余計な心配はしないでください。私たちは、これからも一緒に最高の道を歩んでいきましょう!」

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