19話 帰国
翌朝。俺は
「
「
昨夜は結局4時近くまで話していて、日の出と共に慌てて部屋に戻ることになったので、兵士だけでなく数人のメイドともすれ違った。反省点こそあるものの、とても楽しい時間だったし、充実していた。
「
「
「
最後にユキと握手をして、車に乗り込んだ。
窓から見える雪に覆われた三角屋根のレンガの建物や、煙突から上がる煙。この風景もしばらく見られないだろう。
――ポーン
「二人とも。少し考えたいことがあるから、仮眠室で横になる。一人にしてくれ」
「分かりました。昼食が出来たら声を掛けますね」
「ありがとう」
政府専用機が無事に離陸し、シートベルトの着用サインも消えたので、仮眠室に移動して横になる。
考えるのは
スタシラ大統領は常に無感情で演技をしている。いや、あれは体を動かしているだけと言うべきかもしれない。無感情の演技なんて本来ならどこか機械的になってしまう筈だが、彼女の場合は体の全てを完璧に操ることで自然に見せている。尻尾や耳はもちろん、その毛先、さらに涙や汗の量まで意のままに操るのだ。
俺も演技で泣くことは出来るが、泣く場面を想像して実際に泣いているだけ。彼女の場合は腕を伸ばすのと同じように、涙を流すという動作をしている。
しかも、彼女の演技は揺らがない。
そんな逆境に立たされていようと、彼女は常に無感情のまま体を動かしていた。
俺がそのことに気付いたのだって、協力を頼むにあたって彼女のことを知ろうと、私生活の監視をしていた時だ。入浴中のスタシラ大統領の匂いに微かな違和感を覚え、注意深く嗅いでようやく気付くことが出来た。涙や汗まで操れる人が居る訳ないと、初めて自分の嗅覚を疑った瞬間でもある。
それからミリィに頼んでスタシラ大統領を徹底的に監視して、演技の癖から多少の気分くらいは読み取れるようになったものの、彼女の強みは頭の回転の速さや自由奔放な姿勢など、他にも多い。
昼に行われる会談はもちろん、深夜には公邸に侵入して夢への協力を頼む予定なので、スタシラ大統領とのあらゆる会話を想定してから挑みたい。
――コン、コン
「
「……ありがとう、七岷。すぐに行くよ」
思考を中断して、上体を起こす。少しふらつくが、集中した時はいつもこうなので、そのまま仮眠室から出る。
「莅塩大統領。量はこちらでよろしいですか?」
「ああ。ありがとう」
昼食は予定通りクリームシチューだった。
レオディヌエ
そんな二つの国の食文化から決めたメニューだ。
――パシャッ
俺は写真を撮り、忙しかったので秘書が作ってくれたという内容と共にSNSに投稿してから、手を合わせる。
「「「いただきます」」」
スプーンで口に運べば、玉ねぎや人参の甘味や鶏肉の旨味が口に広がった。とても美味しい。時間はそこまで掛けてない筈だけど、しっかり素材の味が引き出されている。
「……うん。すごい美味しいよ」
「ありがとうございます」
「ありがとうです」
二人は、少し自慢げに微笑んだ。
「……莅塩大統領。その、ありがとうです。レオディヌエ料理を食べられるなんて、思いもしなかったです」
「そんな感謝されるようなことはしてないよ。俺の方こそ、秘書として支えてくれてありがとう。これからもレオディヌエ
食べ終えて少しすると、突然七岷に頭を下げられた。
確かに、海外旅行というハードルはとても高い。まず言語の壁がある上に、ビザの審査や金銭面の問題もある。
だが、これらは需要の少なさが原因の一つだ。
「はいです。本当に、ありがとうです」
「まあ、どういたしまして」
七岷の為にした訳でも無いので、感謝されても正直困るし、こちらを見ている閒夜が姉目線になっている気がして、正直困る。困った。
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ラブコメ首脳会談 炭石R @sumiisi
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