第64話 あたしを誘いなさい レギーネ視点
【レギーネ視点】
「そろそろ学園祭の季節ね……」
「うん! 楽しみー!」
放課後の教室で、あたしはリーセリアと話していた。
「レギーネは誰と学園祭を回るの?」
「うーん……どうしようかなぁ」
学園祭まで後一週間。
大半の令嬢たちは、すでに一緒に回る相手を見つけていた。
でも、あたしはまだ見つけていない……
「リーセリアは……?」
「あたしは婚約者と回るつもり。本当はアルフォンス様がよかったけど……っ!」
リーセリアは正直だ。
いや、正直すぎると言っていい……
あたしはここまで正直になれないと言うか。
「アルフォンス、ね……」
一応、あたしの婚約者はアルフォンスだ。
本来ならアルフォンスが誘ってくれるはず……なのよね?
だけどあのクズはまだ、あたしを誘いに来ない。
それどころか、あたしに会いにも来ないわけで——
「ふざけんじゃないわよ……っ!」
「レギーネ?!」
「あ、ごめん……! 何でもないわ……」
ついついあたしは熱くなって叫んでしまう。
それもこれも全部アルフォンスが悪い。
アルフォンスがあたしを無視するのが悪い。
絶対に許せない……っ!
「でも、レギーネも早く相手を見つけないとね」
「そうなのよねぇ……」
「レギーネから誘いに行けば?」
「えっ? そんなの嫌よっ! 令嬢のほうから誘いに行くなんて……」
令嬢は令息から誘われるのを待つ。
それが貴族社会の常識。
「別に誰にも誘われてないわけじゃないから」
「そうなの? 誰に誘われたの?」
「公爵令息に誘われたけど……断った」
「ええ……っ! もったいない!!」
たしかにリーセリアの言う通り、「もったいない」かもしれない。
公爵令息は、貴族の中の序列では、王族に次に位置する爵位。
普通の令嬢なら、喜んで一緒になるに違いない。
だけど――
「なんだかピンと来なかったの」
「そうなんだ……もしかしてレギーネは、一緒に回りたい人がもう――」
「えっ?! いないわよ! そんな人!」
もうアルフォンスが早く来てくれたらいいのに……
アルフォンスが誘いに来たら、もちろん断わってやる。
あたしをここまで待たせたのだから当然だ。
アルフォンスが泣いて土下座したら考えてやらないこともないけど。
「失礼します。あなたはレギーネ様ですか?」
あたしとリーセリアが話していると、背後から声をかけられた。
メイドが手紙を持っている。
「そうだけど……何の用かしら?」
あたしがそう言うと、メイドは、
「レギーネ様へお手紙をお持ちしました」
メイドは持っていた手紙をあたしに差し出す。
「ありがとう。えーと……誰からかしら?」
あたしが手紙の裏を見ると、
「これは……ジーク・マインドから?!」
「ええっ?! ジークさんから!!」
隣にいたリーセリアも驚く。
ジーク・マインドと言えば、えーと……誰だったかしら?
……そうだ!
思い出した!
前にキモイ手紙をくれたヤツだ……
「ジークさんって、前に変な手紙をくれた人だよね。今度はいったい何だろう?」
リーセリアもかなり引いた顔をしている。
前にもらったキモイ手紙のことを、思い出しているみたいだ。
「レギーネ、読んでみたら……?」
「い、イヤよ……絶対にまたヤバいこと書いてあるじゃない!」
あたしの背中がゾワゾワしてくる……
あと少しで学園祭だ。
そして男性から令嬢に送る手紙と言えば……
たぶんだけど――
「でも、何が書いてあるか気にならない?」
「うん……それは気になるけど」
たしかに怖いけど手紙の中身は気になる。
あたしは手紙をそのまま捨てようと思っていたけど、やっぱり中身を見ておいたほうがいいかもしれない。
せっかくリーセリアも隣にいるし……
「わかったわ。読んでみましょう」
あたしは意を決して、手紙を開けてみる。
そこに書いてあったことは――
愛するレギーネへ
一緒に学園祭を回ろう。
当然キミは、俺から誘われることを望んでいたはずだ。
俺のために、他の男を断っていたね。
ありがとう。
なんてキミはかわいいんだ……
学園祭でずっと一緒にいようね。
ジーク・マインドより
「やっぱりね……」
だいたい予想はついていた。
ジーク・マインドは、あたしを学園祭のパートナーとして誘っている。
……マジでキモイ。
前の手紙と言い、いったいこの男は何を勘違いしているのか?
