18話 共通点

「ユキ、起きて」


 余分なオイルも拭き終えたので、ベッドから降りて、目を瞑ってからユキを起こす。いくら寒さに強い黒龍族アルピヌといえど上半身裸のまま寝るのは良くないし、何よりマッサージで温まった体が冷えてしまうのは勿体ない。


「……しお。ありがと……。とても気持ちよかった……」


「どういたしまして」


「今日はいつまで一緒に居られる……?」


「特に決めてないけど、ユキは仮眠してないだろうし2時には帰ろうと思ってるよ」


 いつもと違って時間に余裕があるものの、この密会がユキの睡眠時間を削って行われていることに変わりはない。

 それに、まだ12時30分だ。2時に部屋に戻ったとしても、いつもの倍以上の時間をユキと過ごせる。


「やった……!朝まで一緒に居られる……!」


「俺の話聞いてた?」


 しかし。何を思ったのか、ユキは嬉しそうに声を上げた。


「私は一日くらい眠らなくても平気……!寝ないつもりだったから今日は公務を少なくしてるし、決闘もない……!いいでしょ……?」


 今回の密会はいつもと違い、俺に急用が入って中止になる可能性が限りなく低く、二人きりで時間も長い。何かしら考えているだろうとは思っていたが、予想以上に用意周到だな。


「……分かった。その代わり、俺が帰ったあとでいいから少しでも体を休めてくれ」


「うん……!じゃあ、寝間着になるね……?見たらだめだよ……?」


「分かってる」


 目を瞑ったままユキに背を向ける。どうやら、新しい寝間着みたいだな。

 ユキは下着姿どころか裸を見られそうになっても気にしないし、むしろ見せようとしている節すらあるけど、新しい服に着替える時だけは例外だ。

 しっかりと身に纏ってからお披露目したいらしい。




「もういいよ……。こっち見て……?」


 衣擦れの音を聞き流すこと数分。

 着替え終わったようなので振り向くと、ユキがゆっくり回って全体を見せてくれた。シンプルだが、もこもこした桜色の生地がユキの魅力をさらに引き立てている。とても可愛い寝間着だ。


「似合ってる。可愛いよ」


「嬉しい……!これからは会談で格好いい服を見せられるし、寝間着は可愛い服にしたの……!」


 ……そういうことだったのか

 今までのユキの寝間着は革が使われていたり、背中が見えていたりと、寝間着らしくないものが多かった。密会でしか会えない分、工夫をしてくれていたらしい。


「そっか。これからの会談の服も、寝間着も楽しみにしてるよ」


「うん……!」


 ユキがもう一度くるりと回ってからベッドに腰掛けたので、俺も隣に座る。


「前の密会から、何か変化はあった?」


「この国も周辺の国も変化は特に無いかな……。私は公表してないけど、やっと200ディリラのバーベル上げられた……!」


「え、すごいな!!」


 ディリラは重さの単位で、1ディリラが約15.3キログラム。つまり、3トン超のバーベルを持ち上げたということだ。

 黒龍族アルピヌの平均記録は90ディリラほどなので、本当にすごい。


「もっと褒めて……?」


「本当に凄いよ」


 頭を向けてきたので、優しく撫でる。

 普段のユキは帝王として振る舞っていて、帝王になった今でも弛まぬ鍛錬を続けているのを知っているので、こうして甘えられるとつい甘やかしてしまう。






「あ、あとミリィから聞いてると思うけど、カルと二人で話したよ……?」


「ああ、聞いてるよ。何を話したんだ?」


 少しの間ユキを撫で続けていると、思い出したかのように口を開いた。

 カルはシャローラン凰立学園で出会った友人であり、シアタキミ王国の総理大臣だ。俺の夢にも協力してくれているので、時間を合わせて二年ほど前にユキとも顔合わせをして、それから何度か話している。


「知りたい……?」


「無理にとは言わないけど、そりゃあ気になるよ」


 ユキとカルの仲は悪くないが、シアタキミ王国とレオディヌエ龍帝りゅうていの関係は最悪と断言していい。

 なんせ過去に戦争をしていた二ヶ国であり、特に敗戦国であるシアタキミ王国は種族ごと奴隷として扱われ、王家は戦時中の激しい戦闘、そして戦後の流行り病によって途絶えた。王の居ない王国。その怨嗟は深く根付いている。

 カルが過去の惨劇とユキとの関係を分けて考えてくれたからこそ実現した二人の交流。それ自体が歴史的にも大きな一歩なのだ。


 密入国にはミリィの協力が必要不可欠なこともあり、ユキとカルが二人で話したのは初めてだ。純粋に興味が湧くし、種族間での交流を深めていく手掛かりにも成り得るだろう。


「じゃあ、教えてあげる……。こっち向いて……?」


「ああ」


 少し疑問に思いながらも従うと、ユキが俺の頬に手を添えてきた。


「好き……。大好き……。心の底から愛してる……」


 そして、目をじっと見つめながらの熱い告白。


「…突然どうしたんだよ」


「えへ、照れてる……?これがカルと話したことだよ……?詳しくは教えてあげないけど、しおを誘惑する方法……!」


 ……確かに共通の友人の話をするのは当然だし、カルはそういった話題が好きだ。けど、他に何かなかったのか……。

 黒龍族アルピヌ吸精族サキュバスは系統こそ違えど、服装へのこだわりが強い傾向にあるから、服の話題でも仲が深まりそうな気がするが。

 まあ、女性が恋愛の話を好む傾向にあるのは世界共通ということだろう。


「まあ、仲良くやれてるようで何よりだよ」


「当然……!いつかのお嫁さんになるんだから、仲良くしたいもん……!」


「……そうか」


 今日のユキはいつも以上に自分をさらけ出して、ぐいぐい来る。そういった誘惑の仕方が効果的だとカルに教わったのだろう。

 少し困るが、今後も欲に負けないよう耐える。それしかない。






ⓡⓡⓡ


先週の投稿はおやすみしました。

結局ストックは0のままですが、これからものんびり書いていく所存です。

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