19話 帰国

 翌朝。俺は閒夜まや七岷ななみと朝食を食べてから、グラファルア城前の広場に出た。


𐎌𐎕𐎊𐎔𐎕𐎎……!𐎊𐎕𐎟𐎇𐎟𐎌𐎕𐎍𐎃𐎊𐎇𐎕𐎊𐎎𐎁𐎁𐎕𐎊𐎒𐎃𐎇𐎇𐎕𐎁𐎕𐎐𐎋𐎟𐎊𐎇𐎎𐎕𐎘𐎂𐎎𐎘𐎇𐎌𐎎𐎟𐎁𐎟𐎖𐎄𐎃𐎘𐎂𐎔𐎟𐎇𐎇𐎎……!」


𐎊𐎕𐎊𐎎𐎘𐎎𐎊𐎎𐎁𐎁𐎕𐎊𐎒𐎃𐎇𐎇𐎎𐎟𐎓𐎌𐎃𐎇𐎎𐎏𐎟𐎌𐎖𐎃𐎏𐎎𐎊𐎊𐎕𐎄𐎕𐎖𐎕𐎇𐎃 𐎁𐎕𐎓𐎋𐎊𐎇𐎃𐎌𐎟𐎈𐎃𐎌𐎕𐎏𐎕𐎃𐎇𐎇𐎕


 獣耳ケモミミ連盟を刺激しないように気を付けつつ、ユキとの関係性を適度に示す。当初の目的は達成出来ただろう。それに、密会も。

 昨夜は結局4時近くまで話していて、日の出と共に慌てて部屋に戻ることになったので、兵士だけでなく数人のメイドともすれ違った。反省点こそあるものの、とても楽しい時間だったし、充実していた。


𐎐𐎋𐎟𐎊𐎇𐎎𐎟𐎏𐎕𐎋𐎁𐎕𐎎𐎓𐎘𐎕𐎃𐎖𐎇𐎌𐎃𐎂𐎎𐎊𐎃……!𐎊𐎏𐎟𐎌𐎎𐎁𐎕𐎇𐎟𐎘𐎟𐎌𐎟𐎏𐎌𐎟𐎊𐎇𐎎𐎋𐎘𐎃𐎖𐎇𐎌𐎎𐎕𐎘𐎂𐎎𐎘𐎇𐎌𐎎……!𐎘𐎎𐎘𐎈𐎟𐎁𐎎𐎖𐎎𐎌𐎃𐎂𐎔𐎟𐎃𐎌𐎌𐎕𐎈𐎕𐎕𐎖 𐎓𐎕𐎎𐎌𐎘𐎎𐎕𐎘𐎂𐎋𐎕𐎏𐎎𐎇𐎌𐎟𐎍𐎎𐎕𐎘𐎂𐎎𐎘𐎇𐎌𐎃𐎌𐎂𐎕𐎁𐎕𐎘𐎋𐎎𐎈𐎎……!」


𐎘𐎎𐎘𐎈𐎟𐎁𐎎𐎖𐎎𐎌𐎃𐎃𐎘𐎂𐎔𐎕𐎎𐎌𐎕𐎏𐎌𐎎𐎓𐎌𐎃𐎍𐎍𐎕𐎃𐎍𐎎𐎖𐎃𐎁𐎃𐎇調𐎃𐎕𐎘𐎋𐎘𐎊𐎟𐎂𐎎𐎘𐎁𐎎𐎍𐎎𐎍𐎟𐎘𐎇𐎎


𐎔𐎍𐎍……!」


 最後にユキと握手をして、車に乗り込んだ。

 窓から見える雪に覆われた三角屋根のレンガの建物や、煙突から上がる煙。この風景もしばらく見られないだろう。






 ――ポーン


「二人とも。少し考えたいことがあるから、仮眠室で横になる。一人にしてくれ」


「分かりました。昼食が出来たら声を掛けますね」


「ありがとう」


 政府専用機が無事に離陸し、シートベルトの着用サインも消えたので、仮眠室に移動して横になる。

 考えるのは獣耳ケモミミ連盟の首脳、ネハルノ・ニャナ・スタシラ大統領のこと。彼女は、俺が知る限り最も優れた政治家だ。


 スタシラ大統領は常に無感情で演技をしている。いや、あれは体を動かしているだけと言うべきかもしれない。無感情の演技なんて本来ならどこか機械的になってしまう筈だが、彼女の場合は体の全てを完璧に操ることで自然に見せている。尻尾や耳はもちろん、その毛先、さらに涙や汗の量まで意のままに操るのだ。