どうしてあたしが、ジークのことを好きなことが前提なのよ……
背筋が凍るぐらい冷たくなる。
本当にキモイし、死んでほしい。
「ジークさん、レギーネのことを誘ってるね。どうするの?」
リーセリアがあたしに聞いてくるが、
「絶対に無理よ! 絶対絶対、お断りよ……っ!」
「そうよね……」
ジークと一緒に学園祭を回るなんてあり得ない。
学園生どころか、一秒だって一緒にいるのもイヤなのに……
「でも……どうやって断るの? 他にもう相手がいるって言う?」
「何言ってんの! こんなの無視するに決まっているじゃない!」
「あ……この手紙をよく読むとさ、ジークさんはレギーネに相手がまだいないことを知っているんじゃない?」
「え……?」
あたしはジークの手紙をもう一度、読み直してみる。
「俺のために、他の男を断っていたね」――こう書いてある。
これって……ジークはあたしの行動を知っているってこと?
「ウソでしょ……」
あたしの中で恐ろしい答え合わせがされていく……
ジークは今まで、あたしのことをずっと見ていたのだ。
ウソだ……
ウソだ。
ウソだ。
あたしの心臓は、悪い意味でバクバクしまくる……
「ジークさん、本当にレギーネのことが好きなんだね。気持ち悪いけど」
「やめてよ! 考えただけでも吐き気がするのに」
もうこうなったら、あたしは相手を見つけないといけない。
このままだと。ジークと一緒に学園祭を回ることになりかねない。
本当にそれだけはイヤだ。
絶対にイヤ……っ!
「レギーネも早く相手を見つけないと大変ね……」
「ぜんぶこのジークのせいよ」
★
【アルフォンス視点】
「アルフォンス様……! レギーネ様が来ましたよ!」
リコが俺に声をかけてきた。
俺の寮の部屋に、レギーネがやってきたらしい。
いったい何の用だろう……?
ダンジョンから帰ってきて以来、レギーネとはまったく話していなかった。
ていうかレギーネが俺を避けているような気がしている。
レギーネとは何を話していいかわからないな……
「……アルフォンス、あたしが来たのよ」
「うん。そうだな」
「そうだなって……何か言うことはないの?」
「……? 全然、わからないのだが……」
「今までレギーネちゃんを無視してごめんなさい、って言いなさい」
「はあ?? なんで俺がそんなことを……?」
レギーネのほうから俺を避けていたのでは?
学園で会った時に俺が挨拶しても無視していたのはレギーネなわけで……
「無視していたのはレギーネでは……?」
「それはアルフォンスがあたしを無視するからよ! 全部アンタのせいよ!」
「はあ……」
まあいつものレギーネと言えばそうだ。
いつも俺に対して理不尽だし。
よくわからないけど、ツンツンしているし。
「……で、何の用だよ、レギーネ?」
「……何よ。せっかく婚約者が会いに来たのよ! 紅茶くらい出しなさいよ!」
「はあ……わかったよ。リコ、紅茶を頼む」
俺はリコに紅茶を持ってくるように頼んだ。
「ふふふ! わかりました!」
なんだか嬉しそうにするリコ。
この状況の何が嬉しいのかまったくわからん。
レギーネが来てもめんどくさいだけなのに……
「早く要件を言えよ」
「……っ! それが婚約者に対する態度なわけ……っ!」
「それはこっちのセリフだって……」
「もう! 何よ! せっかくあたしが来てあげたのに~~っ!」
レギーネはテーブルをバンバン叩きながら怒る。
やれやれ……
もうめんどくさいことになってきたなあ……
「はいはい。何の御用ですか? レギーネお嬢さま」
「…………もうすぐ、学園祭よね?」
「そうだな」
「そうよね。あと一週間後、学園祭よね……?」
「うんうん」
「…………もうっ! 察しが悪いわねっ! バカフォンスっ!!」
バンっと、またテーブルを叩くレギーネ。
何を察してほしいのか。
まったくわからないのだが。
「アルフォンス様……少しこちらに来てください」
俺はリコに腕を掴まれて、トイレのほうへ連れて行かれる。
「レギーネ様は誘ってほしいのだと思います」
「誘ってほしいって……?」
「ほら、もうすぐ学園祭でしょう。一緒に学園祭を回るお相手が必要です。ですから……」
「レギーネ様は……アルフォンス様に誘ってほしいです。学園祭のお相手に」
「ええっ?! それはないよ。だってレギーネは俺のこと嫌いだし……」
「違います。あれは……まあちょっとめんどくさいですけど、レギーネ様なりにアルフォンス様のことが好きなのです」
マジで信じられない……
レギーネは俺のことを嫌いなはず。
ていうかレギーネからはストレートに「嫌い」と言われてきたし。
「いやいや、レギーネは、俺は嫌いだから」
「それはその……レギーネ様は素直じゃないのです。だから、ここはアルフォンス様からレギーネ様を誘ってあげればいいかと」
「うーん……」
あまり納得はできないけど、リコがそう言うなら試してみるか。
リコは俺が信頼しているメイドだ。
それに、レギーネのことも子どもの頃から見ている。
そんなリコが言うのだから、試す価値はありそうだ。
「わかったよ。やってみる」
「はい! 頑張ってくださいっ! きっとレギーネ様はアルフォンス様を待っていますから」
俺はリコとトイレの近くで話した後、レギーネのところへ戻る。
顔を赤くしながら、もじもじするレギーネ。
たしかに何かを待っているようにも見えるな……
「レギーネ……俺と一緒に――」
コンコン……っ!