 俺も演技で泣くことは出来るが、泣く場面を想像して実際に泣いているだけ。彼女の場合は腕を伸ばすのと同じように、涙を流すというをしている。

 しかも、彼女の演技は揺らがない。猫耳族ネコミミンへの差別が残る中での選挙活動は酷いものだった。罵声を浴びせられ、ゴミを投げられ、集団暴行や放火、暗殺未遂の被害にも遭っている上に、同じ境遇である猫耳族ネコミミンに襲われる事件もあった。

 そんな逆境に立たされていようと、彼女は常に無感情のまま体を動かしていた。猫耳族ネコミミンに襲われているであろうとそれは変わらない。

 俺がそのことに気付いたのだって、協力を頼むにあたって彼女のことを知ろうと、私生活の監視をしていた時だ。入浴中のスタシラ大統領の匂いに微かな違和感を覚え、注意深く嗅いでようやく気付くことが出来た。涙や汗まで操れる人が居る訳ないと、初めて自分の嗅覚を疑った瞬間でもある。

 それからミリィに頼んでスタシラ大統領を徹底的に監視して、演技の癖から多少の気分くらいは読み取れるようになったものの、彼女の強みは頭の回転の速さや自由奔放な姿勢など、他にも多い。


 昼に行われる会談はもちろん、深夜には公邸に侵入して夢への協力を頼む予定なので、スタシラ大統領とのあらゆる会話を想定してから挑みたい。






 ――コン、コン


莅塩りしお大統領?ご飯が出来た、です」


「……ありがとう、七岷。すぐに行くよ」


 思考を中断して、上体を起こす。少しふらつくが、集中した時はいつもこうなので、そのまま仮眠室から出る。


「莅塩大統領。量はこちらでよろしいですか?」


「ああ。ありがとう」


 昼食は予定通りクリームシチューだった。

 レオディヌエ龍帝りゅうていでの食事は美味しいが、胃への刺激は大きい。そして、獣耳ケモミミ連盟では肉食が禁忌とされているので、獣耳ケモミミ連盟に向けて出国する今夜から数日間はお肉を食べられない。

 そんな二つの国の食文化から決めたメニューだ。

 

 ――パシャッ


 俺は写真を撮り、忙しかったので秘書が作ってくれたという内容と共にSNSに投稿してから、手を合わせる。


「「「いただきます」」」


 スプーンで口に運べば、玉ねぎや人参の甘味や鶏肉の旨味が口に広がった。とても美味しい。時間はそこまで掛けてない筈だけど、しっかり素材の味が引き出されている。


「……うん。すごい美味しいよ」


「ありがとうございます」

「ありがとうです」


 二人は、少し自慢げに微笑んだ。






「……莅塩大統領。その、ありがとうです。レオディヌエ料理を食べられるなんて、思いもしなかったです」


「そんな感謝されるようなことはしてないよ。俺の方こそ、秘書として支えてくれてありがとう。これからもレオディヌエ龍帝りゅうていとの会談はあるだろうし、また同行してくれると助かるよ」


 食べ終えて少しすると、突然七岷に頭を下げられた。

 確かに、海外旅行というハードルはとても高い。まず言語の壁がある上に、ビザの審査や金銭面の問題もある。

 だが、これらは需要の少なさが原因の一つだ。伍木国ごもくこくに限らず国外旅行に行きたいという人が少ないから、言語習得の壁も高くなり、数少ない飛行機の価格も跳ね上がる。国外旅行への需要を増やせば、自然とハードルも下がる筈だ。


「はいです。本当に、ありがとうです」


「まあ、どういたしまして」


 七岷の為にした訳でも無いので、感謝されても正直困るし、こちらを見ている閒夜が姉目線になっている気がして、正直困る。困った。

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