寮のドアを叩く音がする。
誰か来たようだ。
「アルフォンス! 会いたかったです!」
訪ねてきたのは、オリヴィアだった。
「オリヴィア……昨日、会ったばっかりじゃん」
普通に昨日の授業で、オリヴィアと普通に会っていたのだが……
「えー半日もアルフォンスと会ってなかったんですから。アルフォンス成分が不足していました」
オリヴィアが俺に抱き着いてくる。
最近、オリヴィアの俺に対するスキンシップが激しい。
本当に激しすぎるぐらい激しい。
王女さまなのにいいのだろうか……?
もうちょっと自分の影響力を考えてほしい。
「つっ!!」
レギーネがまた顔を赤くしている。
今度はなんか怒っているような……?
「オリヴィア様……アルフォンスには婚約者がいるんですよ! 婚約者のいる令息に抱き着くなんてはしたないと思いますっ!」
レギーネはオリヴィアに注意するが、
「あら。別にいいじゃないですか。わたしとアルフォンスは友達なんですから、これぐらい普通です」
「全然普通じゃないです! アルフォンスだってイヤがってるじゃないですか!」
「へえ……? アルフォンス、わたしに抱き着かれるのはイヤですか?」
レギーネとオリヴィアの視線が、俺に集まる。
「いや、別にイヤっていうわけじゃないけど……」
「ですよね! 聞きましたか、レギーネさん? アルフォンスはわたしに抱き着かれて、すっごく嬉しいそうですよ!」
「ぐぬぬぬ……アルフォンスのバカぁ!」
レギーネが俺の腹をパンチする。
これ、俺が悪いのか……?
ていうか地味にレギーネの腹パンは痛い。
「アルフォンス、わたしたち学園祭でお店をやりませんか?」
オリヴィアがニコニコしながら言う。
「お店……?」
「せっかくの学園祭なんですよ! 二度とない青春なんです。だからわたしたちも何かやりたいんです!」
「そうかあ……」
たしかに学園祭だから何かやってもいいかもしれない。
原作でもオリヴィアルートでは、主人公のジークと一緒にお店をやる。
お菓子を出すお店をやるんじゃなかったけ……
そこでジークはオリヴィアの好感度を上げていく感じだ。
「で……どんな店をやるつもりなの?」
原作だとお菓子の店をやることになっていたが、
「これです……っ!」
オリヴィアが取り出したのは――メイド服。
「もしかして……メイド喫茶をやる気か?」
「その通りです! わたし、一度メイドさんやってみたかったんですよね~~」
王女さまがメイド喫茶……
そんなことして大丈夫なのか。
「アルフォンスは執事の服を着て、それで……あっ! レギーネさんも一緒にどうですか?」
「えっ? あ、あたし……?」
突然話を振られたレギーネが驚く。
「メイドさんがわたしだけだと寂しいですし、レギーネさんもやりましょう!」
「でも……令嬢がメイドの仕事するなんて」
「きっとメイド服、とっても似合いますよ!」
「そう……かしら」
目をキラキラさせながら、レギーネを褒めるオリヴィア。
レギーネもまんざらじゃない顔をしている。
「ふふ! じゃあ決まりですね!」
オリヴィアに強引に押されて、俺とレギーネはメイド喫茶をやることになった。
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※後書き
久しぶりの更新すみませんっ!
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エロゲの親友キャラに転生した俺、主人公のハーレムを奪ってしまう〜親友キャラなのにヒロインたちとカラダの関係になってしまった〜
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